第43話 世界のゼロが集結
カイたちは、神楽アヤメが主導し設立された対ダンジョン新組織、
薄い灰色の壁と近未来的なデザインのモニターが、会議室の空間に無機質な印象を与える。奥のテーブルには、神楽アヤメと日本を代表するS級ハンター達が並んでいる。
そして、中央の楕円形のテーブルを囲むように座っっているのが、世界中から集まった
カイは日本代表として席に座り、穏やかな表情で周囲を見渡していた。隣には彼を支えるリサとメイもいる。
彼らの視線は、会議室の中央でプレゼンを進める一人の女性、神楽アヤメに注がれていた。
会議の冒頭、アヤメが冷静な声で口を開く。
「皆さん、遠路はるばるお集まりいただきありがとうございます。堕天の進行が想定より早く、もはや各国単独での対応は不可能な状況です。本日からここ日本を拠点に、全員で行動していただきます」
アヤメは白いスーツを纏い、その端正な顔には確固たる自信と疲労が入り混じっている。モニターに映し出された「日本ダンジョン対策機構設立計画」のロゴを指し示しながら、皮肉めいた笑みを浮かべた。
「
「いよいよ世界的な課題になってきましたね」
リサが小声で呟くと、アヤメが赤く鋭い目で応じた。
「ダンジョンの発生の根本原因である『堕天』という言葉がどれだけ重いものか、ようやく世間も理解したのかもしれないわねぇ。……日本の対応はもう遅いくらいだけど」
その言葉には微かな怒りが込められていた。
すると、EUを代表する
「神の声が……私に告げています」
静かだが力強い声がテーブルを包つつむ。
「私たちはこの試練を乗り越えるために集められました。神の声に従えば、私たちは常に『強運』に守られ、必ず勝利を手にするでしょう」
彼女の言葉は確信に満ちていた。本国で「ジャンヌ・ダルクの転生」と呼ばれる凛とした佇まいに金髪の三つ編みと青い瞳が輝き、まるで本物のジャンヌ・ダルクが蘇ったかのような気品を纏っている。
「まあ素敵! ミラちゃん、神様がいつも教えてくれるなんて羨ましいわね」
ミラの向かいに座るゲイブ——USAの
「でもさアナタ、モナコのカジノで大負けしたって聞いたわよ。ギャンブルの時も神様に助けてもらえばいいのに。きっと常識的な神様なんでしょうねえ!」
ゲイブは手元の指輪をくるくる回しながらミラをからかう。
「私が耳を傾けるのは戦場の声だけよ。あなたの軽薄な態度では、その声を聞くことは永遠にできないでしょうね」
ミラが冷たい瞳で一瞥し、鋭い言葉を返す。
「まあ、怖いこと! あなたが戦場の声を聞いてる間、僕はファッションの神の声を聞いてるわよ!」
ゲイブが肩をすくめながら微笑み、胸元のネックレスをいじる。
「ゲイブさん……」
カイがやや呆れた冷静な表情で割り込んだ。
「協力する気がないなら出ててもらうわよ」
リサが睨むような目線でゲイブを責める。
「あら怖い! 日本の女性はみんなこんなに厳しいのかしら?」
ゲイブはわざと怯えたような顔をしてみせるが、リサの視線が真剣であることに気付き、すぐに態度を改めた。
「もちろん協力するわよ。だって、アナタたちがいなきゃ僕たちの国も困るんだから」
その間も、中国代表の
チベットの寺院で育ったといわれる天仁は、僧侶のような簡素な服を纏い、背筋をまっすぐに伸ばしながら何も言わない。まるでこの場にいないかのような沈黙だ。
「天仁さん。黙ってる場合ですか?仏に最も近い人間と言われてるアナタにも、何かしらの声が聞こえるのではないですか?……まあそんなものが存在すればですが」
ミラが冷静に声をかけると、天仁はゆっくりと目を開けた。その瞳には深い透明感があり、微笑を浮かべながら一言だけ呟く。
「すべては仏の御心のままに。……私は流れに従うだけです」
「流れに従うだけ……? 本気で言っているのかしら」
ミラが呆れたように眉をひそめる。
「怒りは心を曇らせるだけです。まずは皆さんも心を静めてはいかがですか?」
天仁の柔らかな声が、皮肉とも受け取れる響きを含んで室内に広がった。
「静粛に」
神楽アヤメが毅然とした声を上げる。室内の空気が引き締まり、全員が視線をホログラムに向けた。
「皆さんには、これから連携して堕天の進行を食い止めていただきます。この危機において優先すべきはただ一つ——人類の未来を守ることです」
その言葉に、ミラが神聖な声で応じる。
「神の声が告げています。この試練は、私たちが団結すれば乗り越えられると」
「こんな癖者揃いで団結ねえ。……楽しくなりそうだわ」
ゲイブが意味深に微笑む中、カイは静かにその場を見つめ続けていた。
