彩食祭-9
結局ふたりは彩食祭での狩猟者になることを目指す以外は考えられなくなっていた。
「とはいえ…俺は別に強くないんだけど…」
「言ってたじゃないか。凍結できる方、とか」
「やっぱり? 俺みたいに氷の魔法を使うのかな」
「魔法師団も面白そうだね」
「意外とあっさりいるんだなって思うとちょっと悔しい」
「ははは」
それからは来る日をなんとなく過ごすうちに、水の季節に入った。
水の1日目。噴水広場の各通りの案内板は見えなくなるほど多くのチラシが貼られていたり、近くに石をおもりにして置かれていたり。
それが彩食祭に一品出そうとする店や料理人達によるものだと理解することは容易であった。
「すげー。こんなに参加するのか」
思わず口から感想が零れ出る。エクトルはあるだけチラシを取って、宿屋でゼナイドと相談しようと決めた。
「ま、当日までに間に合わずに不参加という場合も結構多いですが」
「ああ。まあなんというか、大会用となると難しいモンもあるだろうからな…あ?」
声のする方を向くと、見覚えのある女性。モルガ食堂にいた「エル…さん」だった。
「エルメリーナです。エルメリーナ・モルガ」
エルことエルメリーナはエクトルの持つチラシの束を見て、自分も持っていたチラシの1枚を差し出した。
「あ、ああ…モルガ食堂も参加するんですね」
「母がやる気でして」
「エル…メリーナ…さんは?」
「呼びやすい方で結構です。私は基本的に彩食祭には興味がありません」
「じゃあエルさんは料理はしないのか? 店に行った時も思ったんだが」
「母の方が腕は間違いありません。人様に出すものは半端なものでは駄目でしょう。だから私はしません」
「修行中ってワケか、まあそのうち、アンタが継ぐんだろうしな」
「さあ。モルガ食堂を必ずモルガの者が継ぐ、といった決まりはありませんから、ハイとは言えません」
エルメリーナの表情は少しだけ苦そうな様子を見せていた。
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