11.ゴールの泉へ
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[第四の島──ゴールの泉]
業火竜が僕なら行けると言っていたけど、本当に大丈夫なのかなぁ。
「……うわ、すごい綺麗」
ゴールの泉に来た瞬間、その静謐さと清廉な森の雰囲気に僕は感嘆した。モンスターの気配も無いことを理解して、長刀をアイテムボックスに入れる。
アサは最後の最後まで渋っていたけれど、結局やらなかったらクリア出来ないことに苦渋の顔をしていたけれど結局は折れた。
『お、お前は私のものなんだから、絶対に拐かされるなよっ!』
アサにはそんなふうに言われて、勢いでキスもされたっけ。そんな感じで良いのかと思ったけど、きっと良いんだろう。
────これは帰ったら、うんと甘やかさなくちゃな。
そう思いながらただ適当に森の中を散策する。すると奥から音がした。
『〜〜♪』
綺麗な音色だ。これは……歌、かな。その音を頼りに先に進む。しばらく歩くと森を抜けた先にはとても広い大きな泉があった。泉というより湖じゃ……と思ったが、その奥の崖からは滝が流れていて、それが泉に流れていた。そして音の正体はその泉の縁の岩に腰掛けていた一人の女性からだった。綺麗で陽の光を反射している灰色の長髪。そしてそれに手櫛を通しながら鼻歌交じりに口遊んでいた。
「〜〜〜……きゃっ!? だ、だれっ?」
「あっ、ご、ごめん。怪しい人じゃないんだ……って言っても、証明出来るものじゃないか。えっとでもその、良い歌声だね」
「あ、ありがとう……?」
なるべく近づくのはやめ、程よく距離を取って会話しよう。下手に詰めるのは恐らくダメだろうし。
「そうだ。僕はミカ。きみの名前は?」
「ぼ、ボク? ボクは……シェリエール。よろしくね」
なるべく顔から下を見ないようにしながら頷く。にしてもシェリエールか。恐らくモチーフは博物誌などで記載されていたジュゴンなどの別名で、「ペシェ・ムリェール」というものから取ったのだろう。
「ねぇ、きみはどうしてここに来たの?」
「僕は静かで落ち着ける場所が好きなんだ。それで友達から聞いたんだ。ここに来てみたらって。そうしたらとても綺麗でびっくりしたよ。あぁ、ここ、座っていい?」
「うんっ!」
泉の縁に腰掛けてしばらく泉を見つめる。
──────バッシャーン!
「うん?」
さっき岩の上にいたシェリエールがいなかった。どこに行ったのだろうかと思えば泉の真ん中から仰け反りながら出てきた。陽の光に反射する水を飛沫、キラキラと輝く様はほんとに絵画のようだった。
「ねぇ! きみも泳ごうよ!」
キラキラ笑顔で誘われた。
「ごめん。水着持ってなくて……」
「いーからいーから」
いつの間にか僕の真下まだ来てて、僕の手を取って泉の中へと引き入れた。
「わぷっ!?」
ザバァッと顔を上げれば不思議と服は重くなかった。
「どう? 気持ちいいでしょ」
「っはは。確かに。たまにはこういうのも悪くないかもね」
《水泳》持ってて良かったと思った。シェリエールは楽しげに笑って僕の手を離して周りを泳ぐ。僕は一度深く息を吸ってから潜泳する。
「……っ!」
ゆっくりと目を開けば、泉の中はキラキラと陽光で煌めいていた。
『綺麗でしょ?』
そう聞こえた。僕はシェリエールに頷いて、平泳ぎでシェリエールの近くまでくる。シェリエールは尾鰭をはためかせしなやかな動きでくるりと回りながら泳いだりとすごいな。
「ぷぁ、っはぁ、はぁ」
「あはは! ミカは人間だもんねぇ。息大丈夫?」
「あぁ……うん。大丈夫。それよりも泳ぎ綺麗だね」
「えっへへ〜。そうでしょ〜」
豊かな胸を張って自慢げに笑う姿に釣られて僕も笑う。
「っはー。こんなふうにしたの初めてだ」
泉の中で空を見上げるように横になる。チチチチとどこかで鳥の鳴き声がする。
「……綺麗だ。こうして空を仰ぎ見るのもいつぶりかな」
「ミカはもしかして今まで突っ走ってきた?」
「かも、しれないね」
確かに今までずっと走ってきたかもしれない。関係も攻略も今となっては目新しいものばかりだから。
「シェリエール」
「なにー?」
「また、ここに来てもいいかな?」
「それは……どうして?」
「ここは、落ち着く。今まで色々あった。たくさん考えて、行動して、人のいないところで物事から切り離して、正直スッキリしてる」
