荒唐無稽

テラホラ拓也

ドッペルゲンガー理論〜あの日の悪夢〜

  ある日、父親が言った。

「縫合する。」と。私は、椅子にもたれかかっていた。理髪店で髪を切るときに掛けるような布をまとって。

父は、無抵抗な私の鼻を内側から外側にかけ、手縫い針を突き刺し、まるでミシンのように縫い始めた。痛みは感じず、流血したかは、覚えてない。

自分の鼻をおもむろに触る。縫い糸の感覚は……なかった。

  学校が変だった。

何を言っているのか、自分でもわからなくなる。「変だった」は、間違った表現だったかもしれない。だが、違和感だらけの変な、出来事だ。

 晴天の中、私含め何名かのクラスメートが担任を取り囲んでいる。何故か外で、何かしら喋っている先生に対し、私は、耳を傾ける。聞こえない。先生の口はパクパク動いているのに、声が聞こえない。周りの音が一切聞こえなかった。

 その時、一瞬にして皆が消えた。下を向くと財布を拾う先生、後ろを向けば四方八方に散るクラスメート。それを、先生が追いかける。すぐに、行間を読めた。

何人かが、先生の落とした財布から、金を抜き取ったようだ。おかしかった。私のクラスは、いつも騒がしかった。授業妨害なんて日常茶飯事。割合で言えば、そんな素行の悪い奴の方が多いクラスだが、れっきとした犯罪をやってのけるような人物ではない。

 私は何も考えずに落ちていた紙幣を拾った。先生に返そう。そう考え、私は、昇降口へと足を運ぶ。

 校舎へ入り、靴箱を通り過ぎた際、持ち主と遭遇した。

 先生「おお、君か。」

先生に「これ落ちていたぞ。貴方のものだ。」と握っていた紙幣を突き出すと、先生は、ありがとう。と発し前進しながら、私の手から私物を抜き取った。

  その擦れ違いざま、私は、気づいたのだ。体育教師である担任はいつもそして、外にいた方も、上にスポーツウェアを着ていた。だが、先程靴箱で擦れ違った方は、

 そんな学校生活を終えると、眼の前には父が。また、私の鼻に針を突き刺す。前回同様、痛みを感じず、そのまま、外は暗くなっていった。

 夜、私は、とある駅にて、一人でいた。とても遅い時間なのか、他に人は少なく、1番線に来た列車に乗る人は、今のところいなかった。そこで私は、彼と邂逅した。

 男「やあ、君。」

そこにたっていたのは………私だった。

現在いまの私が私だと直感したもう一人の私。高校生である現在いまとかけ離れた、おじさん臭く、洒落たスーツに、どこか陽気そうな私。

私は、彼を見たとき、何か安心感に頬が緩み、この生涯で一番大きな笑みを浮かべていただろう。

 その時まだ、出発していなかった1番線の列車…、私から見て右の方に、列車を背にする女性4人と、それに真っ直ぐ向き合う事務員の姿があった。

女性4人「ありがとうございました‼️」

女性達は、高々と片手を挙げ、事務員に胸を張って形式に則った礼の言葉を突き出した。どこかで見覚えがあると思ったら、女性達は、去年世界ツアーも開催した有名なアーティスト集団であった。何かのイベントだろうか。

ふと、その奥に何者かの気配が、私の肥えた眼に写った。

影4人「ハッ‼️……」

線路を照らす電灯は、さながらスポットライトのように、4人分のシルエットを映し出す。

それを見た有名人達は、でそのシルエットとともに、列車に乗り込んだ。

その時、私には見えた。光の反射具合でシルエットの内一人と、有名人の顔服装が、完全に一致していたことを。窓のカーテンがしまっていたため、私は、車内で起きていることを覗うことはできなかった。

  そうして、列車の扉が閉まるのを見届けた私は、もう一人の私に、提案をした。

私「ジャンケンしない?」

                             男「いいよ。」

何を思ったのか、私はこれに全てを賭けていた。そして、それは、相手も同じだった。そのことは、これを提案した瞬間から理解していた。

男「最初はグー。ジャンケンぽい!  あぁぁぁぁぁぁ!」

どうやら、私が勝ったらしい。適当だったため、3つのうちどれかは、忘れてしまった。

男「せめて、スマートフォンだけでも!」

たったの1戦で決まった勝敗に、相手は、必死だった。必死に私に自分のスマホを、私に託そうとする。必死なのに、その最期が、スマホということに、私は思わず、吹いて笑った。キャッチボールの要領で、

彼の形見に手を伸ばすも、私は、飛んでくる彼のスマホとポケットに在った自分のスマホが、磁石のように惹き寄せ、2台諸共バキバキに割れるという邪推をしてしまった。だが、放物線を描いていた彼のスマホは、私の右手を飛び越え、後ろでグシャッと音を立てた。

  そこまでのことは、憶えている。だが、私は気づけば、烈車の中にいた。

先ほど彼のスマホを取り損ねてから今まで、まったくどう頑張っても埋まらない行間ができてしまった。

その車内には、満員ではないものの全席に人が座っていた。だがそれは、人と形容していいのか曖昧であった。少なくとも私以外の客は全員、黒かった。黒人のことではない。俗に言う「黒は300色ある」という名言を実感できるほどに真っ黒で、その濃淡もどこからか差す光でしか、判らないほど。

  これをみて、私は思った。彼らは何者かと…

他者に扮装し本人として生活する。再現度の高い人物像なのに、どこかで本物と差別化されている。その結果が偽物という概念を生むのだろうか。

 自分は本当に自分自身なのか。それを証明することは誰もできないかもしれない。自分が本物だと思っているのなら、それが本人にとっての回答であり、それを答え合わせするのは、神のような第三者存在しなければ、実現しない。

ただ、自分が自分自身なのかの正解を知る人物は、一人いる。意図的に偽物として、扮装した存在である。

 彼らは、自身の存在に対し、どう考え、もう一人の同一の、2つ存在してはいけないと言われている、もう一つの存在に対し、何を思い、何をきっかけに入れ替わるのか。それは、誰もわからない。

  貴方は、本物の貴方ですか?

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