第29話 お引越し
ギルドの療養施設を退院してから数日。
唐突だがこれまで住んでいたワンルームの賃貸アパートから引っ越しをすることになった。
主な理由は二つ。
アコ様が狭くて嫌じゃ嫌じゃと駄々をこねたこと。
よからんことを考えてそうな人間どもから監視されとるからせきゅりてぃの良いところに移動した方が良いぞ、と助言をもらったこと。
先日のスタンピードの配信でミノタウロスを倒すところも映っていたらしく、あいつは誰だ!? という感じらしい。
入院していたので詳しくは知らないが、ギルド内でも俺をさぐるような連中がいたと西野さんも飲み会で言っていた。
「アコ様は部屋が広くなりさえすればいいんですか?」
「うむ。部屋にいる間にごろごろ出来るだけの広さがあれば良いぞ?」
「ぁー……今の部屋は一人暮らし用なんで手狭ですよね……」
「あと寝床じゃな! おぬしの使って居る寝床は狭いのじゃ。もっと広い寝床が欲しいぞ!」
俺のシングルベッドの上で寝転がって漫画を読みながらリクエストしてくるアコ様。
この部屋には他に寝転がれる場所とか無いので……
部屋なんて仕事か探索から帰って来た時に寝る場所と荷物置き場でしかなかったから安くて狭いアパートなのだ。
「アコ様がいたお社に近い方が良いとかあるんですか?」
「あっちには
「はぁ……そういうのもあるんですね」
俺としてはギルドに近いのが一番利便性が良いが、ちょうどギルドの裏手に上級ダンジョンもあるので都合が良い。
上級ダンジョン
その分、探索者には人気エリアなので家賃高めのセキュリティもしっかりした物件が多い。
専業探索者だとあの辺以外は審査も通らないかもしれないし。
「引っ越しは早めの方が良いんですよね?」
「おぬしは何度言っても分からん奴じゃのー。後ろ盾もないカモがこんなところに住んでおったら、そのうち踏み込まれて縛られてすきるも封じられてポイじゃぞ。わしも希少な武器として売られてしまうじゃろうな」
「ぁー……そんなにですかね?」
「先日の宴会でぎるどの小娘も言っておったじゃろ。配信もしておったからすごい報酬を得ているのが明らかなので身辺にはよく気をつけろ、と」
「ぁー……」
こういうときに企業やクランに所属していなくて後ろ盾がないことが大きく響いてくる。
藤堂さんにお願いして聖女団に所属するという案も出たのだが、あそこは所属すると活動参加が必須になるらしい。
Aランカーのギルド故に定期的なダンジョンのモンスター間引きや公的機関からの調査依頼など色々とあるらしく、ほぼ自由な活動は出来ないらしい。
休日は何とかあるらしいが、俺としてはせっかく会社を辞めることになって自由に色々やり始めたところなのでまだあまり活動を縛られたくない。
カリンちゃんと固定パーティーを組むことになった件もあるしね。
「家賃は少し無駄になりますけど、即入居可能なところでよさげなところに早めに引っ越した方が良さそうですね。アイテムボックスに入れちゃえば荷物は運べますし」
「新しい寝床もな!」
「はは……押しますね……」
「当たり前じゃ! 狭くてわしが刀に戻らんと一緒に寝られんとか仮にも夫婦の寝床としてあるまじきことなのじゃ!」
「はは……」
こんなアコ様だけど貞操観念は意外と硬い。仮だからなのかな?
ラッキースケベ的なやつも含めて特に何も起きていない。
ちゃんと順序があるのじゃ、とか言っていた。
荷物を取りに戻るのも面倒だったし、留守の間に荒らされでもしたら嫌だったので荷物をすべて”アイテムボックス+”に詰めて部屋を出る。
ギルド近くの物件を多く取り扱っていそうな不動産屋に行って要望を伝えたところ、いくつか候補を見せてくれた。
おしゃれな外出着を着たアコ様を連れていたせいかコーヒーとお菓子も出てきた。
狐耳はなんか認識阻害をかけているらしい。
不動産屋のお姉さんからは2LDKをやたらと勧められた。
まぁ緊急依頼の報酬のおかげで資金的な余裕はある。
あれ1件で会社員時代の数年分の年収相当なのは西野さんに何度も間違っていないか確認してしまったくらいだ。
俺の方にこだわりはほぼないのでアコ様に写真とかを見て貰って候補を絞った。
おしゃれなのじゃーとか高いところがいいのじゃーとか色々言っていた。
コーヒーとお菓子はおいしゅうございました。
コーヒーが飲み終わる頃には候補も3つまで絞れていたのでいざ内見へ。
家具も何もない部屋の内見ってやたら広く見えるしキレイに見えますよねー。
アコ様が走り回りながらあちこち見ているのを微笑ましく眺める。
不動産屋のお姉さんもニコニコとした顔であれこれアコ様に説明している。
「ここがいいのじゃ!」
「高層階はエレベーター止まった時に泣きますよ……?」
「そのときには刀に戻るから大丈夫じゃ!」
「ぇー……」
アコ様は見て回った中で一番お家賃の高い部屋をご所望されました。
まぁそんな気はしてました。
不動産屋のお姉さんもニコニコ度合いが増している。
はぁ……まぁ甲斐性ってやつですかね。
この部屋に決める旨をお姉さんに伝え、不動産屋の事務所に戻る。
探索者向けの物件は即日入居希望者も多いらしく、インフラも即日で対応してもらえるらしい。
ありがたいことなので即日入居したい旨を伝えて手続きを進めて貰う。
契約書にサインをして鍵を受け取る。
不動産屋の皆様に見送られて事務所を出て、次は家具屋だそうだ。
「新しい寝床じゃな!」
「はいはい。布団じゃなくてベッドでいいんですか?」
「あのボヨンボヨンしたのが面白いからべっどでいいのじゃ!」
そんなわけで大手の家具インテリア店でベッドを選んで購入。
大きいのじゃないと絶対嫌じゃ!とのことなのでキングサイズだ。
アイテムボックスに入れて持って帰ると言ったら不思議そうな顔をされ、実際に入れたらすごく驚かれた。
探索者でアイテムボックス持ちが珍しかったのかね。
だいぶ買い物にも疲れてきたので最低限の消耗品と晩飯だけ買って新居へ帰宅。
まだ家具も少ない広い部屋の中央に置いたテーブルで二人晩酌だ。
今日は缶ビール。
「ぷはぁぁ。缶びいるも悪くないの!」
「いつもは日本酒ですもんね。すみません、買い忘れました」
「たまには良いのじゃ。今日はおぬしとたくさん買い物もできて楽しめたからの!」
「はは……楽しく買い物してもらえたなら良かったです。アコ様が選んでくれたのでいい部屋も借りられて良かったです」
「うむうむ。良い部屋じゃ」
アコ様も小さい胸を大きく張ってどや顔である。
ころころと表情を変えながら楽しそうにしゃべるアコ様。
晩酌はおやっさんの店か部屋で一人で飲む程度だったが、話し相手のいる晩酌ってのはいいものだ。
ゆっくりとした時間が過ぎ、酒も尽きたので就寝時間である。
「むふー。ようやくおぬしと同じ寝床で寝られるのじゃ!」
「はいはい。広いベッドが買えて良かったです」
「むふふー。良き良き」
パジャマ姿で横に寝たアコ様が頭をぐりぐりと寄せてきた。
頬にかかる狐耳がくすぐったい。
同じシャンプーとか使ってるはずなのにいい匂いがするのなんでだろ……
「段々と探索も再開しないとですね」
「もう身体の方は大丈夫なのかえ?」
「そろそろ行けると思います」
「ふむ。それなら、探索を再開する前にしたいことがあるのじゃ!」
「はぁ……」
「
姉様……?
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