第17話 魔法を研究した
「しかし、イメージか・・。温度を上げるイメージや石を動かすイメージはしているんだけどな。全然だめだな」
5人は座禅を組んだり両手を天に上げて奇声を発したりと、様々な方法で魔法を試すが、一向に成果が上がらなかった。
「あ、できたかも・・」
1時間くらい試行錯誤を繰り返していると、ガラシャがぼそっとつぶやいた。
「うん、うまくいったよ!」
ガラシャは50センチほどの間隔を開けて、手のひらを胸の前で迎え合わせていた。そしてその手のひらの間の空間が、陽炎のようにゆらゆらと揺れていた。ガラシャは、久しぶりに笑顔を見せていた。
「ねえ、信長君、ここに手を入れてみて」
そう言われた信長は、ガラシャの手のひらの間の空間に右手を差し込んでみる。ゆっくり近づければ良かったのだが、信長は一気に手を差し込んでしまった。
「あっっちい!」
「信長様!大丈夫ですか!」
信長の右手は真っ赤になっていた。明らかに火傷をしている。
「すごいな、ガラシャ。どうやったんだ?」
蘭丸や坊丸達も、ゆっくり手を近づけてみてその熱さを感じていた。
「物質の温度って、分子の振動でしょ。だから、ここにある空気の分子を振動させるようにイメージしたの。そうしたら暖かくなってきたのよ」
「なるほど。さすが化学部のガラシャだな」
信長達も同じように、分子の振動をイメージしてみた。するとイメージした場所や物の温度を上げることに成功した。
「だんだんつかんできたぞ。じゃあ、逆も出来るはずだな」
そう言って、今度は分子の振動を止めるイメージをしてみる。すると、空気の温度を下げることに成功した。
「これは、いろいろと応用が出来そうだ」
信長は、20mほど先にある大木に向かって、周りの酸素を激しく衝突させるイメージをする。すると、一瞬にしてその大木が燃え上がった。
「おお!火魔法も使えたぞ!これはすごいな!」
「の、信長様!喜んでいる場合ではありません!これは山火事になりますよ!」
「では、水魔法で消してみるか」
信長は、燃えている大木の上にある空間にイメージを送る。空気中の水蒸気を凝結させて水に変えて雨を降らせることに成功した。
様々な魔法を試してみたが、空中浮遊や地面にある石を動かすようなことは出来なかった。行商人は魔法を使うには詠唱が必要と言っていたので、もしかすると別のメカニズムが存在するのかもしれない。
5人は半日いろいろと試してみて、以下のことがわかった。
・詠唱無しで魔法を使える。
・魔法を使うためには、分子レベルでの作用をイメージする必要がある。
・加熱魔法・冷却魔法・燃焼魔法・風魔法が使える。
・目に見える範囲で作用するが、300m以上離れていると効果が無い。
・まだまだ研究の余地がある。
・詠唱魔法については不明。
・魔法を使うと疲れる。
「魔法を使うと、変な疲れ方をするな。今までに感じたことの無い疲れだ」
体力的に疲れたというわけでは無い。精神的にな疲れなのだが、今までに経験したことの無い種類の疲れ方だった。
「これが“魔力切れ”というものでしょうか?」
確かにゲームやアニメにある“魔力切れ”が一番近いのだろう。これは眠れば回復する物なのか、それとも回復ポーションなどを使わないとだめなのかは不明だ。
「とりあえず、今日はここで野営をしよう」
信長達は湯を沸かして料理を始めた。今までと違って、魔法で水を調達できるようになったのはありがたかった。
「あと、収納魔法が使えるようになると良いですね」
この中で一番ネトゲやアニメに詳しい力丸は、様々な魔法のアイデアを出していたが、そのほとんどが実現できなかった。やはり、その物理的作用をイメージ出来ないと魔法は発動しないらしい。
「しかし、この世界の連中が分子や酸素の結合とか知っているとは思えないんだが」
信長の疑問ももっともだ。魔法の発動条件が分子レベルでのイメージであれば、その作用をこの世界の人々は知っていることになる。しかし、接触した人々の文明レベルでは、そこまで解明が出来ているとは思えなかった。
「もしかすると、詠唱魔法はその物理作用をパッケージにしたプログラムのような物では無いでしょうか?プログラムの意味を理解していなくても、実行するだけなら誰にでも出来るのと同じなのでは?」
一同、力丸の言葉になるほどと思った。それならば、化学や物理の知識が無くても魔法を発動できそうな気がする。さらに複雑な術式を組み立てれば、もっと高度な事が出来るのではないだろうか?
「魔法技術はエルフと魔族が独占しているって言っていたよな。じゃあ、そのあたりのエルフを捕まえて、締め上げてみるか」
信長の表情が極悪人の物に変わっていた。割と本気でそう思っている。
「信長君!だめよ!そんな事しちゃ!」
「ははは、冗談だよ、冗談。さぁ、飯食ったら今日は寝るぞ」
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