とある不動産会社で働く女性の物語「猫の射的屋について」

*SNSに投稿されていた怪談を、コピペさせていただきました。






 あれは、たしか――居酒屋で一杯飲んだ後の出来事でした。時間は深夜十二時ぐらいだったと思います。


 あの日、私は終電を逃てしまったので、タクシーを使って■■■■駅前まで移動してから家まで徒歩で帰宅するつもりでした。


 この辺りは田舎で、辺り一面、田園風景で街灯も非常に少ないです。ですから、足元に気をつけながら歩いていますと、突如、笛と太鼓の音が聞こえてきました。


 音がする方を見れば、太いあぜ道の間に、数え切れないほどの屋台が並んでいました。


 初めは「何だ、■■■■神社の縁日か」と思い、無視して通過しようとしましたが、すぐに違和感を感じました。


 冷静に考えれば、今は深夜十二時。

 こんな時間に開かれているにも関わらず、縁日にはカップルや親子連れなど多くの客が集まり、賑わっていること自体が奇妙です。


 恐ろしくなった私は、そのまま立ち去ろうとしましたが、少し縁日の中を見てみたいと思いました。


 怖いもの見たさというやつです。


 早速、縁日の入口まで来た私は、屋台の店主だと思われる男性に話かけられました。



「お姉さん、可愛いね。射的で遊んで行かない?」



 男は真っ白長衣と袴を着ていて、顔は猫の面で隠していました。そして彼の隣には、射的と書かれた屋台が設置されていました。 

 気のせいでしょうか。男の背後だけ不自然に暗いのです。まるで底知れぬ闇が、こちらを睨みつけているようでした。


 棚に並べられた景品。手前に設置された鉄砲。一見、普通の屋台に見えます。しかし、おかしな点が一つだけありました。それは景品の内容です。


 棚の上には真っ白な箱が並んでいて、箱には赤い文字で、こう書かれていました。



『上司の〇〇さん』 『隣の〇〇さん』 『夫』



「なにこれ……?」


 ここにある名前は全て私の知人でした。



「お姉さん、可愛いね。射的で遊んで行かない?」


「それより……これはなんでしょう?」


「景品だよ。貴方が嫌いなものを撃ち落としてごらん。綺麗さっぱり無くなるから」



 平然と、おかしなことを言う男。

 恐怖のあまり言葉を発せずにいると、もう一つの違和感に気づきました。


 匂いです。男からは錆びた鉄の匂いがします。何となく嫌な予感がして、私は来た道を全速力で戻りました。


「ここに『嫌いなもの』はありません」


「お姉さん、嘘はいかんよー」


 すると後ろから――ぎぃー、ぎぃー、と重い石を引きずるような音が追ってきます。


 振り返りませんでした。


 石につまづいて転びそうになりましたが、何とか耐えました。


 心の臓が苦しくなり今にも倒れてしまいそうでしたが、走れば走るほど太鼓の音は遠のき、気づけば人々の声すら聞こえなくなりました。


 息を切らしながら立ち止まり、後ろを振り向くと、そこには屋台はおろか縁日すらありません。




 唯一残っていたのは、小さな泣いている男の石像だけでした。


 


 


 


 

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