光子のアリス
中村サンタロー
第一話「遅刻なんて絶対ダメなんだからね・・・!!」
「アリス!!!」
有名小説の主人公の名前を呼ぶ声が私の脳裏に響き渡る。私はこの名前が大っ嫌い。
だって私の人生はずっとこの名前との戦いだったんだから。事あるごとに不思議の国のアリスと比較されるのだから。
「一体全体、何の用なのよ……!」
そう膨れっ面になりながら後ろを向く私の顔はきっとハリセンボンのようになっていただろう。……そんなブスじゃないけどね……!
「ほら。今日の予定忘れたのか?」
中性的な容姿の男から発さられる声。
その声は高校生にしてはやや高い。
呆れ顔で話すこの黒髪男の名前はチャシャ・ブラウン。私のいわゆる友達だ。一応……
一応というのは置いといて、私はパジャマ姿のまま発狂に近い状態になる。
「そ、そうだった!!今日は郊外学習の日!!」
すっかり忘れて、夜通しゲームしちゃった……!
「やっぱり忘れてたのか……学校の奴ら待ってるぞ。終わったな」
「ははは!」と他人事のように笑うチャシャ。そのチャシャに若干の殺意を沸かせながら私は絶望する。
先生に怒鳴られちゃう……!
私のクラスの先生は厳しい先生だ。
急いでパジャマを脱ぎ(チャシャには見えない場所)、適当にタンスから服を持つ。
ちらりと見るとその服は着たくもないアリス風のドレスだった。
……この服は……
若干迷ったが、チャシャの急かすような声が聞こえるので仕方なくその服を着てチャシャの方に急ぐ。
チャシャは私の方を見て「その服……」と呟いたと思うとすぐに続ける。
「ほら、早く行くぞ。先生がくる前に」
「?」
私は頭にクエスチョンをつけたような顔になった。
「先生はまだ来てねー。今ならまだ間に合う。」
そういうことね……よかった……
それなら……
「早くそれを言いなさいよね!!!」
そう私は叫ぶとチャシャは「悪い」と笑いながら言う。
もう……!
心の中でそう呟いた。
そして、先生に怒られないことを悟った私は安堵の息を吐く。
そしてチャシャと私は急いで学校に向かった。
大きな門が
ここは"ウェストドリーム高等学校"
アメリカにある普通に有名な高校。
いつもと変わらない門をくぐるとそこには普段とは違う人が集まるゾーンがある。
バスを待つ1年生の集団だ……!
「アリス遅いぞ〜」
「また遅刻?」
「あの服って……」
クラスメイトの声が聞こえる。
「ふぅ〜なんとか間に合ったな」
チャシャはため息をつき私は少し残念そうに言う。
「そうだけど……この服で来ちゃったわ」
この服……
私は嫌な記憶を辿り始める……
それは、私がウェストドリーム高校に初めて登校した日に起きた。
「アリスちゃぁぁぁぁん!!!!」
甲高い声が小さなアパートの106号室に
その声の主は私の母親、エモ・スカーレッドから発さられる物だ。
「ママ!!近所迷惑考えてよね……!それで何の用?」
呆れ顔で返答する私に母は嬉々として言う。
「この服、アリスちゃんにピッタリよ!ほら!」
母の手に掴まれているその服は……そう。さっき適当に選んで仕方なく着てしまった服。通称"アリス服"だ。
それは不思議の国のアリスが来てそうな服。略してアリス服。
「な、何よそれ!!まさかそんなもの着せて学校に行かせるつもり!?」
「あったりまえでしょ〜。しかもこの服五十万くらいしたのよ?」
それを聞いて私は完全に悟る。
絶対着なきゃじゃん……
こうしてアリス服を着て学校に行く私は金髪ボブヘアーで"アリス"という名前も相まって痛い奴扱いをされ、散々揶揄われたのだった。
そして夏休み以降アリス服はタンスの中に封印した。
でも十二月の今日。その封印は自らの手により解かれた。これが何を意味するのか……
「や〜いアリス姫ちゃんの再来か!これは面白くなってきたな」
そう。クラスの悪ノリ男子どもが騒ぐのだ。
「アリスインワンダーランドの開幕です……!みなさん楽しみましょう!」
男三人組はゲラゲラ笑っている。私はそれに耐えかねて「うぅ……」みたいな声を出す。
その時だった。
「やめなよ君たち。アリスさんが可哀想だろ……!」
かっこいい美声と男にしては少し長い白い髪を靡かせるこの方の名前は。
ディオ・モルテーレ。私の所謂好きな人だ。
「げっ……ディオじゃん」
「逃げろ!」
三人組はそそくさに立ち去った。正確には、私たちから遠くに離れた。
「大丈夫?アリスさん」
ディオ君はそういうと私の顔を覗き込む。
「ありがと……って!べ、別に助けなんて要らなかったけど……い、一応感謝はするわ……」
何やってるの私……せっかくディオ君と話せたのに……!
