ヴィーク・アルレイドとの出会い、甘い申し込み

学園に入学して、十ヶ月が過ぎた。


今の私の一番の悩みはロイド様に婚約破棄された後、次にお父様が持って来るであろう貴族との婚約をどうやって避けるかということ。


まずは、フィオール家から離れることだろう。


しかしフィオール家長女として生きてきた私が急に公爵家を出て、自分一人で生きていくことは難しい。


ましてや絶対にお父様は許さないだろう。


まずは、協力してくれる者を探さなければ。


お父様に意見する時に口添え出来る者、つまり公爵家以上の身分が必要である。


ヴィルナード国では、有力な公爵家は三つ存在する。


我がフィオール公爵家とリゼル公爵家、そしてアルレイド公爵家である。


リゼル公爵家とはあまり繋がりがなく、協力して下さるとは思えない。


なので私はお父様に内緒でアルレイド公爵家に連絡を取り、訪れる約束を取り付けた。


アルレイド公爵家の客間に通された私は、緊張しながらアルレイド公爵家当主を待っていた。



「婚約破棄された後にフィオール家を出たいなど、どうやって伝えれば良いの・・・」



私はつい一人でそう呟いてしまった。


しかし驚いたことに客間に現れたのは当主ではなく、アルレイド公爵家長男のヴィーク・アルレイド様であった。


ヴィーク様は私と同い年であり、話したことはないが学園では同級生である。


「ティアナ嬢、すまない。父はしばらく領地に仕事へ出かけていてね。私が代わりに用件を伺っても良いだろうか?」


「いえ、こちらこそお時間を作って下さりありがとう御座います。えっと・・・」


上手く言葉が出てこない。


怪しまれずに力を貸して欲しいと言うことは出来るのだろうか?


「ティアナ嬢?」


「申し訳ありません・・・どう伝えれば良いのか、分からなくて・・・」


私のその言葉を聞いたヴィーク様は、しばらく何かを考え込んだ後、微笑んだ。


「ティアナ嬢、手を出してくれるかな?」


「え・・・」


私は困惑しながらも、ヴィーク様に手を差し伸べた。


その手を、ヴィーク様が急にぎゅっと掴む。


「ヴィーク様!?」


ヴィーク様は私が驚いていることにも動じず、数秒ほど手を握っていた。



「へー、ティアナ嬢はフィオール家を出たいんだね」



「っ!?」



私は驚きを隠せない。


「ああ、ごめんね。私の能力は、『触れた相手の言葉をさかのぼって見る』ことが出来るんだ。わずか30分ほどだけどね。能力を使って、ティアナ嬢の用件が分かるかは賭けだったが」


そういえば客間でアルレイド様を待つ間、私は呟いてしまっていた。


「婚約破棄された後にフィオール家を出たいなど、どうやって伝えれば良いの・・・」と。



「勝手に能力を使って悪かった。一応アルレイド家として、君が我が家へ害をなそうと考えていないか確認したくてね」


「・・・それで、ティアナ嬢。君はフィオール家長女であり、ましてやロイド殿下の婚約者だ。なんで公爵家を出たいなどと考えた?」



「それは・・・」



時を巻き戻していて婚約破棄されることが分かっていることなど、言えるはずがない。


「まぁいいや。好都合だから」


「え・・・?」


ヴィーク様がかしこまった姿勢を崩し、楽な姿勢で座り直した。


ヴィーク様の好青年な雰囲気が一変する。



「ねぇ、ティアナ嬢。僕と結婚しないかい?」



「何を仰っているのですか!?」


「理由は分からないが、君は婚約破棄されると思っているようだ。ならば、私と婚約すればいい。我がアルレイド家はフィオール家との繋がりが欲しい」


突然の出来事に頭が回らない。


「それとも、ティアナ嬢がフィオール家を出たいと考えているということは、もう貴族同士の政略結婚が嫌なのか?」


私は、言葉を何とか絞り出した。


「・・・はい。私は自分で幸せを掴みたいのです」


「なるほど。なら、大丈夫だね」


「え・・・?」



「私は結婚さえしてくれるなら、ティアナ嬢に干渉つもりは一切ない。自由に過ごしてくれて構わない」


「しかし、ティアナ嬢が婚約破棄される確証を私はまだ知らない。だから、今は深く考える必要はない」


「今は覚えておいてくれるだけでいい。私はいつでもティアナ嬢と結婚しても構わない、ということを」



そう仰ってヴィーク様は立ち上がり、客間を出て行こうとして私に振り返る。


「良い返事を期待しているよ」


ヴィーク様が客間を出て行かれた後、私はしばらく驚きで立ち上がることが出来なかった。



これから先、私の学園生活はさらに騒がしくなっていく。

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