スメル皇帝のために私は石女になりました

志久谷

第1話


「わたしを抱いてください」


「はっ?」ポトッ


 皇帝スメイル·ニオウダー(齢32)は予想だにしない皇后ダリア(齢30)の条件に、思わず持っていたペンを落とした。


「わたしが満足するまで抱いてほしいのです」


「君の口から。そんなはしたない言葉を聞く日が来るなんて」


「抱いてくれますか?満足するまで…」


「本気か?満足するまで抱けば離縁届にサインするのだな?」

 (最後に抱いて欲しいなんて、可愛いことを言う女だったんだな…)


「わたしは本気ですよ?満足するまでわたしを抱くのが条件です!満足しなければサイン致しません」

 

 挑発するような目付きでダリアはスメイルを見つめ、胸元の紐を解いていく。


「…わかった…約束は守って貰うぞ!」ゴクリッ

 (そんなことでサインが貰えるなら簡単な話だ)


スメイルは戸惑いながらも、矢継ぎ早にシャツを脱いだ。


「君とは久し振りだな…最後だと思うと興奮してきたよ」ハァハァ


「……」ニコリ

 

不適な笑みを浮かべ、ダリアはスメイルの手を引き寝室へ誘った。


「…満足させてくださいね…それでないとサインはしませんから」


「しつこいな…わたしに二言はない!満足させてやろう。…君がここまで積極的だったとは知らなかったよ…最初から可愛げがあればもっと構ってやったというのに」ニヤニヤ

 

 ダリアはスメイルに口づけをした。

 

 スメイルはそれに応えるように舌を絡ませた。


「むぐっ…ん……くっ……」

 

 ダリアの口から声が漏れる。


(まさかダリアから誘ってくるなんて…こんなこと初めてだ…)ハァハァ 


 スメイルは興奮し、キスにも熱が入る。

 

 (ダリアの口内…かなり熱いな…甘い…興奮しているのか?負けてられん!)


 スメイルは丁寧で濃厚なキスをした。


 そして、キスは途切れた……

 


「下手くそ」

 

 

「……下手くそ!?」


 スメイルは耳を疑った。


「はい…逃げない約束ですね?続けてください、満足するまで」


「…いや、ちょっと待ってくれ!!」


「なら、書類にサインはしませんよ?裁判でもなんでもしてください!」


 強気な姿勢を崩さないダリア。


「クソッ……わかった……」


 スメイルは胸を揉み、吸い付き、舌先で強引に転がすように舐めていく。


「痛ッ!!力が強すぎるわ」


「すっ、すまない…」シュン


 「女の体はデリケートなんですよ?愛妾が何人もいるくせにそんなことも知らなかったの?」


 真顔のダリア。


 先程まで熱り立っていたスメイルの下半身は、元気を失くしてしまった。


「ダリア……?」


「痛いだけ!こんなの感じない!塩を舐める牛でもこんな舐め方しないわよ」


「牛…?」


 戸惑ったスメイルは、ダリアから離れようとした。


 しかし、ダリアは足を交差させて、スメイルの腰をガッシリと掴んで離さない。


「執拗に胸ばかり舐めてきて!貴方はそこさえ舐めれば女は感じると思っているのよ」


「なっ…なんてことを……」


 ワナワナと震えるスメイルに、畳み掛けるようにダリアは続けた。


「あなたへの奉仕は負担でした。貴方の愛妾達は我慢強いのですね?」


「馬鹿を言うな!!ダリア!!

わたしが抱いてきた女達は何度も昇天して喜んでいた!君が不感症だ!」


「なんて愚かな……女の演技を信じておられるのですね?お可愛いこと」ププッ


「演技だとぉ?」


 目を見開き、声を裏返すスメイル。


「声も出さず、反応の乏しい君を抱くのにうんざりしていた!ローズは可愛い声で喘いでいるぞ!」


「感じる演技でしょうね」フフフ


「自分の不感症は認めないのだな!声も出さずにつまらない女だと思っていた!男は漏れる吐息や感じている姿に興奮するのだ」


「わたしが声を出さなかたのは、痛みや不快感に耐えて歯を食い縛っていたからですよ、勘違いも甚だしい」


「ダリア!!わたしは皇帝だぞ!」


 ダリアの挑発は続く。


「なら、貴方が下手くそではないと証明してください。わたしを満足させて!そうしないとサインしませんよ?」


「なっ!」


「さぁ、続けてください」


 渋々だがスメイルは再開させた。


 ダリアへキスをしようと、スメイルは瞳を閉じ、口を尖らせを顔をグイッと近づけた。


「臭っ」


 ダリアは口を手で覆った。


「臭っ…?」


「先程から我慢してましまけど、口が臭いんです。しかも、ワインで口の中も染まっていますね、それだけで気持ちが削がれます」


「…それはすまない」


「それに、ヨダレで口のまわりはべちゃべちゃになって不快になりました」


「……」

 (口の回りを舐めまわしたのがいけなかったのか…?)