自分の悪い癖が目立つ……!!
「あはは。いいよ。アリスさんが無事でよかった」
笑顔ではにかむディオ君に私は若干顔を赤らめる。
はわわ……
まるで時が止まった気分だ。そんな時を動かすように後ろからチャシャの声が聞こえる。
「あ、レッドも遅れてきたみたいだ」
もう……!なんなのよ……
そう頭の中で呟いたと思ったらいきなり。
「アリスちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」
甲高い声が耳元で響き反射的に耳を塞ぐ。
この声は……
「その服すっごい良いね!!!今日のアリスちゃんも最高すぎぃ……」
そう恍惚な表情をして涙を流す少女の名前はレッド・オルトリア。
九月終わりに転校してきたばかりの転校生でこの通り私に異常な執着を持ってる。
レッド……今だけはやめてよね!だってあの人が見てr……あれ
周りをキョロキョロ見渡す私の目にディオ君の姿は無い。
どうやらレッドの狂気に驚いたのかそれとも引いたのか……
どちらにせよ姿は消えたみたい。
もう……!!
私は肩をガックリ落としてどんよりする。それを見てレッドは反応する。
「どうしたのアリスちゃん。何か嫌なことでもあったの?」
まるでこの世に不幸は存在しないとでも言いそうなくらいの勢いでレッドは明るい顔を向けてくる。
その嫌なことの原因を作ったのは誰よ……!!
そう心で呟いたと同時くらいのタイミングでクラスメイトのざわめき声が収まる。
これは先生の来る合図。
「全員時間通りに来たみたいだな。遅刻していたら今頃どうしてたかな」
私とレッドは体を少し震わす。
セーフ……
私は心の中でそう呟く。
それから先生は「バスが来るからみんな下がれ」とクラスメイトに言い放った。
すると数秒後バスがやってきた。
紫色のクラス五十人が収まるくらいのサイズのバスだった。
ガヤガヤとバスに乗っていく生徒を眺める私の脳内に突如声が聞こえ始めた。
それは鈴のような声音だった。
(僕と……)
「ん?」
私は疑問符を口から放つ。その様子を不思議に思ったレッドが私に話しかける。
「アリスちゃん、何かあった?自分が可愛すぎて困っちゃってるの?」
「そ、そんなわけないでしょ!!ただ……ほら、変な虫がいたな〜みたいな?」
私はレッドにヤバい奴だと思われたくないから必死に言い訳をする。
だって何か声が聞こえるとか言い始めたら完全に気狂いよ。
それでなくても今アリス服なんだからね!
そんな話をしている私達は気づけば順番が回ってきていた。
バスの中に乗り込んでみる。見かけより結構広いバスで後ろの方が空いている。
よし……ここは後ろに……
そう意気込み歩こうとした時、肩に痛みが走る。
「……っ!!!」
「おっと、パチモンアリスか!影が薄過ぎて当たっちったぜ」
私を見て愉悦に浸るような顔を浮かべるそいつはさっき私をアリス姫だのアリスインワンダーランド開幕など散々煽ってきた三人組の一人、ドン・ムニエル。
あの時は、学年揃っていたから三人揃いだったけど今は一人みたいだ。
何がパチモンアリスよ……!
ちょっと涙目になる私にドンは笑みを浮かべ続ける。
「ま、悪く思うなよ。自分の影の薄さを恨め!ははは!!」
すると後ろからレッドの声がする。
「アリスちゃんに何やってるの!?」
ドカン!とアニメみたいな音が聞こえたと思いきやドンは二メートル先まで飛んでいた。
〜第二話へ続く〜
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