転生したら重い過去持ちの子猫系ロリ美少女だったのだが、VTuberになったらめちゃくちゃ甘やかされた

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第1話 転生して早々人生が詰みそうな件

寒い。頭が、いたい。


グワングワンと揺れる定まらない思考、ズキズキとだんだんひどくなっていく頭痛に更にめまいを起こし、自然とこめかみ近くを手で抑えるとジャリ…と嫌な熱で汗が出ている手のひらについていたのか、細かい石屑が皮膚を軽く擦った。

体は鉛のように重く、寒さで固まっている体はなかなか動かない。途端芯まで凍るような冷たい風が吹き、ちょこんと小さく体を丸めていた腕に力を込め、耐えるように額を膝にこすりつける。


「つめたッ…」


すると無防備に晒されていた首筋にやわらかい何かが触れた瞬間、そこから伝染するように寒さで全身が震え、一体なんだと下ばかり向いていた顔を上に上げ__その正体に気づく。


「・・・ゆき。」


ぽつ、ぽつ、と柔らかそうな雪が一粒、また一粒とタンポポの綿毛のように空から降ってくる。瞬きを一度してもう一度目を開ければ、数え切れないくらいの雪が降ってきて、しばらくすれば辺りは銀世界になってよりいっそう、冬が来ていることを私達に自覚させるのだろう。


「まっしろ・・・わたしの、なまえ、みたい・・・・・・???」


無意識にそこまで口にして、ようやく地面に少し足がついたような気がした。

霞がかっていた視界は急にクリアになり、私はようやくこの世界を正しく認識する。


……え、待ってなにこれ?


固まって動きそうもなかった体はある程度意識して動かそうとすれば簡単に動いた。壁にもたれかかりながら隅っこのほうで体育座りしていた体を少しふらつかせながらもピンと立ち上がらせ、辺りを見渡す。

ほとんど葉っぱがない大きな木、よく知っている一般住宅がいくつもあって、それらを私の目線よりある程度高いネットフェンスが遮るように隔ててあるが、越えようと思えば簡単に越えれるだろう。


……え、待ってなにこれ?(二回目)


二度目だがこう思ってしまうのも仕方がないと思う。

だってさっきまで私は温かいもこもこの上着を着ながら暖房のついた部屋でテレビを付けてアニメを見ていたはずなのだ。

それなのに何故か雪が降ってるのに外にいるし、ペラッペラの防御力低そうな服を着てるだけ、なんと靴も履いていないから意識した途端足の裏がヒリヒリしてきたような…でも思ったより感覚がなくてむしろ怖い。

なんか手だってちんまりしてて、子どものような手なのにお皿洗いのバイトを入れまくってるんですか?ってくらい真っ赤でボロボロだ。そういえば明らかに目線も低い気がする!170cmにワンチャン届くかもしれない!と特別欲しいわけではなかったが夢を見ていた女子にしては身長高めな私の目線がこんなに低いわけがないのに!!


「え、ゆめ……!?」


自分から出た少し舌っ足らずな高い声に驚き咄嗟に口を塞いだ。勢い良すぎて未だ手のひらについている石屑が少し痛かったがそれどころではない。知らない声だった。私の声はこんなに高くないし、滑舌だってそこまで悪くない。


知らない場所、目線も違う、手の形も、声も、全部全部違う。クリアになったはずの思考がまたグルグルしだして、ありえない、なんで、夢、と同じ答えを何度も導き出して、凍えるような寒さが、ジャリジャリと石屑を踏んで痛む足がそれを否定する。


そして一つ、オタク文化が盛んな国に産まれたライトなオタクをやっている私だからこそ導いてしまったおかしな答えがピコンと導かれる。


「てんせい…?……んなわけッ!?」


”転生”


そんな二次元じゃないのだからありえないと否定しかけた瞬間、まるで映画でも見ているかのように”一人の少女”の人生が映し出され、地面に足がついたはずの私は急に観測者にでもなったかのように強制的にその映像を、人生を見させられた。目を閉じることも許されない。できたとしても別にこれは視界で見ているわけではないのだから、多分意味はないだろうけど。


だがやはりこれは映像ではない。実際、観させられているその人生が溶け合うように私の一部となって、観測者であるおかげか心臓を抉るような苦しみに発狂せずにいられるものの、その人生の重さにギュッと胸を締め付けられる。


ようやく観終わったのか、それとも私の限界を悟って一度停止してくれたのかわからないが、ようやく戻ってこれた私は言葉を紡ぐことなく大きく息を吸った。


「ハァッ!、フゥッ、フッ、、ハッ!フッ!!__」


はじめのときとは違い冗談抜きで動けなかったということは、呼吸さえもできていなかったということ。人間僅かに皮膚呼吸もしていると聞くが、それだけで補えるわけもなく何秒、何分止めていたかは知らないがようやく人間に必要な呼吸をすることができた私は呼吸することだけに意識を全身全霊で注いだ。そうしなければ死んでしまう。人生でこんなに死を覚悟したことは、前世で”は”ない。