「そっか。だからまた来たいんだね?」
「うん。だめかな?」
シェリエールは首を横に振った。
「ボクは全然良いよ。ミカとは初めて会ったのに会った気がしないや。とっても居心地がいいんだ。だからもっと話がしたい」
隣から顔を見下ろしてくるシェリエールに笑って返す。
「そっか。それなら良かった。僕もきみと話がしたいし」
「ね、ミカには大切な人はいる?」
隠すことはダメだろう。その時僕は直感でそう思った。その嘘はダメなことだと。
「いるよ」
「それって将来を誓った人?」
「……それは分からない。でも」
「愛し合って仲良く出来てるんだね」
「うん」
「その人はどれくらい大切?」
純粋な疑問の目を僕は真下からしっかりと見返す。
「この命に換えても護る。どんなことがあっても」
「そんなに大切なんだね」
「うん。それと、同じくらい友達も大切だよ」
起き上がって泉の縁まで移動して泉から上がる。
「それって……」
「きみも入ってるよ。シェリエール」
「…………!?」
頭を振って水気を取りつつ、泉の中にいるシェリエールを見る。
「でも、大切な人がいるのに……」
「そうだね。確かに浮気はだめだ。けれど、きみと僕は友達だ。友達は迷惑をかけあって支え合う仲だと思う。だから僕はきみのことは好意的にみてるよ。きみは、僕をどうみてるの?」
「ボクは……まだ分からないや。と〜っても話しやすくて、落ち着いた雰囲気で好き……だと思う、よ?」
「疑問系で返されてもなぁ」
互いに見つめあっておかしいことのように笑い合う。
「あーあ。でもそっかぁ〜。ミカには大切な人いるのか〜」
「うん」
「いなかったらボクが貰っちゃお〜って思ったのに」
これじゃあ恩寵を得ることは出来ないかもと話をしながら内面諦めていた。
「でもミカはとっても正直さんだね」
「えっ?」
「嘘くらいついてもよかったのに」
「それは……フェアじゃないなって」
「どうして?」
「きみは正直に接してる。だけど僕が嘘をついて仲良くしたって、僕の心が晴れない。それは嫌なんだ。もしそれが嘘だって気付いてきみを傷つけるのももっと嫌だ。だから嘘はつかないようにしたんだ」
ぽかんと目を丸くしたあとお腹を抱えて思い切り笑った。
「ぷっははっ。あははははははっ! そっかそっか。ミカは誰に対してもまっすぐなんだね。うん。よーやく分かったよ。ボクがミカに対して思ってること。ボクはそんなミカのこととっても眩しくてだけどだいすきだ。とっても正直でまっすぐで正直、ボクのお婿さんになって欲しい。だけどそれじゃあきみの大切な人は報われないからそれはやめる! でも好きな時に好きなだけここに来てボクの遊び相手になって欲しいなっ」
そう言うシェリエールの方が眩しいと思う。だけどそっか。人魚という存在は、七つの大罪にも数えられていて、旧い七つの大罪では「虚栄心」の存在とされていた。だから僕のことを眩しいと言ったんだ。
「分かった。いくらでも遊び相手になるよ」
「やったぁ〜!」
突然跳び上がって僕の胸へと飛び込んできた。僕はそれを支え切ることが出来ず、地面へと倒れる。
──────ちゅ。
「ぅえ? い、いまなにを」
「えへへ、ボクからのご褒美だよミカ。きみがこれから先の道に祝福があるといいね」
左頬にチークキスをされた。それに驚いたけれど僕の名前の横にマークがついた。泡のマークだった。
「人魚としてのボクの加護。一回だけは死なない程度のものだけどね」
それは十分にありがたいだろう。僕はシェリエールの頭を撫でながら感謝を述べる。
「ちゃーんとうまく動くんだよ」
「分かってる。僕だって死にたくないし」
目を細め、心地良さそうな顔を見ると、ほんの少しだけ雰囲気が変わったように見えた。
「ほぅ……なるほどシェリーの気持ちが良くわかりますね」
「きみは……」
「シェリーの体を借りて失礼します。私はシェリーのお友達のウンディーネと申します」
「ウンディーネ……人魚と同じように男性と関係を取り持つ水の妖精、だね」
「はい。私はこれまで、姿はありませんでした。ですが、つい先ほどシェリーがあなたに恋をして、それでもあなたとのこの関係を続けると決めた時に」
「そう。ごめんねウンディーネ」
「なぜ、あなたが謝罪を?」
「僕には裏切れないものがある。シェリエールには話したけれど」
ぴとっと唇に人差し指が当てられる。ウンディーネは分かっていると頷いた。
「聞いて、いましたから」
それでもなお慈悲深い微笑みを浮かべた。なるほど。かのパラケルススなどが提唱した姿だ。
「そんなあなたを私は讃えます。婚姻を結べないことは心苦しいことですが、それでもこの子が良いと言ったのです。私はそれを尊重します」
こつんと額を合わせる。大きな翠色の瞳だった。
「なので、これは少しばかりの祝福です。心の清らかなあなたに幸多からんことを。そしてあなたにたくさんの愛情を。水の妖精たる私があなたを祝福いたします」
ふわりと体が軽くなった気がした。そして泡のアイコンの隣には雫と妖精の羽のアイコンが。
「また、おいでくださいねあなた様」
「うん。必ず」
「またお会いした時は私かシェリーのどちらかが出迎えるでしょう。いずれまたその時に」
そして今度は合わせた額に口付けをして雰囲気がシェリエールの快活な雰囲気に戻った。僕はどうしてこんな結果になったのか分からなかった。きっと婚姻を結ぶということは勿論条件になっているのだろうけれど、それでも他に成立するものがあったのだろう。そう考えながら、シェリエールとまた会う約束を交わしてアンファングへ戻った。
♦︎
[ギルドホーム]
結果をみんなに伝えると各々が驚愕して声も出せずに固まっていた。
「えーっと……みんな?」
「な、なんだぁ……心配する必要なかったぁ〜」
アサが安堵の息を漏らしながらテーブルに突っ伏した。
「なんで……心配してたの?」
アサのそばに寄りしゃがむ。アサはそんな僕にうるうるとした目で見てぎゅぅっと抱き締めた。
「わ、私から言わせる気ぃ? ……ばか」
「あはは、ちょっといじわる……だった?」
「いじわる」
「僕がきみの隣からいなくなるって思ったの?」
「…………ぅ」
「おしえて? 教えてくれないと、分からないよ」
「うぅ〜……! い、いわないっ。言わないもん」
ぎゅぅっとさらに抱き締める力が強くなって拗ねたような反応をする。僕は笑いながら抱き返して、背中を優しく叩く。
「痛い痛い。少し痛いよ、アサ」
「ふ、ふんっ。これくらいくらってろ……!」
「……っぱミカってドSだよなぁ」
「お兄ちゃんはサドサドだよね」
「あたしよりもイジワルだと思う」
3人がそう呟いてるの聞こえてるからなー? と睨むと素知らぬ顔をしてそそくさと出て行った。
──────ドサッ。
アサがさらに体重を預けて来て、僕は尻餅をつく。
「────────────ほんとに帰ってきて良かった……」
ぽつりと囁いたアサにそりゃー帰るよ。きみが待ってるんだもんと返す。
「だ、だって……人魚も妖精も、娶らなきゃならないって……」
「僕もそうだったし、シェリエールもウンディーネもそう言ってたんだ。だけど例外だったみたい」
「どうして……?」
顔を上げたアサと間近で目を見合わせる。
「僕がアサのことをこれでもかと好きだから。きみが何よりも大事だから。僕の命に換えてでも」
「やだ」
「え?」
「大事なのは分かるけど、自分の命も大事にして」
「…………」
「おじいちゃんおばあちゃんになっても一緒にいたいの」
「………………ふっ。はは。うん。分かった。でもこれは言葉の比、ゅんっ!?」
「……ぁ。……うるさい。いまは言い訳禁止。わかった?」
……どうにも今は甘えん坊モードらしい。仕方のないお姫様だ。
「仰せのままに。お姫様」
「むだにかしこまるのもきんし」
それからしばらくの間は離れさせてはくれず、リアルよりも先に『SBO』の中で大人がするような恋人らしいキスを何度も重ね続けた。その後、ヴェインからはちょっと重いかもしれないけど頑張ってと後々言われた。言うの遅すぎなのでは? まぁ、そういったとこも可愛いけれど。
「……ちょ、人戻って」
「しらない」
「いや、でもそれじ」
「もっとして」
「あ、あのですね?」
「いーやー」
結局、アサの甘えたが終わるまで結構な時間を要した。
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獲得加護
『人魚姫の加護』
たった一度だけ蘇ることができる。使用後、再度加護を受けることが可能。
『水精霊の祝福』
LUCK値6%アップ、火に対する耐性12%アップ、他モンスターや動物等のテイム成功率を10%上昇。
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