「そろそろ本題に入りましょう」
アヤメの合図と共に、新たなホログラムが中央に映し出された。赤いラインが鋭角に上昇するグラフ。その横には、日本列島を示す地図があり、特定の地域に赤い点が集中していた。
「見ての通り、堕天の兆候は急速に進行しているわ。このままだと、数ヶ月以内に本格化する可能性が高い」
グラフを指し示しながら、アヤメは冷静な声で説明を続ける。
「堕天が本格化すれば、世界の法則そのものが書き換えられる可能性がある。何がどうなるか、詳細は不明だけど、一つだけ確かなのは——私たちが失敗すれば、人類が生き延びる確率は、限りなく低いということよ」
その言葉が発せられると、室内には張り詰めた沈黙が訪れた。
「事態はそこまで深刻なんだね……」
カイは低く呟くと、隣でリサが拳を握りしめた。
「それでも、止める手段はあるんですよね?」
彼女の声には希望と焦りが入り混じっていた。アヤメは目を細めて頷く。
「もちろん。そのために、JDANを設立したんだから……今問題になっているのは、S級ダンジョンの異常事態ね」
アヤメがスライドを切り替えると、壁が生物のように脈動するダンジョンの写真が表示された。
「壁が動き出し、まるで呼吸しているかのような現象が報告されている。それに加えて、新たに発見された特殊施錠の扉。この扉が、『堕天』に関わる重要な何かに繋がっていると推測してるわ」
「扉の先には何が?」
リサが問うと、アヤメは小さく首を振る。
「まだ不明よ。でも、普通の施錠とは違う。特別な解除スキルを持つ者しか開けられない仕掛けになっているわ」
「スキルで開く扉……」
カイは小さく繰り返し、リサと顔を見合わせた。その時、メイが低く呟いた。
「その『解術者』が堕天の側につくと、状況は悪化するかもしれませんね」
「ええ、でもそこで気になる事件があるの。新宿御苑にあるD級ダンジョン『万年窟』。ここで新たに見つかった、同じような扉が何者かに解錠されていて、中でC〜D級冒険者4名の遺体が発見された。ただ……唯一の生存者が確認されている」
アヤメが表示したのは、霧島シンジという名が記された入場記録だった。
「霧島シンジ。D級配信者よ……カイくん、あなたと同じ学校の生徒」
カイはその名前を聞いて息を呑む。
「先日、彼に会ったんです。まるで別人のようになっていました」
カイは出会いの出来事を語り始めた。いじめの標的だったシンジが、人間離れした力で不良たちを圧倒したこと。そして「神託者」という不気味な言葉を口にしたこと。
「人間とモンスターが融合したような……異常な存在でした」
カイの話を聞き終えると、アヤメは深刻な表情で呟く。
「おそらくそれは……『堕天』と契約して『使徒』になったのね……」
アヤメが呟くと、全員がその言葉に注目する。
「堕天の『使徒』……?」
「特殊なスキルを持つ人間が『堕天』の力と契約して生まれる存在よ。力を与える代償に『堕天』に利用される。おそらく彼が『解術』のスキルを持っていたのね」
「その『使徒』はボクたちにとって危険な存在なの?」
カイが疑問を口にすると、アヤメは静かに頷く。
「そうよ。『堕天』の扉を開放し、起こりをさらに加速させる可能性があるわ。そして使徒の戦力はSSS級モンスターかそれ以上と言われている」
カイは息を呑む。アヤメは続ける。
「さらに、もし霧島シンジが本当に『神託者』と言ったなら……カイくん、やはり君は
その時、会議室のドアがノックされ、スタッフが慌てた様子で報告に入った。
「神楽さん、霧島シンジがS級ダンジョンで配信を開始しました!」
その報告に、全員がモニターに目を向ける。
映し出された映像には、禍々しいオーラを放つ霧島シンジが、異様に変貌したS級ダンジョン内を進み、狂気な笑い顔を浮かべながら、次々とモンスターを倒す姿が映し出されていた。
【ソロでS級余裕とかバケモンじゃん】
【すげえ……シンジやべえ!】
【カイより強いんじゃね?】
【スーパールーキー爆誕!】
視聴者たちのコメントが配信画面を埋め尽くす。
シンジは笑顔でカメラを見据え、観客たちに語りかけた。
「この扉の先には、バカな為政者達に歪められた、この腐った世界を終わらせる力が眠っているんだよ」
配信者たちがざわめく中、彼は扉の前に立ち、解術を発動させた。
「さあみんな、もうすぐすべてが終わるよ、そしてこから、新しい秩序が始まるんだよ」
すると扉が重く音を立てて開き、その奥からは禍々しいオーラが溢れ出してきた。
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