第25話 あれがプラチナランクか

 急に彼女が視界から消えたことで、ゴーレムは首を左右に動かして探しているようだった。

 次の瞬間、ゴーレムは上空から振り下ろされた大剣によって、頭部から真っ二つに切り裂かれた。

 裂け目ができたゴーレムは自身の重量に引っ張られ、自然と左右に分離していき最後にはドーンと重厚な音を上げて砕け落ちた。


 しばらくすると、ゴーレムだったものは砂利に変化し芝生に散布されるかたちで消滅した。


「……えっ、もう終わり? あれがプラチナランクか、ルルの時はアドバイスはしてもらったけど、実際に戦っている姿は見てないからな。それにしても……」


 生身で六メートル近くジャンプした上に、あんな大剣を軽々振るう女の子とか空想の話だけだと思っていたが、本当に実在するんだなと思いました。異世界なんだから何でもありか……僕だって妖術とか使ってるし、いやあれでもそうなると、リンもどこか別の世界から来てたりするのかな。まあ昔の日本は鬼やら妖怪やらの不思議がいっぱいだったらしいし、元々は僕たちの世界もそういうものだったのかもしれないな。


 そういやゴールドランクになれば他国への入国税とかも免除されるんだっけか、失効期限も一年に延びるんだし、知見を広げるためにも世界を巡るのもいいかもしれない。

 統一国家ネアンのように船での海外旅行的なのは、はじめての旅行としては少々難易度が高い。なので、旅行先の候補としては陸続きの三大国、クラーク共和国かメトゥス帝国のどちらかだ。まあどっちを選ぶかはリンと要相談してからにはなるか。


 ガレスがこっちに戻ってくるまでの間、僕は現実逃避をするかのように、ワイバーンすらまだ倒していないのに今後のことを考えていた。


「おい……メグ……聞いておるのか、メグル?」


「な、なに? どうしたリン?」


「どうしたリン……ではないのじゃ。まあ良い、ほれあれを見てみよ」


 リンはちょこんと前足を僕の足に置き、もう片方の足を前方に向けた。


 僕はリンの可愛い前足に誘われるように視線を移すと、そこには大剣をぐるぐると振り回すガレスの姿があった。逆光と距離によりここからでは彼女の表情をハッキリと判別できないが、ただその動作を見る限りすこぶる嬉しそうだ。


「ガレスすっごいウキウキしているな。受付嬢の仕事ってストレス溜まりそうだしな……」


「じゃの~、ギースもそういうのを見越してガレスを我らの同行者にしたのかもしれぬの」


「なら……さっきガレスが僕に言った安全がどうたらってやつは、自分が戦うための理由付けっぽくない?」


「メグルよ、まあそう言うてやるな。それにじゃの、実際の話し……そちの実力では、あのゴーレムとやらを倒すのはちと難しいかもしれぬぞ」


「火が効かないような魔物とは戦わない方がいいってこと?」


「やはりメグルも気づいておったか。そちの鬼火は決して弱火ではないが、岩を燃やし尽くすほどの強火ではないのは確かじゃ。じゃが、我は難しいと言っただけで戦えないとは言っておらんのじゃ。そういう相手にはそれなりの戦い方をすれば良いだけなのじゃからな。まあそれはおいおい我が教えてやろう。さて、ガレスも戻って来たことじゃし、先を目指すとするかの~」


 僕としては『それなりの戦い方』について、今すぐにでも教えてほしかったが、優先順位的にもいまはワイバーンを討伐することだけに専念しないといけない。僕にはガレスのように剣も振るえないし、陰陽師としてもまだ見習いどころか、ド素人に近いレベルだろう。それでも何とかなっているのは、優秀な師と万能な護符のおかげといっても過言ではない。

 だからといって、急いだところでしくじっては意味ないし、急がば回れの精神でちまちま頑張るとしよう。リンがそれを許してくれるのであれば……だけど。


「たっだいま~、リン見張りありがとね。で、メグルはどうしてあんなに苦い顔をしてるの?」


「あれはじゃの。ガレスの剣さばきに感動したのと、自分の不甲斐なさに絶望している顔じゃ」


「よく分からないけど、とりま見て見てこれ! ゴーレムの証明部位なんだけど、いつものとなんか違うのよ!」


 ガレスはリンにその証明部位を見てもらおうと、その場に屈み手を開いた。

 彼女が手に持っていたものは真っ二つに砕けた紫色の小石だった。三センチ角ほどの小さな石はほんのりと輝きを帯びていた。 

 僕が今まで手にした証明部位は、ゴブリンの右耳やコボルトの右耳にウルフの右耳。こんがりと焼き上がった右耳ばかりだったこともあってか、それがとても色鮮やかで綺麗に見えた。

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