第18話 狩り

「メアリー!君への贈り物だ!僕の腕前を見てて!」


 白馬にまたがったエルフの青年が、猟犬を引き連れて走り出した。その右手には弓が握られている。金髪のちょっとクセのある巻き髪の少年は、その弓を空にかざしてメアリーに笑いかけた。


「バンソニー!頑張って!」


 メアリーと呼ばれたエルフの少女は、朗らかな笑顔でバンソニーに手を振った。今日はボードレー家とスー家合同での狩りだ。両家の子女であるバンソニーとメアリーの婚約を披露するための行事が行われている。その為、両家の両親や兄弟、そして親族やその従者が50人ほど集まっていた。


「メアリー嬢は美しく成長されましたな。ヴァイシュタットの宝石と呼ばれるだけのことはあります」


 ※ヴァイシュタット この地方の名前


「ありがとうございます。ボードレー卿。バンソニー様も逞しくご立派になられました。メアリーもこの婚儀を喜んでおります」


 ボードレー家は神聖エーフ帝国の要職を務める伯爵家だ。子爵家のスー家としては、中央貴族を誼を通じる事の出来る絶好のチャンスだった。


 ――――


「よーし!2匹追い込んだぞ!スティア、右から回り込んでくれ!アーチャーは左からだ!」


「任せておけ!今日はメアリーにいいところ見せないといけないからな!応援してるぜ、バンソニー!」


 従兄弟のスティアとアーチャーも、バンソニーの婚約を応援し祝福していた。その為の獲物を仕留めて、メアリーにかっこよいところを見せる為に協力をする。


 ――――


「犬の鳴き声だな」


 信長達は、エーフ帝国の町がある方に向かって森を歩いていた。すると、犬の鳴き声や馬の蹄の音が聞こえてきたのだ。


「狩りか何かでしょうか?」


 猟犬を使って獲物を追い込み、馬に騎乗した者が仕留めるという猟は、武家のたしなみとして信長達も経験があった。


 一同が音のする方を見ていると、茂みの中から何かが走り出てきた。


「あれ、人間の子供じゃない?」


 200mほど先の茂みから、こちらに向かって駆けてくる子供の姿が見えた。そしてその後ろからは、馬に乗った人間と犬たちが迫ってきているようだった。


 と、次の瞬間、馬に騎乗した男が弓に矢をつがえてその子供を射たのだ。


「えっ!」


 ガラシャの顔面が蒼白になる。そして心臓が締め付けられた。


 放たれた矢は、背中から子供に命中した。そして、その場に倒れ伏す。


 その光景を見た信長達はとっさに走り出した。


 ――――


「よし!仕留めたぞ!」


 倒れた子供の周りに、エルフの男達が集まってきた。皆、馬に騎乗している。その内の一人が馬を下りて、倒れた子供のところに歩み寄った。そして、子供の腕を持って持ち上げた。


「アーチャー様!お見事でございます!」


 と、そこにすさまじい速度で走ってくる男達の姿が見えた。4人の男達は剣を抜いている。


「何者!?賊か!?」


 アーチャーと呼ばれた最も華美な衣装をしている男の前に、従者と思われる男達が移動した。そして、躊躇無く攻撃魔法の詠唱に入った。


 しかし、詠唱が終わるより早く、迫ってきた男達の刃が一閃する。そして、アーチャーの周りにいたエルフ達は体が引き裂かれて、一瞬で絶命した。


 ――――


 信長達は、ダッシュした勢いで剣を振り抜いた。その剣は確実にエルフ達の首や胸をとらえる事が出来た。そして、その斬撃はいずれも致命傷となって、エルフ達を一瞬で無力化した。


「力丸!子供の手当を!」


 そう言って信長は、エルフ達の中で最も華美な衣装をまとっている男に跳び蹴りを喰らわせ、馬から引きずり下ろした。


「くっ!お前達、人族か!?エルフの貴族にこんなことをしてただですむと思っているのか!」


 信長はアーチャー様と呼ばれていたエルフを踏みつけて、汚物を見るような目で見下ろした。


「残念だったな。俺たちは信じられないド田舎から出てきたばっかりなんでな、エルフがどうとか貴族がどうとか解らないんだ。ゆるしてくれ」


「人族の田舎者か!わかった、い、今なら許してやる!すぐにこの足をどけろ!ぐぉおっ!」


 信長はその言葉を聞いて、踏みつけている足に力を入れた。


「ちょっと聞きたい事があるんだが、あの人族の子供は奴隷か?ここで何をしていた?」


 アーチャーは踏みつけられている足からすさまじい怒りを感じていた。


「な、何を怒っているんだ!?あれは奴隷だ!人族のイーシ王国から“狩猟用”に献上された奴隷だぞ!それを目的通りに使って何がおかしい!」

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