第6話 タイムスリップしちゃった(?)

「この西暦というのが、伴天連の暦かのぅ?この文字がよくわからぬ。天正十年の横に西暦1582とあるということは、1582が伴天連の暦の数であろう」


「上様!この書物の背中に1巻2巻3巻~10巻~20巻と書いてございます。つまり1が一、2が二、10が十という事ではありますまいか?おそらく100が百、1000が千でありましょう」


「なるほど。そうすると本能寺の変が1582年、関ヶ原が1600年、徳川が滅ぶのが1868年か。そして明治、大正、昭和と・・・平成が1989年とあるな。では、本能寺から400年ほど経っているということであるか・・・。ふむ、それなら合点がいくのぉ」


「ええっ!?合点がいきまするか?それがし、狐につままれているかあやかしの類いに惑わされているのでは無いかと・・」


「あやかしの類いというのは、あながち間違いではなかろうな。あの本能寺から助け出し、子供の姿に変えて400年の時を超えさせるなど、あやかしか神仏でなければ出来ぬ事。神仏を恐れぬわしに、神仏を信じさせようとしているのか、はたまた、もう一度地獄を見せようとしているやもしれぬのぉ」


「上様・・・地獄ですか・・・」


「ククク・・・、面白き事よ。400年の時を超えたのじゃ。もしかすると400年の時を遡るやも知れぬ。今度こそ、天下布武を成し遂げてみよと言うておるのかもな。はたまた、今の世で天下布武をせよと言うのか?蘭よ!とにもかくにも“今”を知るのじゃ!この書物が本当であるなら、もう明智もおらぬ。織田も滅びておる。良くわからぬが、今の日の本は“国会”と“内閣”というものを天皇が決めて政(まつりごと)をさせているとある。ここにある書物を全て読むぞ!」


 信長と蘭丸は、一心不乱に読みあさった。この児童相談所には、子供向けの絵本から中学生程度までの本が置いてある。外来語については一切理解できなかったが、子供向けの本には挿絵や写真が多用されていたため、かなりの知識を得ることができた。


『はたらくじどうしゃ』『せかいのひこうき』『せかいのひとびと』


 様々な本を読み進めていく内に、信長と蘭丸は“これは本当の事だろうか?”と訝しむようになる。


「このジャンボジェットというものは、700人を乗せて伴天連の国まで半日で行けるというのか?それに、このロケットとやらは月にまで行ったとあると?月は“竹取の翁”の話でも行ってるので解らぬでもないが・・・」


「日本一の船は、400メートルとあるな。こちらの書物には1メートルとは人の腹あたりの高さとある。すると、4町もの大きさがあるというのか?信じられぬ。天正(戦国時代末期)の世の400年前といえば、源平合戦の頃じゃろう。その頃と天正の世では種子島(鉄砲)の他はそれほど変わってはおらぬ。しかし、天正から平成までの400年でこれほどにまで変わるものなのか?」


 ――――


 信長が現代に現れて数日後


 坊丸と力丸が意識を取り戻した。


「すると、本能寺で織田信長が明智光秀に襲われて、こうなったということかしら?」


 紺色の制服を着た婦警が坊丸と力丸から話を聞いていた。


「上様を諱(下の名前)で呼ぶとは、この無礼者ぉ!そこへ直れ!刀の錆にしてくれるわ!う・・ぐふっ」


「はいはい。まだ傷が治ってないんだから、そんなに興奮したらだめよ。で、あなたたちは織田のお殿様の小姓の長隆(ながたか)くんと長氏(ながうじ)くんということね」


「そうじゃ。上様は何処におわす?貴様らはいったいなにものじゃ?」


 ――――


「話を総合すると、無傷だった二人は織田信長と森成利(もりなりとし)ということらしいですね。森成利は織田信長の小姓の蘭丸と言った方がわかりやすいですか」


「で、こっちの二人は森長隆坊丸と森長氏力丸?いやぁ、そんな話、信じられる?マンガの読み過ぎでしょ」


 控室で婦警と捜査担当刑事が話をしている。


「いえ、もちろん信じられませんけど。四人を診察した歯科医の話では、虫歯こそ無かったようですが、歯を磨いた形跡がほとんどなかったそうです。外国では歯磨きをあまりしない地域もあるようですが、まるで江戸時代のようだと言っていました。ネグレクトの可能性もありますが、虫歯が全く無いのも不自然です」


「歯磨きかぁ。でも、虫歯菌が親から感染しないと、歯を磨かなくても虫歯にならないんじゃないの?たぶんそういう事だよ」


「そうですね。でも、こまりましたね。該当する捜索願もありませんし、やはり不法入国の子供でしょうか?」


「なんともなぁ。まあ、あの子達の保護は児童相談所の仕事だからね。聴取した書類を送れば俺たちの仕事は終わりだよ」

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