「はぁ…キスはやめてください。本当に臭いので」

 


「わかった…」

 

 

 臭いと言われて言い返す事もできず弱腰になるスメイル。


 気持ちを何とか取り戻しダリアの下半身をまさぐった。


「いきなりそこですか?不快です!手を抜かないで」


「お、おう…」


 スメイルはどうしたらいいかわからず、とりあえずダリアの胸を揉む。


「痛い!!貴方の手はガサガサで痛いんですよ、これじゃ垢擦りとかわらないわ」


 スメイルは毎朝、剣術の鍛練を欠かさない


 その為、手のひらには積み重なったタコができておりガサガサとしている。


「こんなのしょうがないだろう…」


「軟膏でも塗ってケアしてください!貴方の愛妾達は平気なんですか?」


「何も言われたことがない…」


「愛妾達はご奉仕する気持ちが余程強くて我慢しているか、肌を守る鱗があるかのどちらかですね」フンッ


「男が軟膏など…この手のひらはわたしの鍛練の証だ」


「はぁ…ならそこのオイルを塗ってからわたしの体に触れてください」

 

「これだな」ヌリヌリ


 スメイルは力を加減をしながらダリアに触れた。


「強すぎる!優しく!」


「…すまない……こうか?」チラッ

 

恐る恐るスメイルはダリアの体をオイルで撫でように触れる。

 

「いいですね…気持ちがいいです…」


「そうか!?」ホッ


 ダリアのその言葉に喜ぶスメイル。


「胸ばかり触れず体全体を適度な力で撫でてください」


「わかった!」サスサス…モミモミ…

 


「少し力を入れてください…そう、その辺…いいですよ、お上手です…」 


 ダリアはうっとりとして眠そうだ。

 


「おい、ダリア起きろ!」


「…はい?」


「何故寝ようとするんだ?寝るな!夜伽の途中だろ!これじゃマッサージじゃないか!!」


「はぁ…わかりました。続けて」


「そろそろ君が、わたしの息子を楽しませる番だろう」ハァハァ

 ベロンッ 


「ヒィ…」


ダリアは顔をしかめ、背けるように不快をあらわにした。


「酷い悪臭です。ムードもなく突然そんなものを出されて喜ぶ女がいますか!?引きます」


 鼻をつまむダリア。


「そんなもの…」


 スメイルの下半身は、またもやフニャフニャと萎んでしまった。


 

「今日はお互いに無理そうですね!出直してください」


「それは困る…」

 (こんな不甲斐ない終わりかたあり得ない…)


「わたしには夜伽で貴方を喜ばせる過度な演技はできません」


「サインをしてくれ…」


「サインなど出来るものですか!!わたしは満足していませんよ!拙劣で未熟な貴方とこれ以上何もしたくありません。出直して」


 気を悪くしたスメイル。


「き、君だって昔は白く輝く肌に、綺麗な金髪、マーガレットのようにふくよかな体をしていたのに!!今ではガリガリに痩せて貧相な体になった!!抱こうにもつまらない!!」


「……」


「……」


 

 気まずい沈黙の中、追い込みを掛けるようにスメイルは口を開いた。


「は、肌だって昔に比べてガサガサだ!それでも女か?」


 

「……そうですね」


「…な、なんなんだ!?素直に認めるなんて!言い返しては来ないのか?先に喧嘩を仕掛けてきたのは君だろう!?」 


 

「…これは喧嘩じゃありません、出直してください」


 ダリアはそれだけ言って、ベッドに伏してしまった。


 

 

 トコトコトコ


「可愛げがない」


「戯れ言ばかり!!今更ながら怒りが沸いてきたぞ!!」


 皇后宮の長い長い廊下。


「埃っぽい廊下だな!ダリアのように廃れてしまったようだ!!」


 スメイルが皇后宮まで足を運ぶのはおよそ七年ぶりだ。


 スメイルは、用がある時などはダリアをいつも呼びつけていた。


「廃されることへの当て付けか…?」


 子がいないため、皇太子の席は未だ空いたままだ。


「離縁するためには満足するまで抱かないといけない…できるのか?ダリアを…」


 皇后ダリアの家紋であるキャロッツ侯爵家は、隣国との領地対立に置いて唯一対抗できる家紋だ。


 力のあるキャロッツ家を敵に回すわけにもいかず、皇帝は皇妃さえ置けずにいた。


 愛妾から生まれた子供は後継者にはなれない。


 そのため、できるだけはやく皇后ダリアを追い出す必要がある。

 

「他の女達はうっとりと高揚し喘いでわたしを欲しがるというのに…何故ダリアはあの調子なのだ…」


「わたしが下手?臭い?そんなわけあるか!?これまでそんなこと言われたことがない!」


 トコトコトコトコ



 

「それが真実をなのか確かめねば……」



「ローズの元へ行こう…正直者で愛らしいローズなら、この悶々とした気持ちを晴らしてくれるだろう…」


皇帝スメイルは、愛妾の一人であるローズの元へ向かった。

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