第47話 アンジュン辺境伯 ブザーン砦(2)

 エーリカの攻撃魔法によって城門が破壊されたブザーン砦は、屈強で訓練されたオーガ達の侵攻に対抗することなど一切出来なかった。


 そして、砦の司令官であるシュンシーが捕縛されるに至って、砦の抵抗は終了した。


「けが人はこっちに運んでこい!切れた手足もな!」


 この砦の攻略に当たって、人族の兵士を出来るだけ殺さないように指示を出していた。切り伏せるときも、胴体では無く手足を切るようにと。そして、重傷を負って動けなくなっている人族の兵士を一カ所に集めて、魔法で治療を施していった。


「そんな、切れた腕まで繋がるのか?」


 ガラシャをリーダーにして、治癒魔法の使えるオーガ族の者達が治療をしていく。ぐちゃぐちゃになった手足は元には戻らなかったが、きれいに切り落とされた手足がくっついていく様を見て、人族の兵士達は驚愕していた。


「お前がこの砦の司令官か?この砦は俺たちが占領した。これからは俺たちの指示に従ってもらう。蘭丸、縄を解いてやれ」


 シュンシー司令官を連れてきた蘭丸が、縛っていた縄を手刀で切る。


「お前は人間か?どうやってオーガ族を従えたのだ?それに、なぜ同じ人族の砦を襲う?」


 シュンシー司令もオーガ族のことは知っている。数は少ないが一人一人の戦闘力は強大で、人族が従えるようなことは出来ないはずだ。


「簡単な話だ。俺様が一番強ええからだよ。それに同じ人族って言うなら、なんでお前らは同じ人族を他国に奴隷として差し出してるんだ?かわいそうだとは思わないのか?」


 信長の言葉を聞いて、シュンシー司令は眉根を寄せる。


「は?下賤な奴隷を列強に送って何が悪い?それでイーシ王国3000万臣民の安寧が図れるのだ。安いものではないか」


 ドゴン!!


 その言葉を聞いた信長は、シュンシーの頭にげんこつを加えた。かなり手加減して。


「信長様。死んだかもしれませんね」


 いつもの淡々とした口調で、蘭丸が現状認識を正確に表現する。シュンシーの頭は地面にめり込んでいた。手足がぴくぴくしているので辛うじて息はあるようだった。


「あ、やべぇ」


「ちょ、ちょっと信長くん!オーガ族の人には捕虜虐待は絶対にするなって言ってたでしょ!?それなのに信長くんがこんなことしてどうするのよ!」


 駆けつけてきたガラシャが、すぐに治癒魔法を施す。そして数分後、シュンシーが意識を取り戻した。


「・・・お花畑が・・・・・」


 意識を取り戻したシュンシーは、ぼうっとした様子で独り言をつぶやいた。


「どうした?ぼうっとして。夢でも見ていたのか?」


「いや、その、何か強烈な衝撃があって、小川のあるお花畑に飛ばされていたような・・・」


「気のせいだな。まあいい。俺は自国の民を奴隷に出すような連中が許せないんだよ!だからな、まずはこのアンジュン辺境伯領を乗っ取ってだ、次にイーシ王国を乗っ取る。いいな!お前達を俺様の家来にしてやる!ありがたく思え!」


 臣従するか殺されるかのどちらかを選べと迫ったところ、シュンシーとその配下達は臣従することを選択した。面従腹背というやつだろうが、まあいい。どうせ武器は破壊してこの砦に置いていくし、どちらにしても抵抗など出来ないのだ。


 城門は吹き飛ばしたが、その向こうにある兵舎などは無事だった。その為、人族の兵士を外に出して、信長やオーガ達が兵舎の中で一泊する。


 アンジュン辺境伯領は、おおむね愛知県と同じくらいの面積だ。そして、このブザーン砦から領主の城までは約30km。その間にいくつかの町はあるが、砦のようなものは無い。実働部隊だけなら明日の夕方までには到着するだろう。


「連中が動員をかける前に城を落とすぞ!」


「「「オーーーーーーーー!」」」


 ――――


「オーガ族に襲われただと?」


 アンジュン辺境伯の元へ、ブザーン砦から早馬が到着した。


「はい、領主様。約100名のオーガ族が完全武装で森から出てきました。魔法によって城門が破壊され、領内への侵入を許しております」


 この知らせを受けて騎士団や兵団、そして民兵に動員をかけた。もしブザーン砦が短時間で陥落していたとしたら、明日にも攻めてくるかもしれないのだ。


 ――――


 翌日


 ブザーン砦を早朝に出発した信長達は30kmの道のりを6時間で移動し、昼過ぎには領主城の手前まで到着していた。


「あれが領主の城塞都市か?」


「はい、信長様。周囲30kmでほぼ円形の城塞です。中には30万人くらいが生活しております」


 坊丸が下調べしている情報を信長に伝える。


「結構な大都市だな。しかし、周囲が30kmもあると守るには相当の兵力が必要だろう」


 町を取り囲むような立派な城塞ではあるが、その距離が長いと守るために兵力が必要となる。少ない兵だと守りに穴が出来てしまい、巨大な城塞は簡単に突破されてしまうのだ。


「おそらく、動員している兵は2000名程度だと思われます。その他は、イボーチヤ伯爵領やドワーフ族との国境に分散しております。一日で戻ってくることは出来ないでしょう」


「城塞を越える前に弓矢で防御されたらやっかいだな。じゃあ、連中の準備が出来る前に、さっさとやっちまうか!全軍突撃だ!」


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