第23話 騎士団副団長アルベルト(2)

「アルベルト副団長、残念ですがアーチャー様と従者5人は殺害されておりました」


 アーチャーを探しに行った騎士二人が戻ってきてアルベルト副団長に報告をする。二人ともその表情に悔しさをにじませていた。


「そうか、火魔法で焼かれていたのか?」


「いえ、魔法の痕跡は無くいずれも剣によって切られております。従者は体を両断されたり首を刎ねられていておそらく即死です。アーチャー様は、その・・・・」


 アーチャーの死を確認してきた騎士は、そこで言葉を詰まらせてしまった。


「アーチャー様はどうしたのだ?」


 アルベルトはすぐに報告をしない部下に対して、いらだたしさを覚えながら続きを促した。


「はい、アーチャー様の胸には剣が刺さったままになっておりましたが、その掌には剣をつかんだときに出来たと思われる深い切り傷がありました。おそらく、仰向けになったアーチャー様の胸に、ゆっくりと剣を刺していったのでは無いかと思われます」


 アルベルトはそれを聞いて眉根を寄せ、渋い表情を浮かべた。


 5人の従者が切られたと言う事は、相手は複数人だろう。従者を殺した後、アーチャー様を押さえつけていたぶるように殺したのだと理解した。


「なんと惨い事を。このような事が出来るのは野蛮な人族だけだろう。しかし、手練れの従者とアーチャー様が剣技で人族に負けるとは思えぬ。何か他に情報は無いのか?」


「はい、副団長。足跡から賊はおそらく4人から6人程度です。そして、アーチャー様達の剣を奪っております。代わりに、人族がよく使う“なまくら”の剣が4本残されており、その内一本がアーチャー様の胸に刺さっておりました」


「そうか、賊はどこに行ったかはわからぬのか?」


「はい、馬の蹄の跡が北の道に続いておりました。途中分岐もありますが、ボードレー邸を目指している可能性もあります」


「そうか、では我々は賊の先回りをするぞ!北の道を通っているとすれば、近道をすれば先に回り込める!賊は魔法使いに剣士が複数人だ!油断をするなよ!」


 ――――


「おい、ガラシャ。力丸とどこかに隠れていてもいいんだぞ。無理に付いてこなくても」


 信長達は奪った馬に騎乗して、人の剥製が飾ってあるというボードレー伯爵邸を目指していた。ガラシャだけは馬を扱えなかったので、力丸と一緒に騎乗している。


「一緒に行くわ、信長くん。この世界の事をもっと知りたいの。こんな理不尽な世界、許せない・・・」


 “理不尽な世界か・・・”


 ガラシャにとってはこの世界は酷く理不尽な世界に写るのだろう。しかし、戦国の世を生き抜いて天下人の一歩手前まで上り詰めた信長にとって、この程度はそれほどの事と思えない。


 “そういや、叔母の「つや」とその夫の一族全てを逆さ磔にした事もあったなぁ。まあ、裏切られて煮え湯を飲まされたのだから仕方がないか。しかし、助命を約束して降伏させたのに、それを反故にして殺したのはちょっとやり過ぎたかも・・・。ガラシャに知られたらまずいな”


 1575年に岩村城を攻めたとき、城主の秋山虎繁とその妻である信長の叔母の「つや」が助命と引き替えに降伏と臣従を申し出た。そして信長は助命を約束したにもかかわらず、秋山虎繁とつやを捕らえて逆さ磔の刑にした。つや達は逆さに縛り付けられて、絶命するまで数日間そのまま晒されたのだ。


 自分も残虐な事をしてきたとはいえ、それでも娯楽のために人を殺すような事は無かった。まあ、末端の足軽達には戦意高揚のために乱取りを認めていたのだが。


 ※乱取り 占領地で略奪や陵辱・虐殺を行う事。史実の信長は、戦略的に乱取りをしない方が良い場合や、被占領地の寺社が金品を提供した場合は乱取りを禁止していた。


「なんだ?」


 ボードレー伯爵邸を目指していた信長達の前に、突然5騎の騎馬が現れて道をふさいだ。鎧こそ身につけてはいないが、今まで殺した連中とは違う軍服のような制服を着ている。


「止まれ!お前達がアーチャー様とスティア様を襲った賊だな!目的は何だ!?誰に雇われた!?」


 アルベルト副団長が大声で信長達を制止した。その声量は大きく堂々としており、騎士のあるべき姿を体現していた。


「信長様、警察のような連中でしょうか?」


「わからんな。まあ、どちらにしても俺たちを捕まえるか殺しに来た事に間違いないだろう。であれば、やる事は決まっている」


 信長達は、アルベルト副団長の問いに答える事無く腰の剣を抜いた。


「その剣(つるぎ)、アーチャー様達の剣だな。許さんぞ!人族!抜剣!」


 アルベルトは怒りの形相で信長達に迫る。他のエルフの騎士達も腰の剣を抜いて信長達に迫った。その動きは速い。


「さっきの連中より動きが良いな。訓練された兵隊と言う事か。力丸はガラシャを守ってやれ」


 そう言って信長達も馬を進めた。相手は5人、力丸とガラシャを除けばこちらは3人。正面から斬り合えば分が悪い。


「我ら騎士団5人に3人で戦えると思っているのか!?我らは精鋭ぞ!そこらの雑魚との違いを見せてやろう!」

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