第9話 戻ってきた(?)

「う・・・・、ここは・・・・」


 鬱蒼と茂る森の中だった。背の高い木々が生えており、昼間のようだが辺りは暗かった。


「信長様!」


「おお!蘭に坊丸に力丸!・・・・に・・・・・・・・、なんでお前が?」


「な、な、な、なによ?ここは?なんであなた達裸なの?って、いやーーーーーー!見ないでーーーー!」


 そこには信長・蘭丸・坊丸・力丸に、なぜか細川ガラシャが裸で立っていたのだ。


 自分も裸だと気付いたガラシャは近くの木の陰に隠れた。そして顔だけだしてこちらを見ている。


「なんでお前がここにいる?」


「何でじゃないわよ!深夜にあなた達がホテルを抜け出してたから、注意しようと思ってついて行ってたのよ!そしたらすごい怒声が聞こえてきて、気付いたらここにいたの!どういうことかこっちが聞きたいわ!」


 ガラシャは、信長達がホテルの廊下を歩いていることに気付き、ジャージのまま跡を付けていたのだ。すぐに注意しても良かったが、何処に行くのか興味があったため、しばらく様子を見ていてこんなことになってしまった。激しく後悔している。


「そうか。それは災難だったな。つまり、お前は俺たちの巻き添えをくったということだな。ここはおそらく戦国時代。俺たちが元々居た時代だ」


「元々居た時代って、どういうことよ?」


「俺たちは、本能寺の変で明智に殺されたんだよ。歴史の本に載っている本物の織田信長だ。そして、なぜか子供の姿で21世紀に転生した。で、さらに今、戦国時代へ転生、いや、タイムスリップしたというわけだ」


「そ、そんなの信じられるわけ無いじゃない!」


「別にお前に信じてもらえなくても良い。俺たちはこの時代でもう一度天下布武をするだけだ。それに、“神”を名乗る者に世界を統一して救ってくれと言われたしな」


「信長様、神と話をされたのですか?」


「ああ、世界を統一して救ってくれと言われた。そして、何やら贈り物をくれると言っていたな」


 信長はその贈り物とは何だろう?と考えた。と、その瞬間、頭の中に“神”からの贈り物の情報が入ってきたのだ。


「こ、これは・・・・・なんと・・・。蘭丸、そこに生えている木を抜いてみてくれ」


 そう言って信長は、直径15センチほどの木を指さした。


「え?信長様・・・この木を抜くのですか?」


 蘭丸は信長が指さした木を見る。とてもではないが人間一人の力で引き抜けるようには思えなかった。だが、主君である信長の命令を拒否することなど出来ない。


「では」


 そう言って蘭丸は木を抱きかかえて力を入れる。


「えっ?」


 蘭丸が力を入れたとたん、蘭丸の足は地面にめり込み、その反動で木は軽々と抜けてしまったのだ。


「ええーーーー!?」


 その様子を見て、みんなが驚愕の声を上げた。明らかに人間離れした膂力だ。伝説の鬼の力を手に入れたように思えた。


「信長様、これはいったいどういうことでしょうか?」


「“神”によると、俺たちには“鬼”以上の力と強靱な肉体、そして不老の体、さらに魔力が与えられているらしい」


「そんなことが・・・って、魔力ですか?」


「ああ、魔力だそうだ。練習すれば様々な魔法を使うことが出来るらしいぞ。肉体は強靱だが、大けがをしたり首をはねられたりすれば死ぬことがあるそうだ。死ななければかなりの回復力があるみたいだな」


「なるほど。しかし、そうであれば天下布武もすんなり出来るかも知れませんね。それに、日本を統一した後は世界に打って出ることも可能でしょう」


「“神”は世界を救ってくれと言っていたな。おそらく、ヨーロッパの侵略からアジアやアフリカを守ってくれということだろう」


「ちょっとぉ!そんな事はどうでもいいから、服を探してきてよ!」


「ちっ、めんどうな女だな。とりあえず人を探すか。騒いでいると置いていくぞ!」


 坊丸が近くの大木に登り始めた。強靱な肉体があるため、50mにもなろうかという大木でも簡単に登ることができる。


「坊丸!何か見えるか?」


「南の方に集落が見えます!あとは、街道がみえるくらいです!」


「よし!では集落へ向かうか」


 五人は集落の方へ向かって歩き始める。ガラシャは手で前を隠しながら最後尾を歩いていた。


「あんたたち!ぜったい振り向かないでよね!」


「自意識過剰だろ。お前になど興味は無い。それより遅れるなよ。振り向けないからお前にかまってやることもできないからな。ハッハッハッ」


 草をかき分けながら集落を目指して歩いた。体が強靱になっているせいか、裸足でも痛みを感じないし、草の葉で傷を負うことも無かった。しばらく歩いていると先頭の蘭丸が足を止める。


「信長様。前方に何か居ます。あれは、ウサギのようですね」

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