「ふぅ…っ…しぬかと、おもた…」


ようやく正常に戻れた私は口から溢れそうになっていた唾液をゴシゴシとボロボロの服で拭った。何も知らない前世の私から見れば汚いよ、バイキンは大丈夫かな?と思うかもしれないが、今世の人生経験、価値観をある程度マイルドな状態とはいえ植え付けられた今の私からすればこれくらいどうってことない。


「はぁぁぁーーーーーーー」


ペシャリとちんまいお手々で顔を覆いながらしゃがみ込んだ私は深く、ふかーくため息を付いた。ピクピクと口角が引きつり、鏡で見ているわけではないが確実に死んだ魚のような遠い目をしているであろう私の顔を取り繕う気も余裕もなく、これからの未来を考えてため息をつくなって方が無理な話だ。


「じんせいはーどもーどすぎではなかろうか?」


まさか今の自分の環境が、日本じゃあまりないレベルに詰んでいるなんて思いたくないに決まっている。


自虐的な乾いた笑いをする私は、どう見ても幼女にみえないことだろうね。アハハ・・・。




◇◇◇




ところどころ傷んでいるものの濡羽色の腰まで届きそうな長い髪、あまり血色を感じさせない陶器のような白い肌はお人形のように作られたような美しさがあり、唯一血色を感じさせる花弁のような唇をより一層引き立たさせる。その中でも一番特徴的な部分が瞳であり、長い睫毛に縁取られたぱっちりと大きい瞳は、世界最高峰の宝石職人が丹精込めて作り上げたような、見るものすべてを惹き込むような深い輝きを放つ金の瞳。

多少見える容姿の欠点なんて栄養失調や水仕事によるカサつきや傷み程度で、これまでの人生を考えればむしろどうしてここまで世界最高峰の職人たちが各々のパーツを丹精込めて作り、それらを黄金比のように取り付けたレベルの他を寄せ付けない圧倒的容姿、つまりとんでもなく面が良い状態を保てるのか不思議なレベルの美少女。


それが今の私についているお顔だ。

自分の顔を思い出して急いで(割れている)鏡を探しに行って見たらびっくりしたよね。一応自分だからちょっと目を見開いて美少女だなーと思う程度で済んだが、この顔を見ただけで奇声を発してしまう人もいるかも知れない。そう思えてしまうほどの面の良さだ。


だけどもし、この圧倒的すぎる顔面偏差値の高さを幸運として、そんな幸運と釣り合いを持たせるために小さな体でこんなハードモードな人生になっているであるとすれば、皮肉なものだ。


別に願ってもないのに、特別容姿の良さが欲しいなんて思ったこともないのに、まだやり残したことがあるのに、大切な家族を置いてきてしまったのに、この容姿が一番の着火剤となって火をつけてしまったことで人生ハードモードなんだからさ。


今の私は9歳の幼女だ。親に捨てられ、施設送りになった子供。

親に捨てられたのは4歳の時。もともと仲が良かったのか悪かったのかは知らない、もしくは忘れてしまったが、どちらの親の要素も受け継いでいない配色の、まるで作り物のような整いすぎた容姿を持った子供_つまり私を気味悪がって「不倫した!」「離婚だ!」とはじめは二人で騒いでいたものの、少し時間が経てばその矛先は全て産まれたばかりの何も知らない赤ん坊わたしに向き、虐待された後施設に送られた。


そしてまだまだ人生ハードモードは終わらない。

施設送りになった私だがもちろん私以外にも子供はいて、ものすごく顔が良いからそりゃあもう男の子にモテた。施設では自分の人生が終わったことを悟って振り切ったに怯えなかなか寝付けず、学校では施設の子供だからと下に見られ告白されて首を横に振れば時代錯誤な男尊女卑で頷けと殴られる。男も男で最悪だが、施設でも学校でも圧倒的顔の良さで私しかモテないため、同性の女の子に嫉妬され虐められる。前世の記憶を思い出したあの時だって、誰かの視界に入っただけで面倒事に巻き込まれると悟った少女が自分以外の人間に見つからないように、虐めの一環で使えなくされた靴を履くこともできず裸足で隠れた結果あそこにいたらしい。


右見ても左見ても、前見ても後ろ見ても誰一人味方がいない。大人は頼りにならない。ストーカーされるか、欲が浮かんだ気味の悪い目で見られるか、子供だからと門前払いされるだけ。あぁ、この子は誰一人信じられず、冗談抜きで自分以外全てを敵と認識していたのだろう。


もしかしたら、少女のことを不憫に思った人もいたのかもしれない。しかし残念ながらそんな言葉を吐き心配を装って近づいてきた人間は全員、欲、もしくは悪意を持って近づいていた。この年で人間不信、不眠症になるわけだ。


ちなみに今の私は施設から二番目に近い人気のない公園の土管の中で一人膝を抱えている。二番目に近いここを選んだのはもちろんほかの施設の子達と鉢合わせないためである。

うちの施設は結構ゆるい。というか責任者がてきとうなんだと思う。だから施設で取り決められている仕事をする日じゃなかったら、門限までに帰れば怒られない。最悪帰らなくても被害届を出して特に必死で探そうとすることもなくほおっておかれ、帰らなければ別に、帰ってこれば体罰室で厳しい体罰を受けるだけ。一応朝ご飯、昼ご飯、夜ご飯はあるけど、朝ご飯はさっさと朝の仕事を済ませて3分で済ませてそそくさと外に出た。ゆっくりご飯を食べていればかわいい子を虐めたい最悪な男と嫉妬で虐めてくる女の子にひどい目にあうに決まってるから。


ここらへんはそんなに雪が積もらない地域なのだろう。前世は雪国に住んでいたから雪の積もらなさに結構驚いているが転生云々よりはマシなので割愛する。

おかげでこんな真冬でも土管の中に隠れられ放題だ。

土管は良い。覗き込まれなければ人目に見つからないし、公園の土管をわざわざ覗き込むのなんて小学生の子供くらい。しかも人気のない公園だからなかなか人は来ない。


この体は人目が多いのが苦手だ。というか人間が苦手だ。すぐにビクつき、震え、隠れ、視線に当たらないようにする。まぁ、今までが今までだから仕方がない。

かといって体だけが反応するわけではない。心もちゃんと怯える。というか私が怯えている。転生とは言ったものの、前世の私と今世の私が溶け合って一つの人格になったような、心と体の主導権を半分こしたような、前世の私が強く出ているような、心に二人の女の子がいるような、言葉にすればするだけ矛盾しまくったような感覚が私の中で広がっている。


全部正しいかもしれないし、全部違うのかもしれない。私にもっと語彙力があれば説明できたのかもしれないが、今の私じゃ説明できない。それほど不思議な状態なのだ。

前世の社交的でしっかりした大人な部分はもちろんある。だけど人に怯え、信用できず、世界に冷めた寂しがりやの少女な部分もあるのだ。


「まー、こればっかり、はぁ考えたってしかたない!」


転生した直後よりは滑舌が良くなったが未だに滑舌が悪い口で明るい声を出す。

そう!本当にこいう哲学的な答えが明確でなさすぎることを考える時間さえ惜しいのだ。だって今の私は確実に人生が詰んでいる。このまま中学校を卒業するまで男の欲と女の嫉妬を耐え抜いて施設から卒業したとしてそれからどうするのだろうか?

この顔の良さなら街中でスカウトなんてこともあるかもしれないが、どうやってスカウトされればいいかなんてわからないし、限りなく当たりが少ない賭けだ。それに、顔は転生特典レベルの代物だからなのか無傷ではあるが、見えない体の方はかなり酷い。無数の火傷、痣は紙や画面越しの方々に見せれないレベルの酷さだと自覚している。

それに施設育ちだというのも印象が悪い。前世の記憶のお陰で中学までは特に勉強しなくてもついていけるだろうが、周りから見たらそうは思われない。事実を見せつけたって、だけど施設育ちだし…という言葉に簡単に負けてしまう。生まれる場所は決められないのにね。


そんなわけでそれは最終手段である。

だけど、正直そこまで良案はない。警察に駆け込んで施設の責任者を変えてもらおうとしても、子供の声を聞こうともしない人は多い。というか前の私が一度やって無視された。おまわりさんに裏切られる幼女とか、そりゃあ誰も信じられないわ。というか変えてもらっていい人が来たとしても、今の責任者に贔屓されてる子から矛先が飛ぶだろうし却下。

じゃあ中卒で普通に何処かの会社に就いて働く?それもけっこうスカウトと一緒じゃない?施設育ちの傷だらけの美少女とか、下に見られて就職活動大変そうだし、あとセクハラもしんどそう。ブラック企業行きになる未来がすぐ見える。

高校は無理だよね…。うちの施設は義務教育、つまり中学生までしか学費を出してくれない。学費を自分で稼いで行くとしてもどうやってお金稼ぐの?中学生でも稼げる手段はあるが親の許可が必要になる。施設の責任者がOKだしても正直学費払えるまで稼げるかって言うと、無理だ。

あとはどこかの養子にしてもらうとか?いやぁ、それもスカウトと変わらないよね。というか私を養子にしようとする人って、絶対顔目当てじゃん。怖いよ普通に。


「はぁ…なかなか、うまくいかない…」


正直言って、人生はお先真っ暗だ。

不安でいっぱいだし、なにもかも諦めてしまい無気力感にだって襲われる。

それでも前を向かなければいけない。心が死んだって、諦めたって、地獄は続くだけだと前の私より世界を見てきた前世の私が知っているから。


「がんばろう…」


明るい未来を掴むために。

転生幼女、がんばります!



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