第14話 人生初のデートと守護の誓い
【わかった!じゃあ明日会える?】
土曜日の朝、カイはリサとの待ち合わせに向かっていた。場所は表参道、リサの家の近くということだが、カイにとっては未開の地だ。この界隈は、まるでリア充たちのダンジョンのようで、攻略するのが難しそうな気さえする。
指定された商業施設の前に立つと、通り過ぎる人たちは皆、最先端のファッションで着飾っていて、カイのシンプルなジーンズとシャツ姿が場違いに思えてきた。少し恥ずかしくなり、なるべく目立たないようにと俯き加減で周囲を見回していたその時、リサが現れた。
「お待たせ!早く着いてたんだね!」
リサは、長い髪をツインに結び、丈の短いトップスを重ね着して引き締まったウエストの地肌が覗くスタイルだ。ミニスカートに健康的な脚が映え、厚底のブーツと絶妙にバランスがとれている。ダンジョンでの戦闘スタイルとは違い、女子らしい可愛さが溢れていた。
「あ、いや、全然待ってないよ」
「ふふ、カイってわかりやすいね。ちょっとそわそわしてる?」
「う、うん……こういう場所、実は初めてで……ボクの服もダサいし」
視線を落として小さく答えると、リサは驚いた顔をして笑った。
「え?初めてなの?シンプルでかっこいいよ、いい感じじゃない!」
そわそわするのは君のせいだよ、と心の中でつぶやいたが、初めてのデートに緊張して会話の糸口がつかめない。
「なんかカイ、背が伸びてない?それに、顔つきも変わったような……あ、メガネも外したんだね!」
リサの言葉に少し照れくさくなってしまい、カイは顔を赤らめた。
「うん……なんか最近、視力が良くなったみたいで……」
「へぇ!でもすごく似合う。かっこいいよ!」
「え、や、やめてよ、からかわないでよ……」
二人はそのままカフェに移動し、注文したドリンクが届くと、カイは公安からの依頼について切り出した。
「実は、公安から次のダンジョン配信について依頼があって……なんと、S級ダンジョンへの挑戦なんだ」
「えっ、今話題のS級ダンジョン?カイ、それ本気で受けるつもりなの?」
「うん、リサさんと一緒に配信できるならって条件で……勝手だったかな」
「……逆に嬉しいよ。へえ、そんなこと言ってくれたんだね」
リサは驚きで目を丸くしたが、直後、少し心配そうな表情を浮かべた。
彼女は手元のスマホを開き、過去のS級ダンジョンに挑んだ配信のことを話し始める。
「カイ、聞いたことある?以前にA級を攻略した強力なパーティがS級に挑んだことがあったんだけど……彼ら、ボスに辿り着く前に全滅して、配信が途中で途切れちゃったの」
「……全滅?そんなに危険なのか」
「そう。だからS級ダンジョンの配信記録はほとんど残ってないし、未知なことが多くて、難易度の次元が違うのよ」
カイはその情報を聞いて少し驚いた。いつも強気なリサがここまで慎重になるのは、それだけS級が並外れたものであることを示していた。
するとリサは、スマホの画面をカイに向けて差し出した。
「でもね最近、私達に関してダンジョン系の掲示板にこんな書き込みがされてるの!これ、見てみてよ!」
そこには配信時のコメントとは違う空気で辛辣な意見が多かった
351: 名無しのリスナー
あのS級ボスを一撃で倒した動画マジだと思う?
352: 名無しのリスナー
途中で壁の色が変だった
たぶんAIで作ったCGだと思うぞ
353: 名無しのリスナー
そもそも初心者がS級とかありえねー
フェイク動画確定
354: 名無しのリスナー
だから途中で配信切られたんじゃね?
BANされたとか
355: 名無しのリスナー
いや俺はライブで見てたけどあれマジだったよ
356: 名無しのリスナー
>>355
自作自演おつ!
357: 名無しのリスナー
>>355
スレこじき発見
358: 名無しのリスナー
公式だと倒したボスC級らしいじゃん
359: 名無しのリスナー
まじか、だせー。
そんな都合よくS級とか生まれるわけねーし
400: 名無しのリスナー
まあ次の配信でわかるんじゃね?
「まじで……むかつく!何も知らないくせに勝手なことばっかり書いてさ!」
リサは怒りに拳を震わせ、カイもまた自分の力が疑われることに少し悔しさを感じた。
「私ね、挑戦しない奴らがぬるいところから文句言ってるのが一番ゆるせないんだよね」
リサは深く息をつき、まっすぐカイの目を見つめる。
「私、絶対に次の配信で証明してやりたいの。カイとならきっとできるよね?今回は公式から事前に告知もあって、A級保持の有名配信者も参加するらしいし、S級ハンターも加わるって噂もあるの」
「そうなんだ、じゃあけっこう注目されそうだね」
「そうよ!多くのリスナーが同時視聴することになる、だからもう誰もフェイクだなんて言えないよ!」
リサの決意にカイも気持ちが高まっていく。S級ダンジョンなら、自分の力を試すにはちょうどいい挑戦かもしれない。だが、同時に不安も感じていた。
前回のダンジョンで戦った武王がS級ではなかった可能性もあり、次元の違う強敵を前にした自分が果たして通用するのかがわからない。
そしてもう一つ、カイが気にかかっていたのは、神楽アヤメが語った「ダンジョンの意思」という謎だった。もし自分がダンジョンで過度に力を使うことで、その意思を刺激してしまうなら、危険が増してしまうかもしれない。
(今回はリサさんを守り抜かないといけない。そのためにも、無駄に力を出さないよう気をつけないと)
決意を固めたカイの様子を見て、リサはニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、次はダンジョンで会おうね!新しい装備もあるから、早く見せたいんだ」
そして別れ際、リサはトコトコとカイの方に歩み寄り、じっとカイの顔を見つめる。
「え?なんかついてる?」
「……カイは、やっぱりかっこいいね。初めて会った時からずっとそう思ってる」
その一言に、カイの心臓がドキリと跳ね上がった。リサは微笑みながら「じゃあね!」と手を振り、軽やかに去っていった。
カイは立ち尽くしたまま、ぼうっと彼女の背中を見送る。胸の奥から温かな感情が湧き上がり、自分でも初めての気持ちに戸惑っていた。
(絶対に、ボクがリサさんを守り抜くんだ……)
強い決意と共に、カイは静かに誓った。
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