第五話「私がドンを助けるなんてあり得ないんだからね!!」
「大樹の神よ……予言の者に現世を駆ける力を与えよ。そしてスキルを授けたまえ!」
コーンはいつもとは違い神々しいオーラを身体から放ちながら私に向かってそう言い放った。
すると、私の身体の周りに黄緑色の小さな
「綺麗…‥じゃなくて何よこれ!怖いわよ……!」
「ユグドラシルの加護を受けてるんだよ」
「意味分からない!」
その私の声の後、小さな珠は私の身体に吸収されたようで消える。
き、気持ち悪い……あとユグドラシルって何よ……
「これで"
「えぇ…………なんか癪に触る言い方だけど……感謝するわ」
「感謝って気持ち悪いなアリス。僕はあくまでドンを助ける為にやったんだ」
そのコーンに私は舌をベーっと出す。
それにコーンは不敵な笑みを浮かべて私を睨み返してくる。
やっぱり相容れないわね……
舞台の世界が変わろうとも人間関係はそう変わらないのかもしれない。
そう余韻に浸っている私にコーンは何やらまた話しかけてくる。
「でもまぁ……感謝してくれたアリスにしょうがないから教えてやるけど君の得たスキルは"
まぁ僕も初めて見るスキルだなこれは……」
「何よ素直じゃないわね!使い方は?それは分からないの?」
「君に言われたくはないけど……使い方ね。うん、それも見える。ふむふむ…… 物質を自在に操る事ができる。物質というのは人間も含む。他者の魂を一時的に眠らせ、自身の魂を移しその人間を乗っ取る事もできる。その場合、スキル使用者の身体は魂が抜けて動かなくなる」
どうやって見えてんのよこいつ……説明書みたいな感じで読めるのかしら……
「物質や人間を操れる力……ね。分かったわ!」
人間を乗っ取ると聞いて私は閃いた。先生を乗っ取ってドンを殴る行為をやめさせればいいんだわ!
そう閃いたと同時にコーンは命令するように言う。
「さぁ行けよアリス。そしてドンを助けてやってくれ」
「勘違いしないでよね!私はアンタの為にアイツを助けるわけじゃない。ただの私のエゴよ」
「分かった……分かったよ」
何やら呆れた感じでコーンは私にそう言う。
「何よ!」
その怒った私を
「こ、これで君は"
「もう……!はぁ。やっぱりそうよね……ってか現実に戻る呪文なんて知らないわよ!」
「ごめんごめん今言うから……"リターン"。それだけだよ」
「それって呪文に入るの!?ま、まぁいいわ。」
私は半信半疑になりながらも、意気を込めて言い放つ。
「り、"リターン"!!」
その後、私の足元に赤く光を放つ魔法陣が現れ、
その直後、魔法陣から放たれた無数の細い光線が私を包み込む。
「最後にアリス!スキルを上手く使ってね!」
そのラビーの声が途切れ私の目の前は真っ暗になった。
そんな……初めてなのよ!無謀な要求するんじゃないわよ!!
……あれ?
この感じ……ワンダーランドとは違う空気。
戻ってきたのね。私はそう悟り目を開ける。
眼前には青空が見えた。
そして、ハッと我に帰る。
ふと、起き上がり前を見ると先生の後ろ姿が見える。今にも殴り込む姿勢だ。
ラビーの最後の発言。スキルを上手く使ってねという無謀な要求に応える為、私は自分の感覚を信じてスキルを使ってみる。
咄嗟に念じる。す、スキル…‥発動!!
先生に魂を移せ!!
そしてその瞬間、私は身体が重く感じた。
腕を振りかざしている事も意識できた。
目前にはドンが居て、腕で身体を防いでいるみたい。
「あ、あれ?本当にできちゃってる!」
「なんだ?ビビったのか?この野郎!!」
そのドンの声が聞こえたと思ったら鈍い痛みが身体を走る。
「……っ!!痛い!!」
ドンは私を蹴ったであろう足を地面に戻した。どうやら腰辺りを蹴られたみたい。
まさかこのままボコられるの!?そんな……!
「ちょっと待ってやめてよ!!私はアリスよ!」
先生の声帯から出るのは勿論いつもの私の声ではなく、低いおっさんボイスだった。
「何言ってやがる痛みで狂ったか?」
その説得も効くわけがなくドンは完全に私を先生だと認識しているようだった。
このままだとボコされる……
そう察して絶望感が私を包み込む。しかしそんな中、私はコーンの発言を断片的に思い出す。
物質を自在に操れる…‥物質というのは人間も含む。
それならドンも操れるのよね!
