第24話 騎士団副団長アルベルト(3)

「我ら騎士団5人に3人で戦えると思っているのか!?我らは精鋭ぞ!そこらの雑魚との違いを見せてやろう!」


 エルフ達は馬に拍車をかけて信長達に迫る。その騎乗姿勢は美しく、明らかに熟練者だとわかるものだった。


 と、そのとき、


「うおおおおおぉぉぉぉぉ!」


 エルフ達の上半身が突然燃え上がったのだ。そして熱さのあまり落馬して転げ回ってしまう。


 しかし次の瞬間、エルフ達の上から大量の水が降ってきて火を消してしまった。


 エルフの中の一人が、なんとか水魔法の詠唱に成功したのだ。


「くっ、無詠唱で魔法が使えるのは事実だったのか・・・」


 エルフ族は耳が大きい事からもわかるとおり、非常に聴力が高い。呪文の詠唱を聞き逃すような事は無いのだが、今は全く聞こえなかった。


 上半身に火傷を負いながらも、なんとか立ち上がったエルフ達は体勢を整える。


 火魔法を使ったのは後ろに下がっていたガラシャだった。前回は怒りのあまり確実に殺す為の魔法を使ったのだが、今回は足止めをするために手加減をした火魔法にした。その為、水魔法の詠唱時間を与えてしまったようだ。


「わしが雷撃魔法を使う。お前達はその時間をなんとしても稼ぐんだ」


 アルベルトは部下に指示を出した。敵を倒すほどの雷撃魔法を使うには、呪文の詠唱に20秒ほどの時間がかかる。命を懸けてでも、その時間を作るように部下に命じたのだ。


「はい、アルベルト様!」


 4人の騎士がアルベルトの前に出て、一斉に信長達に斬りかかった。上半身を火傷しているにもかかわらず戦意を喪失してはいない。例え自分の命を失おうとも、騎士としての誇りを失う事は無い。なんとしても時間を作って副団長の呪文詠唱を成功させるのだ。


 それは、一瞬の出来事だった。


 馬上の信長達を切るためにジャンプしたエルフ達であったが、その体は空中でいくつかの部分に分かれてしまった。目にも止まらぬ斬撃に襲われたのだ。


 滑りゆく世界の中で、エルフ達は信長の邪悪な笑みを最後の記憶としてしまった。


 “すまぬ、お前達。しかし、もうすぐ詠唱が終わる。お前達の死は無駄にはせぬ”


 心の中で部下達にわびを入れたアルベルトは、勝利を確信していた。この間合いなら連中の剣撃は届かない。もう一度無詠唱の火魔法を浴びたとしても、詠唱を止めなければいい。


 だから、必ず勝つ!


「・・・・・・・・・雷(いかずち)の精霊よ!今ここに・・うごふぶっ!」


 アルベルトは顔面に激しい衝撃を受けて、後ろに倒れてしまった。そして、呪文の詠唱も最終段階で途切れてしまう。せっかく魔法発動のために集まってきた魔素も霧散して消えてしまったのだ。


「う・・いったい何が・・・あ・・・・何だ!これは!」


 アルベルトは自分の顔に衝撃を与えた物の正体に激しい怒りがこみ上げてきた。それは、信長が履いていた“靴”だった。


「なあ、おっさん。いったい何時(いつ)になったらその“精鋭”ってのが出てくるんだ?」


 目の前にはすでに信長が立っていて、のど元に剣が突きつけられている。部下も全員殺されてしまっては、もう抵抗する事は出来そうに無い。


「くっ、この下等な人族が!調子に乗るのも今のうちだけだ!神聖なエルフの地を汚してただですむと思う・・うがああああぁぁぁ!」


 その言葉にイラッときた信長は、躊躇無くアルベルトの左耳を切り落とした。


「その下等な人族にいいようにされてちゃ、ざまあ無いな。ところでいろいろと聞きたい事がある。魔法がどうとか言っていたが、知ってる呪文を教えてくれないか?無詠唱の魔法は使えるんだが、詠唱魔法は知らないんだよ。死にたくなかったら教えてくれ」


 信長は剣先をアルベルトの喉に押し当てながら質問をした。


「くっ!無詠唱の魔法が使えるのに詠唱魔法をしらないだと!?そんなバカな事があるか!無詠唱で魔法が使えるのはエルフ族でも限られておる!全く逆では無いか!それに、お前達に呪文を教えるわけは無いだろう!もういい!さっさと殺せ!」


 アルベルトはまっすぐに信長の目をにらんでいる。全く迷いの無い目だ。


 “こういう目をした奴は、絶対に降伏しないんだよな”


 この目をする人間を、信長は何人も見た事があった。そして彼らは、決して信長に降る事はなかったのだ。


 信長はアルベルトの言葉に返事をする事無く、その剣を喉に突き刺した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る