第21話 スタンピード(1) あれ、なんかやっちゃいました?
カリンちゃんと二人で上級ダンジョンへ降り立つ。
相変わらず少しだけ薄暗く、じめっとした空気。
気のせいか、以前よりもダンジョンに漂うプレッシャーが強く感じる。
「カリンちゃん、大丈夫?」
「ん、ヘーキ。上級ダンジョンってあんまり来ないから慣れないけど……」
「妹さんの兼ね合い?」
「そ。両親は仕事もあるし、あんまり家空けられないからさ」
「そっか。お姉ちゃん頑張ってるね」
緊張か恐れか、少し震えているカリンちゃん。
その頭をつい撫でてしまう。
カリンちゃんはちょっとビックリした顔をした後、目を
やっぱり猫っぽいなー。
「オジサン、ありがと。ちょっと落ち着いた」
「どういたしまして。いつスタンピードの先頭に出くわすかも分からない。慎重に進もう」
俺たちの担当範囲が記載されたマップを確認しつつ、ゆっくり進む。
フォーメーションとしては俺が少しだけ先行する形だ。
先日来た時よりも、ダンジョン自体が静かな感じがする。
嵐の前の静けさってやつかね……
モンスターに全然出くわさないまま、階層が進んでいく。
2度ほど他パーティーとも遭遇したが、そちらも似たような状況だったらしい。
5階層まで降りたとき、違和感を感じた。
久しぶりに来る階層ではあるが、何かが違う……
なんだ? この違和感は……?
「どしたの?」
「いや、なんかちょっと違和感があってね。どこに違和感あるかが分からないんだけど」
「そっか。どうする? 何か報告しに戻る?」
「いや、もう少し進もう。引き返して報告するには弱いと思う」
「りょーかい」
近づいてきていたカリンちゃんが再び少し下がったのを確認し、マップを見ながら進行を再開する。
進みながら改めて周囲とマップをよく確認する。
優に10人は並べそうな横幅、10メートルはありそうな天井までの高さ。
マップに正確な通路幅までは書いてないが、広くなってないか……?
スタンピードに合わせて大量のモンスターたちが通りやすいようにダンジョンが変遷したりでもするのだろうか?
聞いたことはないが、ありえなくも無さそうな想像に少し背筋が寒くなる。
「……ぁ……ぉ……っ!」
後方から声らしきものが聞こえたので立ち止まる。
カリンちゃんも聞こえたようで、後方を気にしつつ、どうする?みたいな顔でこちらを見ている。
ハンドサインでカリンちゃんに待機を指示し、少し待つ。
「山田殿ぉー!」
ぉ? 一条さんの声な気がする。
足音も聞こえてきたのでカリンちゃんにも合図して少し立ち止まる。
いくらも待たないうちに、一条さんを先頭にして30人程度の集団が駆け足でやってきた。
聖女団ご一行、かな?
「一条さん、お疲れ様です。なんで聖女団がこんな前線に……?」
「どうもダンジョンが形状を変える変遷が起きているようだ。この階層で、他の先行調査チームが調べている通路がどれも途中で無くなっていたりしている」
先頭を走っていた一条さんがこちらに近づいて来て簡単に状況説明してくれる。
俺たちが本命を引き当ててしまったのか。
「やっぱりですか。こちらでも通路の幅とかに違和感がありました」
「だろうな。消去法だが、この通路が本命だろうという判断になった。なので防衛線をここまで一気に上げることになった」
「状況は了解しました。我々はどうしたらいいですか?」
「後方のお嬢様の傍へ。そこから援護を頼む」
「おじ様っ。こちらですわっ」
「ぁ、藤堂さん、お疲れ様で――」
その時、ズシンッという大きな揺れが起こる。
突然の揺れに皆が素早く周囲を警戒する。
数瞬の後、通路の奥からモンスターたちの雄叫びが聞こえ始める。
「……来たようだな」
「そのようですね。聖女団の後方から適宜援護させてもらいます」
「よろしくお願いしますわ」
「お嬢様を頼む。……団員各位! 整列!」
