第2話 セイリブンガク (性)

月に一度の呪いかける7日間。


朝、全身の腫れと頭痛で目を覚ます。


腹から胸までせりあがるムカつきは口内を乾かし、吐き気として全身に充満する。


何が楽しいのか、我がホルモンは頭の先から足のつま先まで切り刻む。


背中には赤子の霊でもぶら下がっているかのようにだる思い。


脳内は催眠ガス室と化し、仕事どころかものを考えることすら難しい。


何より、理由のない憂鬱。


少しの刺激で悲しくなり怒るのは、文明人の「私」でなく、ただの動物である自分だ。


体も精神も、「私」らしくない。


ホルモンに乗っ取られ、それを眺める「ワタシ」。


体も心も思い通りに行かない。


「ワタシ」とは何か。



「生理をとめましょう」


と、医者に言われて、薬を飲み始めた。


生理が無くなった。


私は”完璧な人間”になった。


快活で、体は軽く、精神は穏やかで、集中を切らすことはない。


365日、最高のパフォーマンスを発揮できる。


今まで、どれだけ生理に気を遣って生きてきたことか。


いつか、全ての女の生理がとまる日が来るのだろうか。


より賢く、より穏やかに。


人類の半分が劇的に変化したら、


世界は平和になるんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る