第37話 パーティー登録

「温泉とか聞いてないし」

「いや、だからちょっと急だったしね?」

「は? でもあのバ……西野さんは連れてったんでしょ?」

「いや、あの、それはタイミングと言うか何というか……」

「それなのにアタシに声掛けてないのってひどくない?」


 おやっさんにお土産を渡した翌日。

 パーティー登録のために朝からギルドにカリンちゃんと集合した。

 そして受付前の広場ですんごいご機嫌斜めだ。

 いや、西野さんだって超急展開だったし。

 カリンちゃんも誘いましょうーとか絶対言えないでしょ、あれは。


「スタンピードのときの続きも有耶無耶にされたし。引っ越したのも聞いてないし。パーティー組む話もずっと放置だったし。もう!」

「うるさいぞ、小娘。温泉は姉様への挨拶のついでじゃ。ピイピイわめくな」

「ぅ……だって、温泉旅行とかズルいじゃん……」

「まったく。こやつはあまり頭の出来が良くないんじゃ。素直にならんと伝わらんぞ」

「むー……」


 なんか凄くディスられてる気がする。

 カリンちゃんはうつむいている。

 この間も着ていた制服の裾をいじりながら少し考え込んでる様子。

 アコ様は小さい胸を目いっぱい張ってドヤァ顔。

 考え込むこと数秒、勢いよく顔を上げたカリンちゃんが話しだす。


「オジサン。アタシは……オジサンのことがもっと知りたい。そんで、できればもっと……親密な関係になりたい」

「そうだね。パーティーを組むんだし、俺もカリンちゃんとは信頼関係を築いていきたいよ」

「むー……うまく伝わらない……結構アピってるつもりなんに……わざとですかね?」

「くっくっくっ……素直にならんからなのじゃー」


 カリンちゃんとアコ様が小声で言い合っている。

 いつの間にか仲良くなってるなぁ。


「とりあえずギルドにパーティー登録しちゃおうか。パーティー名どうしようか?」

「オジサンが決めるんでイイよ」

「カッコイイ名前にするんじゃぞ!」

「ぇー……じゃあ……紅牙クリムゾン・ファングとかどうですか?」


 あの短杖ワンドを思い出しながら提案してみる。

 カリンちゃんがあの杖を持って火魔法を使うのは俺たち二人のパーティーの象徴になる気がするし。


「横文字はよく分からんのじゃ!」

「可愛くない。けどまぁオジサンが決めたならそれでイイよ」

「はは……まぁただの登録名ですから。結局メンバーの通り名とかで〇〇パーティーって呼ばれることも多いですし」


 受付の方を見ると西野さんと目があった。

 対応中のようだが切り上げて対応してくれるようだ、手招きされた。

 3人で受付へ向かう。


「西野さん、おはようございます。」

「山田さぁん。おはようございますぅ。温泉、とっても楽しかったですぅ。また連れて行って下さいねぇ」


 なんか昨日も言っていたことを繰り返された。

 カリンちゃんが物凄くむすーっとした顔をしている。

 西野さんが勝ち誇ったような気配を漂わせてる気がする。

 勝ち誇られるようなことは何も起きてないはずだけど……


「はは……機会があれば。えっと、パーティーの登録をお願いします」

「はぃー。山田さんと氷見さんのお二人で登録でよろしいですかぁ?」

「はい。それで大丈夫です。あと今日の探索申請も一緒にお願いします」

「カリンちゃん、茸森でいい?」

「アタシはまぁどこでもいい」

「承知いたしましたぁ。それでは記入お願いしますぅ」


 手渡された2つの書類を記入していく。

 西野さんとアコ様が温泉のおかげでお肌がーとかお饅頭がーとか言ってる。

 カリンちゃんはまだむすーっとしてる。

 杖を渡すタイミングが逆に難しいな……





 茸森ダンジョンに入った直後。

 周囲を警戒していたカリンちゃんに声をかける。

 もう悩んでてもよく分からんからさっさと渡すことにする。


「カリンちゃん、ちょといい?」

「何? 方針相談?」

「いや、その前にちょっとプレゼント? かな?」

「は?」


 キョトンとした顔のカリンちゃん。

 ”アイテムボックス+”から紅緋牙短杖クリムゾン・ワンドを取り出して手渡す。

 

「なにこれ……こないだの猪の牙?」

「そう。火属性魔法を使うときの魔力制御を補助してくれるらしいよ」

「なんでアタシに……?」

「ん-……がんばってるカリンちゃんを応援したくなったから、かな? パーティーを組むことになったからってのもあるけど」

「……ありがと。嬉しい。えへへ」


 ちょっと赤くなった顔で笑うカリンちゃんがまぶしい。

 若い子は感情が素直でいいねぇ。


「でもこれ、素材は持ち込みだったにしても高いんじゃないの?」

「ぁー……まぁこないだの緊急依頼の報酬が結構よかったし、大丈夫だよ」

「そっか……ありがと。これがあれば、あの猪も倒せるかな?」

「火属性に火属性だからあの猪とは相性そんなに良くないかもね」

「むー……でも超級なら……」

「え? カリンちゃん超級魔法を覚えたのかい?」

「この前のスタンピードのときにレベル上がって2ndジョブ獲得したの。魔導士ウィザード。そしたら超級も覚えたよ」

「っ……! それは、すごいね」


 物凄い才能だ。

 2ndジョブになったばかりのレベルで超級が使えるなんて。

 超級魔法が使えれば大きなクランのダンジョン攻略最前線でも活躍できる。

 カリンちゃんは俺とのペア程度じゃなく、もっと上を目指した方がいいのでは?

 これは俺から藤堂さんとかに改めて紹介すべきか……?


「なんか……他の女のこと考えてない?」

「ぇ、あ……いや、そんなことないよ。すごい才能だなぁと思って。カリンちゃんは大手のクランとかに所属する気はないのかい?」

「はぁ? 大手のクランだと遠出とか泊まりの探索多いでしょ? 収入面は魅力だけど、妹の病気治るまでは厳しいかな」

「そっか……どんな病気かとかって聞いてもいいのかな?」

「んと、魔力過多症って聞いたことある? ホントはもっと長い病名なんだけど」


 魔力生成過多に伴う多発性身体機能不全症候群。

 通称が魔力過多症。

 その人の持つ魔力が身体の限界を超えている場合に発症する病気。

 身体の成長を待つ以外に根本的な治療法は見つかっていない。

 治癒魔法は使用者の魔力が悪影響を及ぼすので使えない。

 ポーションは中級以上であれば効能が悪影響を上回るとか。

 ボロボロになる身体を対処療法的に治療しながら成長を待つしかないらしい。


「あと1~2年経てばたぶん大丈夫になるとは言われてるんだけどね。それまで身体がもてば、なんだけどさ」

「そっか……」


 ふとアイテムボックスの奥底にある上級ポーションを思い出す。

 保険のつもりだったけど、使い時だよな。


「カリンちゃん、これ妹さんに使ってくれない?」

「え……? なにこれ?」

「上級ポーション」

「は? いや、さっき杖も貰っちゃったのに、そんな高いものまで貰っちゃったら貰いすぎだし」

「いや……これも応援の一環、かな。カリンちゃん頑張ってるから」

「そんな……でも……」

「まぁ受け取ってよ。かっこつけさせて」

「……うん、ありがと。すごく助かる」


 僅かな葛藤の後、ポーションを受け取るカリンちゃん。

 受け取ったそれを大事そうにぎゅっと抱きしめる。

 そして茶化すようにいたずらっぽい表情になる。


「でも、色々貰いすぎだよ。なんなら……身体で払おうか~?」

「え、いや、そんなことは……しなくていいよ?」

「一瞬考えたでしょ! えへへへ」


 そんなことを言いながら俺に抱き着いてくるカリンちゃん。

 ちょっと赤い頬に嬉しそうな笑顔だけど、目の奥はちょっとだけ本気そう。


「わしの前でそんなにいちゃつくとは何事なのじゃー!」

「だってオジサン、なかなか手ぇ出してくれないしー」


 脇差モードのままアコ様がのじゃのじゃ怒りだす。

 ダンジョンの中なのに、平和な時間だ。


 ちなみに今日の茸森ダンジョンでの探索は非常に順調でした。

 紅牙大猪とは会えなかったけど。 





「ユージ!」


 帰還報告しにギルドへ着いた直後、突然後ろから誰かにヘッドロックをかけられた。

 苦しいけど頭の後ろがなんか柔らかい。

 この声は、もしかして……

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