それに、身体が先生になっても魂は私ならスキルは使えるかもしれない。
それなら……ドン…‥悪いけどいつも虐められてるお返しよ!
「スキル発動!!」
私はそう叫ぶ。
「なっ!!」
ドンは意味不明な発言に驚いている。
私は気に留めず手をドンに向け、念じた。
……"透視予測"発動!
その瞬間。私の手は何かを掴む様な感覚になる。
そのまま右手を上に掲げるとドンの体は二メートルほど浮上した。
そして、私は掲げた右手を後ろに動かし、投げるための助走をつける。
ドンの体も私の右手の動作と同じく虚空を舞う。
虚空で悲鳴をあげるドンを尻目に私は右手をボールを投げるように迅速に動かす。
「うわぁぁぁぁ!?」
ドンが間抜けの声を出して私の……いや今先生である私の前から四メートルほど宙を舞い、吹っ飛んだ。
あの弱い私が……ドンを投げた!?
いや今の身体は先生だけどまぁ……魂は私なんだから私でいいわよね!
「ぐっ……!何が起きやがった……」
ドンは地面にぶつかった衝撃で痛そうにそう呟く。
「クソォォォ!!」
そして悔しそうにそう叫び、先生に乗り移った私に突撃してきた。
く……また"透視予測"の出番かしら……
そう思った時。
「ドン!俺も加勢するぜ!」
まさかの加勢。悪ノリ三人組の一人ヴァン・チュニジアの増援のようだわ……!
私はこの状況で的確かつ明快な判断を思い付いてしまう。
スキル発動……!心の中でそう念じる。
先生に移った私の魂を元に戻せ……!
すると一瞬目の前がぐらつき、私は青空を仰向け体制で見ている状態になっていた。
私の魂が先生に移った時、元の私の身体は地面で仰向けになった状態だったみたい。
成功の様ね!これは確実に私の体ね。
そう……この作戦はドンとヴァンを利用する物よ。
ふと先生の方を見ると作戦通り、三人は大乱闘状態。
ヴァンの足蹴りとドンの殴り込み、それが魂が目覚めた瞬間の……言うならば寝起き状態の先生にダイレクトアタック!
「ウグッ……!!」
妙な喘ぎ声を出して先生はボコボコにされ始める。
私はその隙にメトロポリタソミュージアムのロビーへと駆け付ける。
「はぁはぁ……逃げ切ってやったわ…‥あとのことは知らない!もうあの先生のせいで…‥めちゃくちゃじゃないの」
私はそう呟き、息を切らしてロビーで調子を整える。
そうして調子が整った頃、ロビーに逃げ込んだ私に気づいたのか、チャシャとレッドがロビーに入ってきたみたい。
「アリスちゃぁぁん!!うぇぇぇんん!!」
目を泣いてる顔文字(><)みたいにしながら、レッドは私に抱きついて来た。
「死んだかと思ったよ!!良かったぁぁ!!」
「ちょっと声が大きいわよ……!」
ロビーにいた他の学生達は私達に注視している。
「ご、ごめんごめん。嬉しくてつい」
もう……!
そう心で呟くと後ろからチャシャも来た。
「アリス……無事で良かったぜ。それより、お前やっぱあの国に行ったんだよな…‥あの感じ……いや後で話そう」
「なになに!二人だけの秘密ぅ!?許さないよ!?」
レッドはそのチャシャに反応する。
私は心の中で「チャシャ……!それレッドがそばにいる今言うの?」と呟く。
そして、チャシャはレッドに答えた。
「やべ……秘密というか……なんというか」
その困惑するチャシャに続くように私は答える。
「もう!チャシャのバカ!レッドにサプライズプレゼントするって話ここでしないでよ」
私は咄嗟に思いついた言い訳をする。
「なーんだそういうことね!二人とも……サプライズ用意してくれてたなんて!チャシャ君の言ってたあの国ってピザニーランドの事だよね」
「そ、そうなんだよ!いや〜俺って本当間抜けだわ!」
なんか上手くまとまったみたい……
はぁ今度レッドにプレゼントあげなきゃならなくなったわ……
あと、先生とドン達は一体どうなったのかしら……
校外学習、めちゃくちゃになってきたわね。
〜第六話へ続く〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます