借金返済のためのダンジョン攻略! ~ウサギの獣人で孤児な少女は訳ありな仲間たちと共に深部を目指す~
パッタリ
第1話 ウサギの少女
「ダンジョン潜るぞダンジョン潜るぞダンジョン潜るぞー!!」
「あ、おい、待て。そんな装備で奥に向かうのは……」
薄暗い通路の中、自らを奮い立たせながら走り抜けるのは、白い髪と青い目をした少女。
その頭にはウサギの耳が生えているので、そこそこ目立つ。
名前はリリィ。
若い、というよりは幼い冒険者。
周囲の何人かは、軽装過ぎる彼女に対して忠告しようとしたが、あっという間に過ぎ去っていくのでどうすることもできない。
「ダンジョンの奥深くに進み、金目の物を回収してすぐさま地上に。そして借金返済! ふんふふーん」
誰もいない通路を進みながら、リリィは時々しゃがみ、背負っているリュックに拾ったものをポイポイと入れていく。
探索は順調に思えたが、その時、目の前に立ち塞がる存在があった。
「ブルルルル……」
「やべっ、やばい。よりによってイノシシっぽいモンスターとか」
鋭い牙が生えているモンスターは、少しずつ距離を詰めてくる。
その毛皮は並大抵の攻撃を防いでしまうだろうし、その牙は革製の防具に容易く穴を空けてしまうだろう。
そしてなにより、人間の大人と同じくらいには大きいため、ぶつかるだけでもかなり危ない。
相手に合わせてゆっくりと後退していくも、途中からイノシシのようなモンスターは走り始めた。
「ブフォッ、ブフォッ」
「くそー!!」
相手に通じそうな武器はない。
それゆえに判断は素早かった。
中身の詰まった重いリュックをその場に捨てると、全力で今まで来た道を逆に走っていく。
イノシシのようなモンスターは追いかけてくるが、放置されたリュックの前で立ち止まると、中身を漁り始める。
「とほほ……あれじゃ、回収できないや」
逃げ切ることはできたものの、もはや探索どころではない。
リュックがなければ、運べる量はほんのわずか。
かといって取り返すことは相手が強そうなので不可能。
ぼやきながら、とぼとぼとした足取りで地上に戻るその背中には、どことなく哀愁が漂っていた。
地下から地上へ。
ダンジョン内部にある階段をいくつか越えていくと、騒がしい建物の内部に出る。
近くの看板には、冒険者ギルドという文字が描かれていた。
「おや、リリィじゃないか。その様子からすると、今回は大赤字か」
周囲には大勢の人々がいるが、その中の一人が声をかける。
だいぶ高齢な老人であり、頭には二本の角が生えていた。
「……モンスターのせいでリュック失くしちゃったし、買い直す場合はまた借金が増える。はぁ」
「なあに、死んでないならどうにでもなる。小遣い程度の金でよければ、わしの手伝いでもするか?」
「しまーす。ベイルさん、この木箱を運べばいいですか?」
「うむ。木箱を持ったまま、わしの後ろをついてきなさい」
木箱は中身が詰まっていて重いが、リリィは慣れた様子で持ち上げると、騒がしい建物の中を歩いていく。
「このギルドにて、君が冒険者として登録したのはいつだったか」
「五年前です。十歳の時」
「いやはや、孤児の身でよくぞここまで生きてこれたと言うべきか」
リリィには親がいなかった。
物心ついた時から一人であり、冒険者ギルドの周囲で荷物運びなどの手伝いをしながら生きてきたが、成長してからは冒険者となる道を選んだのだ。
そうする以外なかったという事情もある。
「あまり稼げてないですけども」
「だが、経験を積むことはできている。現在の冒険者ランクを教えてもらえるだろうか」
「アイアンです。ベイルさん」
「ふむ……」
冒険者ギルドに登録した冒険者は、いくつかのランクに分かれている。
一番下っ端で微妙なストーン。
それよりややマシなアイアン。
多少は使い物になるブロンズ。
周囲から認められるシルバー。
誰もが憧れて目指すゴールド。
この五つである。
「五年かけてアイアンのままというのは、ちょっと物足りなく感じるなあ。若さを考慮するにしても」
「そうは言っても、依頼とかはあまりこなしてないし」
冒険者ランクを上げるのはとても簡単。
ギルドに出される依頼を受けて、成功させればいい。
もちろん、一つだけではなくいくつも。
なお、依頼内容は多岐に渡るため、どの依頼を受けるのかよく考えないと失敗する場合がある。
そうなると、ランクの昇格は逆に遠くなってしまう。
「まずは、小さな依頼をコツコツ成功させていくという基本に立ち返るべきだろう。失った装備品とかを揃えるための資金集めも兼ねて」
「うーん、一気に奥深くまで潜って、売れそうな物を回収して地上に戻る、じゃダメですか?」
「それで借金があまり減らないのだから、今は少し遠回りな道を進むべきではないかな?」
「わかりました。コツコツとやっていくことにします」
「うむ。あ、木箱はそこに置いてほしい。ほれ、お駄賃だ」
「ありがとうございます」
中身の詰まった木箱を運ぶことで得られるお金は、一回の食事代程度。
リリィはお礼を言ったあと、冒険者ギルドの建物の中を適当に歩いていく。
「さてさて、どうしよっかなー」
石造りな建物は、三階建てながらも中央の広い部分は吹き抜けになっており、どの階にも大勢の人がいるのが見える。
一階部分は、依頼の貼ってあるボードとダンジョンへの出入口、そして様々な手続きを行える受付が存在する。
二階部分は、冒険者向けの酒場などの店舗が今日も賑わいを見せており、見知らぬ冒険者同士が一時的にパーティーを組んだりすることがあった。
三階部分は、ちょっとした宿屋として冒険者たちに解放されており、リリィはそこにある部屋を一つ借りて普段寝泊まりしていた。
「依頼を受けるか、仲間を探すか……むむむ」
次にどうするか考え込むリリィであったが、思考の途中でお腹が鳴ってしまう。
これではいけないということで、とりあえず二階の酒場へ食事に向かうが、冒険者というのは荒くれ者がそこそこいるため、早速近くで酔っぱらいの喧嘩が始まるという有り様。
「いけー! 俺はお前に賭けたんだ。勝てよ!」
「負けるな! いくら賭けたと思ってやがる!」
「……賭けか。参加しちゃおうかな?」
さすがに武器を使うと危ないので、素手による喧嘩なわけだが、周囲の野次馬たちは勝手に賭け事を始めている。
それを見たリリィは、パンを千切りながらスープと一緒に食べつつも、賭け事に参加するか悩んでいた。
自由に使えるお金はあまり残っていないものの、賭けに勝てばそれを増やすことができる。
なかなかに危ない考えだが、手っ取り早くお金を増やせる手段ではある。
「ちょっと、そこ通るからどいてくれない?」
「あ、はい」
考えていると声をかけられるため、リリィは慌てて椅子をずらした。
冒険者と一口に言っても色々な人がいるもので、今声をかけてきたのは魔術師らしき格好をした女性。
下半身はヘビとなっているため人間以外の種族であるようだが、冒険者としてはそこまで珍しいことではない。
そもそもリリィ自身、ウサギの獣人であるからだ。
白く長い耳に、短い尻尾。
特徴的なそれらは、人間とは異なる種族であることを示している。
「魔術師……いや、まずは後衛よりも前衛のがいいかな」
さっきまで賭け事に向かっていた思考は消え、今はどんな仲間がいいかについて考えを巡らせていく。
探索を重視するか、戦闘を重視するか。
「んんー、わたしはあまり強い方じゃないし、ランクも低い。そうなるとパーティー組んでくれる相手は限られるから……」
考え込んでいるうちに酔っぱらいの喧嘩は終わり、お金の支払いが行われていく。
大量のお金が触れ合うことで聞こえる音は、あまりにも欲を刺激してくる。
リリィは目の前にある食事をさっさとお腹に詰め込んでしまうと、お金の音から逃げるかのように、一階部分の依頼が貼ってあるボードへと向かった。
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