星の砂-34
ゼナイドの行き先は、ディリガが出したという銀の民の研究専門家の手紙の返事次第だった。
その行き先はレッハルトではない可能性はある。レッハルトである可能性もある。
大都市レッハルト付近は、総じて発展した都市が多い。リルレに家のあるディリガや、田舎の方から出てくるキノが珍しく、レッハルトにいるであろう大半の研究者や魔術師達は、その辺の地域出身が多いという。
ゼナイドは、ディリガを探してリルレへやってきた。ゼナイドは、最初からレッハルトを目的とした旅をしていなかったはずだ。
エクトルは、キノへの返事に「ゼナイドはレッハルトじゃないと思う」と、咄嗟に言ってしまったのだった。
「そうですか…いえ、良いので。今のはキノの甘えですので。優秀な魔法師団候補なれば、街道を突っ切るくらいの能力、度胸は必要か…!」
「いや無茶すんなよ」
冗談とでも言えたらいいのだが。その言葉だけは何故か、言えないでいた。嘘になるかもしれないし、本当のことかもしれない。そういうことを、エクトルは言ってしまった自覚があった。
「では。ごちそうさまでした。美味しかったです。またリルレに来たら、必ず寄りますので」
結局キノは迂回ルートか最短ルートか、悩みながら店を後にした。
それから閉店までぼんやりとしながら時間は過ぎ、ローハとふたりで作業を終えて、ひとりで帰路を歩く。
ゼナイドももうすぐリルレからいなくなる。わかっていたはずのことを、理解することに時間を要した。
行ってほしくないのだろうか。けれどそれは、旅人である彼らには通じない。
キノは魔法師団へ入団できれば嬉しいし、ゼナイドも、銀の民を知る手がかりを得ることができるのであれば、やはり嬉しい。
さみしいのだろうか。そうかもしれない。あのふたりとは、随分時間を共に過ごした。それが、さみしくさせているのだ。
そう納得させた。そうでもしないと、今は何かに押しつぶされそうだった。
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