【短編】「走れメロス」の暴君ディオニスに激怒した女、「ざまぁ」がしたくて悪役令嬢転移したが・・・【二次創作】

桜野うさ

第1話 彼女は激怒し、走れメロスの世界へと転移した

 私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。


 私には小説はわからぬ。


 私は、中学二年生である。

 顔を盛り、スマホで遊んで暮らして来た。

 けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。


 きょう放課後私は図書室に出発し、本棚を眺め漁り、かなり読まれたこの名作本を手に取った。

 私には読書習慣がない。ネットで「ざまぁ系小説」を読むくらいだ。


 この前から読書感想文を書くことになっていた。締切も間近なのである。

 私は、それゆえ、よさそうな本を借りに、はるばる図書室にやって来たのだ。


 先ず、その本を探すため、図書室の通路をぶらぶら歩いた。


 私には竹馬の友があった。フミコちゃんである。

 うちのクラスで、図書委員をしている。


 この友に「簡単に読める本ない?」と尋ねてみたのだ。

 久しく本を読んでないのだから、詳しい人に尋ねて行くしかなかったのである。


「走れメロスはどう? たった一万字で終わる名作中の名作だよ」


「昔の本じゃん、難しそう」


「そんなこと無いよ」


 フミコちゃんは簡単にあらすじを教えてくれた。


 他人を信じることができず、すぐにひとを殺める王様に怒ったメロスという若者が、王様への反逆罪で処刑されることになった。

 メロスは妹の結婚式に参列するため、友達を人質にして三日だけ猶予を貰う。


「ええっ、友達キャラ巻き込まれて可哀想じゃん!」


「でもハッピーエンドだから安心して」


 彼女を信じて「走れメロス」を借り、ひと晩かけて読んだ。


 読んで、私は激怒した。


「呆れた王だ。生かして置けぬ」


 次の日の休み時間、フミコちゃんに逢い、語勢を強くして質問した。


「走れメロスのラスト酷くない? 暴君ディオニスが調子よすぎてムカつくんだけど。何であいつに『ざまぁ』展開がないの?!」


「あはは。すごい感情移入してる。しっかり感想文書けそうでよかったね」


「よくない! こうなったらメロスの世界に転移してディオニス『ざまぁ』してやる!」


「ネット小説の読み過ぎだよー。異世界転移とかできるわけないじゃん」


「ううん、やる。ちょっとトラックに轢かれて来る!」


 私は単純な女だった。机の上に、教科書置いたままで、のそのそ教室の外に出て行った。たちまち私は、フミコちゃんに追いつかれた。


「普通に死ぬよ!」


「だってディオニスがムカつくんだもん!」


 フミコちゃんは、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。


「放課後、図書室に来て」


 彼女にいつもと違う雰囲気を感じ、何故? とは問い返せなかった。



 図書室でフミコちゃんは一冊の本を差し出した。


「ここに異世界転移方法が書いてある」


「えっ」


「三組の子はこれで悪役令嬢転移をして婚約破棄して来た男を『ざまぁ』した。五組の子は無能スキルと思われてS級ランクのパーティーから追放されたけど、実はチートスキルだったから無双して元仲間を『ざまぁ』したらしいよ」


「どうしてそんな本をフミコちゃんが持ってるの」


「私が異世界からの転移者だから。ま、そんなこと今はどうでもいいよね! 早くこれでメロス転移しなよ」


「いや、そこのところをもっと詳しく」


 フミコちゃんは私をひしと抱きしめた。


「友と友の間は、これでいいんだよ。『ざまぁ』頑張ってね」


 大きな謎を残したまま、私はメロス転移をした。

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