星の砂-30
青い太陽がてっぺんまで昇った時、エクトルは目を覚ました。全身に微妙な重みを感じたり、所々打ち身の痛みを感じる。
応急処置はトウナが十分にしてくれているようだった。相変わらずよく気が回るな、と感心しながら、身体に無理のないようにのっそりと動き出す。
「ディリガ!?」
居間に辿り着くと、紙束や本を机いっぱいに広げたディリガがいた。エクトルの声に驚いた様子も見せず、にっこりとした表情でエクトルの方を向く。「ただいま、エクトル。おはよう」
「悪い、大きい声で。おかえり…いつ帰ってきたんだよ?」
「さっきかな」
「トウナには?」
「会ったよ、一通り聞いた、ははは。エクトルもぼろぼろだね」
「じゃあさっきは嘘じゃん…」
エクトルは辺りを確認する。ゼナイドの姿が見えないことに不安を抱いた。
「ゼナイドくんにも、会ったよ」
「銀の民について、なんかわかったのか?」
「僕は専門じゃないから、参考になるかわからないけど資料をいくつか探してね」
「ゼナイドは、なんかわかってそうだった?」
「うーん、資料が大概だったから、満足そうではなかったよね」
「じゃあ今、アイツ…」
ディリガが言葉を発さないことが、余計に不安を掻き立てる。「お休み中だよ。トウナの部屋で」
それからトウナにも言った、銀の民の研究を専門にやっている相手へ手紙を送り、その返事までは家にいてもらうことを説明した。「なんだ、よかった」
「へえ、エクトルとも仲良しさんなんだね」
「まあ。なんだかんだしばらくいるからなぁ」
ディリガが笑いながら立ち上がって部屋に戻る。机に広げられた資料に目を落としてみるが何もわからなかった。
少しして、ディリガが腕を後ろにして戻ってきた。何か隠しているようだった。
「あのね、今回、ミーティーの里に行ってきたんだ」
「ああ。荒れてから経ったし、現地調査ってことか」
「そう。なんだか、墓荒らしみたいなことして申し訳ないんだけど」
「思わないよ。どうせヒトは死喰虫に食われてるし」
「エクトルはそう言うと思った」
ディリガは今回の調査で、崩れた里から辛うじて残っている建造物や、文化品などを探索したらしい。ミーティーは余所者を嫌う傾向が強く、当時の研究チームは、実は2日で追い出されていた。
ミーティーが絶対に入らせてくれなかった建物を中心に、けして無事ではないが資料となるものをかき集めていた。
同時に、ディリガはエクトルのかつての家を見つけたと言う。
「僕は、正直ミーティー達とあの時はあまり話せなかった。エクトルのお母さんや妹さんは見かける程度だったんだけど」
ディリガは隠していたものを差し出す。青色の、ところどころがほつれたマフラー。マフラーの端は、随分汚れている。エクトルは、記憶を揺さぶられた。
「妹さんがつけてたよね、地面に引きずりながら」
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