一条さんの号令に合わせ、前衛と思われる重装備のメンバーが先行し、通路を
流石によく訓練されていそうな動きだ。
通路の奥から聞こえてくる唸りのような音と地をビリビリと揺らす振動。
モンスターたちの雄たけびらしき声もどんどん大きくなる。
ピリピリとした空気が一帯を包む。
様々なモンスターたちが駆けてくるのが遠目に見えてくる。
「遠距離攻撃、
火。氷。岩。雷。
色とりどりのド派手な魔法が飛んでいく。
俺もカリンちゃんも乗り遅れたので様子を見ている。
着弾。轟音。爆炎。
しかして、一瞬の後には爆炎を乗り越えて進んでくるモンスターたち。
雄叫びをあげながらすごい速度で駆けよってくる。
「もう一発いくぞ! 遠距離攻撃、
今度は俺たちもタイミングを合わせて魔法を放つ。
一応俺も両手で
第二射も乗り越えて近づいてくるモンスターたち。
地震かと思うような振動と地響きのような轟音。
前衛さんたちの後方にいるのに、物凄い圧迫感だ……
「接敵
「「「「応!」」」」
前衛の構えた大盾とモンスターたちが激突する凄まじい激突音。
叫び声。雄叫び。
「前が止めている間にもう一発だ! 味方に当てるなよ! 遠距離攻撃、
鳴り響く轟音。爆発音。激突音。
響く悲鳴。叫び声。雄叫び。
雰囲気に、気圧されそうになる。
何か、俺に出来ることはないだろうか?
通路を埋め尽くすほどモンスターがいるのなら、もしかして、あれが有効か……?
思いつきを試すため、盾を構える前線のすぐ後ろまで走る。
その場で両膝を地につき、両手も地面につける。
そのまま集中し、魔力を練る。
全力で魔力を練り込んだせいか、かなり魔力を持って行かれる感覚。
それでもそのまま放つ――
「”
前衛さんたちの向こうにいるモンスターたちの真下に突然発生する大穴。
モンスターたちがばらばらと落ちていく。
「「「なっ……!?」」」
「よしっ!」
前衛さんたちでよく見えないが、通路ほぼカバーするほどの大きさになっている?
あれ? なんか思ったより大きい穴になった……?
将棋倒しにでもなってくれればラッキーぐらいのつもりだったんだけど……
なんだろう、なんとなく雰囲気が、重い?
みんなが俺を見てる気がする。
「……オジサン、何? さっきの?」
「ぇ? ピットフォールだけど。ちょっとマイナーな中級土魔法」
「いや、ピットフォールは知ってるし。でも、普通あんなに大きな穴、空かなくない? 小さい穴とか作って転ばせたり罠にしたりする魔法っしょ?」
「いやー、全力で魔力込めて見たら……思ったより大きな穴が空いた、みたいな?」
「大きな穴って……通路の幅がほとんど穴じゃん……」
「おじ様、流石ですわ」
あきれ顔のカリンちゃんとなぜか自慢げな藤堂さん。
一条さんがこちらを見て軽くため息をついてからクランメンバーたちへ号令をかける。
「この隙に陣形を立て直せ! すぐ穴が埋まって後続が来るぞ! 下から飛び上がってくるモンスターにも警戒しろ!」
「「「「応!」」」」
先ほどの衝突で少し崩れかけていた陣形が整えられていく。
負傷した前衛へも回復魔法が飛んで行ったのかまだ脱落者は出ていないようだ。
陣形を確認していた一条さんがこちらに小走りにやってきて、心配そうに尋ねてくる。
「山田殿、魔力は大丈夫なのか? あんな規模の魔法を使ったらあっという間に魔力が尽きるぞ?」
「ぁー……まだ大丈夫な感じはするんですけど。実は限界まで魔力使ってみたことがまだなくて、分かんないんですよねぇ……」
「そ、そうか……無理はするなよ?」
「了解です」
ピットフォールで空けた穴がモンスターたちで埋まったのか、後続のモンスターたちが雄たけびを上げながら前衛たちの盾にぶつかる音が聞こえはじめる。
まだまだスタンピードは始まったばかりだ。
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