第38話 元カノ

「ユージ!」


 帰還報告のためにギルドへ着いた直後、突然後ろから誰かにヘッドロックをかけられた。

 苦しいけど頭の後ろがなんか柔らかい。

 この声は、もしかして……

 いや、まさか。あいつがこんな所にいるわけないだろ。


「だ、誰ですか?」

「ナニそんな堅っ苦しいしゃべり方してんのヨー。ワタシとユージの仲じゃナーイ」

「やっぱり……洋子か……? なんで今さら……」

「もしかしなくてもワタシよ! 久しぶりネ!」

「分かったから、とりあえず放してくれ」

「……誰?」


 ようやくヘッドロックから解放してもらえた。

 首をさすりながら振り返る。

 長身のよく鍛えられたメリハリのある身体。

 明るい金髪と暗めの碧眼。

 ハーフ特有の整った顔に人懐っこい笑み。

 季節無視のショートパンツにタンクトップという薄着。

 ホント、変わらないな……

 手首のダンジョン産ぽい腕輪だけは見慣れないやつだけど。

 横に目を向けるとカリンちゃんが凍てつく目をしている。


「カリンちゃん、この人は、ぁー……まぁ、元カノってやつ……」

「元ナノ? ワタシたち別れたッケ?」

「お前、なんの連絡もなく急にいなくなったろうが。そのまま何年も経つんだから、そりゃ自然消滅したって考えるだろ」

「ワタシはそんなつもり無かったケドー」

「へぇ……」


 洋子・Mマリー・川崎。米国人と日本人のハーフ。

 日本に住んで長いので微かなイントネーション以外は日本語も完璧だ。

 8年ほど前に合コンで出会い、色々あって付き合うことになった。

 しかし、洋子は5年ほど前に俺の前から突然いなくなった。

 当時は心配してあちこち探し回ったりもしたが見つからなかった。

 ちょうどクレストの広報パーティー結成をする時期だったのもあって仕事が忙しくなったので、仕事に集中して俺も段々と忘れていった。

 それが、なんで今さら……


「それで、なんで急に現れたんだよ」

「なんでって、ユージを見かけたからヨ? ギルドに来たのはボスの付き添いってだけダシ」

「ボス……?」

「昨日会ったデショ? 勧誘は断っちゃったみたいだケド」

「勧誘って、もしかして大門さんか……? お前、セイクリッドに所属してるのか?」

「そうヨー。自分を鍛え直すためにあちこち回ったあと、ボスに拾われタノ」


 情報過多で頭が追いつかない。


「鍛え直す……? それってどう――」

「それよりモ! せっかくだから再開を祝して飲みましょうヨ! そっちの子猫ちゃんも一緒でいいわヨ」

「は? アタシは別にアンタと飲みたくなんてないし」

「あらソウ? じゃあユージは借りてくわヨ? 二人で愉しみまショ~」

「はぁ!? なんでそうなんのよ!」


 洋子が無駄に抱き着いてくる。

 カリンちゃん、完全に洋子にころころされてる……

 人をおちょくるの滅茶苦茶うまいからな、こいつ……


「だって、ユージは行くデショ?」

「ぁー……まぁ、どうしてたかは聞きたいから俺は行くかな」

「ウンウン~。それでいいのヨ~。じゃあ子猫ちゃんは一人で帰ってネ?」

「はぁ!? ふざけんなし! 行くし! あと……西野さん!!」


 急に大声で受付の西野さんを呼ぶカリンちゃん。

 そもそも騒がしくて注目を浴びていたようだ。

 カリンちゃんの声で西野さんが慌ててカウンターから駆けてくる。


「どうされましたかぁ?」

「話、聞こえてた?」

「声が大きかったので、おおよそは聞こえてましたぁ」

「じゃ、分かるでしょ。アンタも来て」

「はぃー。分かりましたぁ。藤堂さんにも連絡しておきますねぇ」

「よろしく」


 カリンちゃんと西野さんがどんどん話を進めていく。

 洋子は余裕を感じさせる笑みでそれを見ている。

 カリンちゃんはにらみつけるような目つきで洋子と対峙している。


「ユージのまわりにはいっぱい女の子がいるのネェ」

「ぁー……まぁ、いろいろ成り行きでな」

「ふぅン……楽しみネ」


 俺は全然楽しみじゃない。





 今日もおやっさんの店で奥の個室を使わせてもらう。

 俺、カリンちゃん、西野さん、藤堂さん、一条さん、そして洋子の6人。

 なんかアコ様は今日はいいと言って脇差モードのままだ。珍しい。

 洋子に対する敵意?みたいな空気で重い雰囲気になりそうだし、とりあえず頑張って俺がしゃべってみるか。


「そんで、お前ホントに今までどこで何してたんだよ?」

「まずは乾杯じゃないノ~?」

「おじ様。それよりもまずはご紹介頂けないですか?」

「ぁー……それもそうだね」

「ユージ。自己紹介するわヨ。洋子・Mマリー・川崎。36歳、独身。神聖なる守護者セイクリッド・ガーディアンズの部隊長をやってるワ。あとは……ユージを最初に男にした女、カシラ?」

「「「「っ……」」」」

「ぉ、おい、洋子――」

「なんだか初心な反応ネェ。ユージ、まだ誰ともヤッてないノ?」

「洋子っ! 俺とみんなはそういう関係じゃないから!」

「ふぅン……ユージ、あんたちょっと部屋の外に出てなサイ。女子会ヨ、女子会」


 洋子が女性陣を見渡した後、俺に言い渡す。

 他のみんなも少し赤くなりつつも困惑顔だ。

 どうしたもんか……


「アンタ、自分が猥談のネタにされるの聞きたいノ?」

「「「「「!?」」」」」

「ユージってすんごいタフだから大変だったワ、とか酔うとすんごいエロいノヨ、とかそういう話ヨ? みんなは聞きたいデショ?」


 真っ赤な顔で何度も首肯する藤堂さん。

 はわはわしてる一条さん。

 赤い顔で目を瞑ってうーっと唸りながらも席を立たないカリンちゃん。

 余裕の笑顔で頷いている西野さん。

 ……全員聞く気満々ですね。


「……おやっさんと飲んでるわ。あと酔うとエロくなんのはお前だからな、俺じゃなくて」

「そうだったカシラ?」


 戦略的撤退だ。

 これは巻き込まれてはいけない。

 あ、そうだ、みんなに忠告だけしておかないと。


「みんな、気を付けてね。こいつバイだから」

「あら、ばらしちゃったら面白くないじゃナイ~」

「「「「!?」」」」

「それに誰でもいいみたいに言わないでほしいワ。結構好みはうるさいノヨ?」

「知らんがな。それじゃ、みんな頑張ってー」


 みんなが驚いて固まっている隙にさっさと個室を出て戸を閉める。

 ここは魔物の住む部屋になったからもう入れない。

 怖い怖い。


「おや、山ちゃんはこっちで飲むのかい?」

「女子会だってさ」

「そうかい。じゃぁ何か作ってくるからちょっと待ってな」


 おやっさんは厨房に引っ込んでいく。

 俺はカウンター席に座って人心地ついた。

 個室の方から騒がしい声が聞こえてくる。にぎやかだね。


「……あの小娘、嫌なものを持っておるのじゃ」

「ふぇ? アコ様急にどうしたんですか?」


 脇差から美幼女モードになったアコ様が隣に座ってくる。

 今日はいい、だったのでは?


「あやつ、わしと同じような類のを憑けた何かを持っているぞ。恐らくわしより格下じゃが。そやつがわしにずっと喧嘩を売ってきてうるさいのじゃ」

「へ? そうなんですか? 何も聞こえませんでしたよ?」

「思念波みたいなもんじゃ。わしにだけ送ってきとったんじゃろ。何にせよ気をつけよ」

「はぁ……」

「力には代償が必要ということじゃ。わしはおぬしの魔力を少し貰う程度で済ましておるが、あの小娘がどうかは分からんと言う話じゃ」



 ――――――――――――――――――――

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 洋子姐さん大好きなんですが、気に入ってもらえるかなぁ…


 フォローと★★★がまだの方は執筆のモチベアップになりますので、ぜひよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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