星の砂-20

 ゼナイドは、スナクイリスの群れを見つけていた。


「へえ。スナクイリスは群れで砂漁りをするんだな」思わず声に出して感心した。


 大量のスナクイリス。全員を捕まえるのは難しいだろうが、せめて5匹は頑張りたい。手に持つ剣をそっと置き、その辺に落ちてあった手頃な木の枝と石を掴む。


 これだけスナクイリスが砂を頬張る地面の砂には、星の砂がなかなかあるのではないか、と根拠のない期待を膨らませる。


 一番多くスナクイリスが集まっている場所へ狙いを定め、頭辺りに石を叩き込もうとした時だった。


 スナクイリスの集団の上に、大きな影が現れた。かと思えば、周りの木にいたであろう鳥達が飛び立つ。異変を感じたスナクイリスが逃げ始める。


 上を見上げた。まんまるとした、野性的な瞳が印象的の鳥型の獣がいる。


 欲張って頬張りすぎたスナクイリスはスピードが遅かった。鳥獣の足が、スナクイリスの背中を襲う。


 身体に似合わない大きな両足は、それぞれ2、3匹のスナクイリスを掴むと、鳥獣が大翼で自身の身体を持ち上げる。


 はばたきから発せられた突風に、咄嗟に剣を掴む。同時にゼナイドは吹き飛ばされるように背中から倒れた。そのタイミングで鳥獣はゼナイドの存在に気付いた様子で、足に力を込めて掴んでいたスナクイリスに止めを刺す。


 足から力無く落ちていくスナクイリス。頬張っていた砂は、地面に打ち付けられると同時に吐き出された。



「あの砂利の中に星の砂が、と呑気に言える状況ではないか」



 鳥獣は真っ直ぐにゼナイドの方へ飛んできた。久々に獣と戦う、とゼナイドは気を引き締めてまずは避ける。


 幸いか、地形はあまり開けていない。木が良いように視界や動線を妨げる。それに鳥獣はそんなに機転の効く奴ではないと判断した。


 予想通り鳥獣は避けた先に構わず、飛んできたまま突っ込んだ。その勢いで大木が折れて、ゼナイドの避けた方へ倒れていく。


 それが狙いだったのか、と少し鳥獣の認識を改めて、ゼナイドはスナクイリスがいた、少し開けた場所へ転がり込んだ。


 砂溜を蹴散らした感覚。スナクイリスの努力は諦めて、ゼナイドは剣の柄を握りなおす。そのまま刀身は抜かずに、鞘に収まったままの剣で応戦を試みる。


 その様子を見て、鳥獣は馬鹿にするかのように一声鳴いた。



「ヒュマノは美味いのか?」



 ゼナイドは剣を構えて、まずは鳥獣の翼を狙う。適当にこらしめて、勝手に退散してくれればいい、というのがゼナイドにおける対獣戦だ。


 強いて言うなら、食料用に時々頂くことがあるが、今は街に拠点がある。なおさら殺生をする気はない。それにゼナイドは、鳥肉があまり好きではない。


 飛んでくる鳥獣に対し、丁度翼の生え際に剣を叩きつければ少しは痛がるだろうという作戦をまずは実行する。


 翼を広げて、再び突っ込んでくる。向かってくる右翼の付け根に、剣を大きなハンマーのように振りかぶって、叩きつけた。同時にゼナイドは、鳥獣の身体に直撃する。


 思ったより毛深く、もふっとした感触に包まれる。感覚を楽しむわけにはいかない、とゼナイドは素早く剣を引き下ろす。


 ゼナイドは普段から鞘から剣を抜かない。鞘の状態でも戦えるよう、鞘自体もある程度刃物のように鋭く作られている。勿論本物ではないので、浅い傷すらできればラッキー程度だが。


 鳥獣が苦しむ声を上げた。羽毛が動いて感触に気を取られていると、鳥獣が苦しみながら暴れ狂う。


 激しい脚の動きで結果的に蹴り飛ばされた。スナクイリスの絶えた近くに叩きつけられる。血なまぐさい臭いが鼻を通った。


 鳥獣はゼナイドの狙い通り右翼をうまく動かせないようで、左翼でひたすらはばたき出す。砂煙が舞って、ゼナイドの肌にビシビシと当たる。


 しかしこの鳥獣は、たちまちは飛べない。あとは適当に暴れ疲れ果てさせればなんとかなるか、と砂が目に入らないように薄目で立ち上がり、一度鳥獣から距離を置く。



「「ゼナイド」さん!」



 駆けつけたエクトルとキノの声に反応した鳥獣は、ゼナイドからあっさり標的を変えて二人の方へバタつきながら突進していく。


 ゼナイドは背後を見せた鳥獣に剣先を向けた。「おい。スナクイリスが最初の目的だったろ…!」

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