第6話 いきなり配信者デビュー
二人はダンジョンの入り口といわれる”ポータル”のある場所に到着した。
周囲は金網で覆われているが、外は配信者やそのファンたちで賑わっており、興奮の声や笑い声が飛び交っている。
「なんか……格闘技の試合会場みたいだ」
「ふふふ、中はもっと凄いよ」
その一番奥には、まるで大鏡のような青白い光が中空に渦巻いていて、不気味な気配を漂わせている。
これが、その色と大きさから”C級”と認定されたダンジョンらしい。
カイはあの部室で見た不思議な光に似ていると思った。
(ボクはあの光の中に入ったはずんだんだけど……その先がぼんやりして思い出せないんだよな)
リサが振り返り、少しだけ意味深な笑みを浮かべて言った。
「カイ、あなたは大丈夫よ、私が保証する」
(何を根拠にボクに期待してるんだろうか……でも、選んでくれたんだ!やってみるしかない!)
「うん、やれるだけやってみるよ!」
「じゃあ入ろう!頑張ろうね!」
リサは手を伸ばし、カイと軽く拳を合わせると、彼女はポータルの中へと歩を進めた。
カイは胸が高鳴るのを感じながら、リサの後についてダンジョンの中に足を踏み入れる。
この時不思議と恐怖よりも期待が勝っていた。
初めて挑むことになるこのダンジョンで、一体どんな経験が待っているのか――。
ポータルに吸い込まれるように、眩い光に包まれながら歩みを進めると、突然ドームのような空間が目の前に現れた。
そこには大勢の配信者が居て、戦略会議している者や、得た報酬の分配を話し合ってる者、怪我を治療している者など様々だ。
運営とよばれるブースには、見た目に屈強そうな人たちがいて、何やら配布しているのが見えた。
ここがいわゆる、ダンジョンのロビーと言われる場所である事は、配信を見て知っていたが、自分の目で見るその光景はとても新鮮だった。
ぼーとロビーを眺めていたカイの顔を覗き込むようにリサが訪ねる。
「さて、初めてってことはカイ、配信者のアカウントもまだ無いの?」
実は芸能人なんだと言われても疑わないほどに、彼女は可憐で整った顔をしている。
——こんな可愛い女の子がC級判定の配信者なのだから、測定に失敗したとはいえ、自分にも未知の可能性があるかもしれない。
カイは少しだけ期待を持ち始めていた。事実、ダンジョンに入って新たな能力に覚醒した配信者は多いのだ。
「うん……本当に何もかも初めてなんだ」
「いいわ!じゃあ私がレクチャーしてあげる!」
カイはリサに言われるまま、スマホを取り出して動画配信サイト「ライジングTV」のアカウント開設画面に目を通していた。
「ここに、さっき入力した名前とパスワードを入れて……ほら、登録完了よ」
カイが一通りの項目を入力し終えると、リサが登録者数の欄を見てふっと笑った。
「最初はゼロ人、だよね」
「そりゃね。私も最初はそうだったわ」
リサはあっけらかんと答えながら、自分のスマホでライジングTVを開き、自分の登録者数が映った画面をちらっとカイに見せた。そこには驚くべき数字が表示されている。
「3万人!? え、配信回数は……たったの2回でここまで増えるの?」
「まあ、ちょっとラッキーだっただけよ。ダンジョンの人気もあるけど、見られやすいタイミングもあったし」
「すごいなあ……」
カイは思わず見とれてしまうが、リサは少しだけ微笑み、彼の画面に向き直った。
「さて、せっかくだし今すぐ登録者数増やしましょう。私のコミュニティでも紹介しておくから、少し待っててね」
彼女が自分のコミュニティで「今からパーティ配信する初心者のカイくんだよ」という新しい配信者を応援する旨を公開すると、数分もしないうちにカイの登録者数が増え始めた。ゼロから一気に数百人単位で増え、気が付けば900人に到達している。
「す、すごい……ひとこと書いただけで、こんなに増えるんだ……!」
「これからどんどん増えるんだから、こんなのに驚いてちゃだめよ。すぐに1万人超えちゃうかもよ!?」
リサの笑顔に少し緊張が和らぎつつも、カイは登録者数の増加に不安を感じていた。何もわからない初心者がいきなり配信するというのは、勇気がいるものだ。
「さて、準備はいいかしら?あそこのブースで配信用のティックバードも持たせてもらえるから、それを使いましょう」
リサが指さした先にはテニスボールくらいの小型のドローンがあった。カイはそれを手に取り、恐る恐るスイッチを入れてみる。軽い羽音を立てながらふわりと浮かぶ。ティックバードは彼の顔の前にピタリと静止した。
このティックバードはダンジョン内部の『魔素』をエネルギーに変換していて、ダンジョン内に居る限りバッテリー切れは起こらないらしい。
「すごい……このドローン、ずっと自動で撮ってくれるの?」
「うん。このスマートウォッチを装備して……これとつながっているから、映りたいアングルを意識すれば、自動で追従してくれるわ。いちいち操作しなくても、ダンジョン内での移動に合わせてくれるから便利なの」
カイは自分の姿がスマホ画面に映るのを見て、少し照れながらティックバードを見つめた。
「なんか緊張するな……でも、面白そうだね」
リサはそんなカイの様子にくすっと笑い、「ダンジョン配信の基本」を教え始めた。
「あと、配信中の操作もこのスマートウォッチでやるの。見て、ここにボタンが3つあるでしょ?」
カイは腕に装着したスマートウォッチ型の端末に目を落とす。横に3つのボタンが並んでおり、リサはそれぞれの機能を指し示した。
「一番上が配信の一時停止、真ん中が配信の開始と終了、そして一番下が救助要請ボタン。もしもの時にはこれを押せば、運営がすぐに助けに来てくれるわ」
「でも……それって、結構やばい状況にならないと押しちゃいけない感じ?」
「まあね。緊急用だから、本当に最後の手段。配信を見てる視聴者も一斉に注目するし……。でも大丈夫、私がついてるから」
リサは安心させるように笑い、カイは少しだけ肩の力を抜くことができた。
緊張の中、カイはリサに促されて配信のスイッチを入れた。
「じゃあ、いくわよ。はい、カメラに向かって挨拶してみて!」
「えっ、いきなり?」
「うん、ほら、みんなに自己紹介を!」
彼女に促されて、カイは恐る恐るティックバードのレンズに向かい、「は、はじめまして……カイです。初めてだけどC級ダンジョンに挑戦してみます、よろしくお願いします」とぎこちなく挨拶した。
瞬間、スマホの画面にはコメントが次々に流れ始めた。
【お、初心者っぽいな】
【いいなぁリサちゃんと一緒か】
【いきなりC級?しぬなよー】
【カイ、がんばれ!】
と応援やからかいが混ざり合い、画面がにぎやかになっていく。
「これ、リアルタイムでみんなが見てるんだよね……」
「そうよ。だから頑張って。さあ、いくわよ、カイ君!」
ダンジョンのロビー近くは、低級モンスターしかおらず、モンスターも枯れていてるにもかかわらずガヤガヤと混み合っていた。
上級者や人気者は、こんな場所では配信しないらしく、リサはいきなり下層のボスに近いレベルまで降りると言う。
軽やかに奥へと駆け出すリサの背中を追って、カイは走り始めた。
その胸には不思議と恐怖はなく、むしろ期待感で高まっていた。
-------あとがき----------
最近、ブックマークだけがやたら増えててカイくんの気持ちがとてもよく分かるんだ。
きみ達はあれかな?神聖ブックマーク教団の宣教師なのかな?ボ、ボクを勧誘してるのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます