リアーナと向き合う

クルト領への視察が終わり、学園でのいつも通りの日常が戻ってきていた。


クルト領の視察からしばらくが経った頃、私はロイド様にあるお願いをしていた。



「ロイド様、王妃様に謁見えっけんさせて貰えないでしょうか?」



「急にどうしたんだい?」


今までの人生でロイド様は私をかたくなに王妃様に会わせなかった。


まずは、今までの人生と決定的に違う所から確かめようと思ったのだ。


しかし、そのようなことを正直にロイド様に言えるわけがない。


「私とロイド様が婚約をして、もう二年以上経ちますわ。そろそろ挨拶をさせて頂きたくて・・・」


「ああ、なるほど。構わないよ。ただ、王妃の予定と合わすので少し時間を貰ってもいいか?」


「構いませんわ。有難うございます」


私はロイド様に深く礼をした。


その後、ロイド様は一ヶ月後に王妃様との謁見が出来るよう取り計らって下さった。


もう私たちが学園に入学して、一年半が経っていた。


つまり、リアーナが入学して半年が経過した。


リアーナは、学園での「聖女」としての地位を確実なものにしていた。



「リアーナ様は、御心まで本当に聖女のようですわね」


「素晴らしい能力を自分のためだけでなく、他の者のためにも使って下さる」


「まさに『聖女』の名に相応しい」



リアーナの周りにはいつも人が集まるようになっていく。


そんなある日、リアーナが私の寮の部屋を訪れた。



「お姉様、私、学園でも沢山の人達に囲まれるようになりましたわ。でも、まだ足りない」


「そろそろ地盤が固まってきた頃でしょう?ねぇ、お姉様。そろそろ私に舞台を譲って下さらない?」



その日の翌日、リアーナはある行動を起こした。


リアーナが私の教室を訪れたのだ。


今までリアーナは学年が違うこともあり、私の教室に来たことはなかった。


「ティアナお姉様!」


「どうしたの?リアーナ」


昨日のことがあるので、私は身構えてしまう。


「お姉様、昨日はごめんなさい!私の不手際で、お姉様を怒らせてしまいましたわ。本当にごめんなさい」


リアーナは私に深く頭を下げる。


リアーナの行動の意味がすぐに理解出来ない。


「お姉様、許して下さいますか?」


そう述べて、リアーナは私に近づく。


「いたっ・・・!」


リアーナは「まるで私が突き飛ばしたか」のように転んだ。


クラスメイトが私達に注目しているのが分かった。


ああ、リアーナは私を悪者にしようとしている。



きっと今までの私ならリアーナに悪者にされようとも何も言い返さなかっただろう。



でもね、リアーナ。


私はもう一度、ロイド様にもリアーナにも向き合うと決めたの。



「リアーナ、怪我はない?」



私は背筋を伸ばし、微笑んだ。



「リアーナが転びそうだったのに、上手く受け止められなくて御免ごめんなさい。怪我をしているかもしれないわ。一緒に手当てに行きましょう?」



私はそう述べて、リアーナを教室から連れ出した。


そして、リアーナを空き教室に連れて行く。




「お姉様、離して!どうせ怒っているんでしょう!」






ペチン。






空き教室に、静かに私がリアーナの頬を軽く叩いた音が鳴り響いた。


「ええ、怒っているわ」


私の怒りのこもった声にリアーナが私の顔を見つめる。




「リアーナ、悪女になりたいのなら徹底的になりなさい」




「お姉・・・様・・・?」




「毎回毎回行動を起こす前に、私に小言こごとを言いにきては事前に警戒させて・・・やることが甘っちょろいですわ!」


「リアーナ、貴方は悪女には程遠い。それでは、ただの私の可愛い妹ですわ」




私はリアーナの頬に手を当てる。


「それで私に嫌われようなんて、絶対に無理よ」


私はリアーナの頬を優しく撫でた。




「だって私、リアーナが大好きですもの」




リアーナはしばらくただぼーっと私の顔を見ていた。




「リアーナ、貴方は愛されたいだけ。ただただ無性に沢山の人の愛を求めているの。でもね、リアーナは勘違いしているわ」


「貴方はもう沢山の人に愛されているわ。それに気づいてないだけ。足りないと言い聞かせているだけ」


「ロイド様に愛されれば幸せ?・・・違うでしょう?」


「リアーナがリアーナ自身を愛することが出来れば、それでいいの」




リアーナの目から一粒だけ涙が溢れた。



「リアーナは良い子よ。私が自信を持って保証するわ。だから、リアーナ。どうか自分を愛してあげて」



リアーナは一粒だけ溢れた涙を必死にぬぐう。


「嘘よ!お姉様だって、もう私のことが嫌いなくせに!分かっているもの!」


「そう。じゃあ、これからもずっとリアーナを嫌わないから隣で見ていればいいわ」


「うるさいっ!うるさいっ!そんな綺麗事要らないわ!」


「あら、人生には綺麗事だって必要よ?」


「っ!お姉様の馬鹿!」


リアーナはそう大声で叫ぶと教室を出て行く。


本当はもっと早くちゃんとリアーナに向き合うべきだった。


ロイド様にも。


それをしなかったのは、最後の人生だと自分の幸せのために臆病になっていたからだ。


「本当にリアーナの言う通りね・・・」


馬鹿なのは、私の方。


誰とも向き合わずに、幸せを掴めるはずなど無いのに。


私は自分の頬をペチンと叩いた。


前を向くのよ。


これが最後の人生。



もう戻ることの出来ない輝かしい人生なのだから。

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