第25話 親睦


 巨大生物内。奥に居住区があると言われる気管の道中。


 四車線の道路ぐらいの広さで、真っすぐの道が続いている。


 その先頭を歩くのは、憲兵に変装したジーナと捕虜のベズドナ。


 後方にボルド、バグジー、アザミが縦一列に並んで、追従している。


 あれ以降、白軍の人とすれ違うこともなく、道中は驚くほど静かだった。


「せっかく集まったんだ。このまま解散も味気ない。親睦を深めないか?」


 するとベズドナは、手錠で拘束された立場で提案する。


 彼はこのまま順調にいければ、居住区の牢屋に収監される。


 どうせ策があるんだろうけど、離脱する確率は高い状態だった。


 だからこそ、奇跡的に集まっている今、仲を深めておきたいらしい。


 言っている意味は理解できるけど、物事には優先順位というものがある。


「そ、その前に、居住区に行ってどうするか、先に教えてくれませんか」


 アザミは食い気味で会話に参加し、主導権を握りにいく。


 一番の優先事項は、ここからジェノを安全に脱出させること。


 ジーナがいる手前、全ては話せないけど目的は分かっているはず。


 やや無理のある話題の変更だと思うけど、先に把握しておきたかった。


「せっかちだねぇ。……まぁそれも、親睦を深めるきっかけにはなるか」


 難色を示しながらも、ベズドナは前向きな反応を示している。


 弁が立つ彼なら、こちらにだけ作戦を伝えるのも造作もないはず。


 元々その予定だったかもしれないけど、言った以上は待つだけだった。


「ここには忘れ形見を取りに来た。攻略にどうしても必要なものでね」


 告げられたのは、かなり直接的な表現だった。


 捉え方によれば、脱獄宣言のようにも聞こえるもの。


「大きく出たな。いくらお前と言えど、あの牢屋から出るのは不可能だ」


 すぐにジーナは意図を察し、嘲るように言った。

 

 強気に出れるほど、警備は厳重で、施設は堅牢らしい。


 ただここまで丁寧に説明されれば、今後の展開は予想がつく。


「あぁ、内側からなら無理だろうね。でも、外側からなら……」


 背後を振り向いて、ベズドナは全員に視線を送る。


 そこには、隠れながら進む広島とジェノも含まれている。


 目的は明かされ、作戦も明確とくれば、ここにいる人たちは強い。


「「「「…………」」」」


 鋭い目を見せたのは、バグジー、ボルド、アザミ、広島。


 言葉ではなく表情で、それぞれの覚悟と決意を物語っている。


 足並みは揃い、表情には迷いがなく、真っすぐ前だけを見つめる。


 『親睦を深める』ことを目的とするならば、見事、術中にハマっていた。


 ◇◇◇


 巨大生物内。肺に連結している通路。気管支。


 左右に分かれる道が見え、その先も更に分岐してる。


 居住区らしき痕跡は見えず、グロい臓器にしか見えなかった。


「こっちだ。案内してやる。脱獄するには下調べが必須だろ」


 なぜか乗り気な様子のジーナは、右折する。


 その案内に従って、枝分かれした道を進み続ける。


 すると、開けた場所に出て、景色が目に飛び込んできた。


「これって……」


 広がるのは、高度な文明。現実世界に近い都市。


 殺風景なビルが立ち並んで、至るところに電線が通る。


 規模は想像以上で、東京都の一区画が丸々収まるほどの空間。


「ようこそ、覚醒都市バイカルヴェイへ。隅々まで案内して、心を折ってやるよ」


 ジーナは乗り気だった理由を明かし、堂々と都市に足を踏み入れた。

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