闇の扉を開いたら

花霞千夜

序章「魔術実践会」

心地よい春風が吹く中、一人前の魔術師を育て上げるのを目的とした学校・ルドルフ魔術学園では、最高学年である上級生たちが卒業を間近にして魔術実践会を行っていた。この学園では、一人前の魔術師になるために六年通い、最高学年となった際に六年間学んできたことの実践をするのだ。最後に良い成績を残せるように皆集中して頑張っている。まぁ、それはそうだ。学園の中でも最難関と言われている魔術実践会。もし、ここで良い成績を残せなかった場合、留年になってしまうのだ。一人前にはなっていない、と見せつけられ切なくなってしまい、そのまま退学する生徒も多い。しかし、六年間を無駄にしてしまうのでそれは勿体ないと、最近では退学する生徒は減っているらしい。そんな過酷な魔術実践会を真剣に見ている少女がいた。彼女の名を、ガーネット・イーズリーという。

(私も来年受けるんだ)

ガーネットは、このルドルフ魔術学園の五年生であり、この最高学年が卒業してしまえば自分たちが次の最高学年になる。一人前の魔術師となるには、もう一年ほどしかないということだ。そのため、ガーネットをはじめとする、五年の生徒たちが最高学年の魔術実践会の下見をしているのだ。

(なるほど。習った魔術を一つずつ見せていって、一番最後に最難関の実践会をすると。あっ)

「おぉーっと!ここで、エルガー魔術師は留年が決定です!闇を倒すまであと少しでしたね!次はもうないですから、また一年後にお会いしましょうね〜」

ナレーションの人が元気よくアナウンスする。応援しているのかしていないのか分からないレベルに、残酷的な一言が最後に言われるという、通称、残酷的ナレーション。ガーネットたちは、もうこの残酷的ナレーションを何回聞いただろうか。やはり最難関が一番難しいようで、もう留年が決まった人は十人目である。つまり、この残酷的ナレーションを十回も聞いたわけだ。いや、これしか聞いていない。聞く方も聞く方で疲れるのである。けれど、その残酷的ナレーションを直接受けた本人が一番つらいだろう。

(めっちゃくちゃ落ち込んでる、、、)

そりゃそうだ。命をかけてここまで来ているのだもの。ガーネットたちも惜しかったと思っているうちに、新たな魔術師が登場してきた。やる気満々でやって来た彼。

(この先輩、最難関突破できるかな)

魔術師は、各それぞれの持つ力で各地の闇を探し出し問題を解決することで、国や人々を守ってきた。毎日発生する、人に害を及ぼすものを“闇”と言っており、闇は発生してから時が経ちすぎてしまうと巨大化しながら力が強くなり、倒しにくくなる。最悪の場合、殺られてしまうことも。そんな恐怖がある闇には、さまざまな型があるのだが、明確に決まった形はない。なにか黒い塊のものもあるし、もやもやとした黒い煙のようなものもある。しかしそれは、魔術師にしか見えないもので、一般の者には何も見えない。だからこそ、“見える”者は魔術師になるために、このルドルフ魔術学園に通うのだ。魔術師は国と人々の命と平和を背負っている。だからこそ、この魔術実践会は最難関なのだろう。浅はかな気持ちでやっていては国全体を守れない、と。きっとそれを伝えるために、こうして実践会をやっているのだろう。先生たちは言わないけれど。先程の先輩たちには可哀想だが、もう一年この学園で過ごしてもらうしかないのだ。

(来年、絶対合格する)

その心意気で、長らく、ガーネットは魔術実践会を真剣に見つめた。

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