第18話 うにゃー猫?

 無事に茸森ダンジョンから脱出し、帰還報告のために二人でギルドに戻る。

 ちょうど西野さんが奥から出てきたので手を振ってみる。

 手を振り返してくれた、嬉しい。癒される。

 そのまま窓口につくようなのでこちらも窓口に向かう。


「西野さん、お疲れ様です。帰還報告お願いします」

「はぃー。茸森ダンジョンでしたよね……あら?」


 西野さんは俺の後ろに立つカリンちゃんに気づいたようだ。

 なんでこの組み合わせ?と言うような不思議そうな顔をしている。


「えっと、カリンちゃんにはダンジョン内で会いまして」

「カリン、ちゃん……?」

「いや、あの、本人からそう呼ぶように言われまして……」

「本人から……?」


 何だろう。西野さんの笑顔が怖い。

 目の奥が全然笑ってない……


氷見ひみさんもお疲れ様ですぅ。どうしてお二人がご一緒なんですかぁ?」

「別に……ちょっと助けられただけだし……」

「助けられた……?」

「あぁ、えっと、カリンちゃんが野猪ワイルドボアの特異個体に襲われてるところに遭遇したので、助けに入りまして……」

野猪ワイルドボアの特異個体、ですかぁ?」


 西野さんが怖い感じをスッと消して眉をひそめた心配げな顔になる。

 カリンちゃんはあんまり説明する気もなさそうなので、俺の方からもう少し説明しておく。


「はい。火属性を持った、一回り大きい個体でした。途中で撤退したんですが、片方の牙だけは折れたので持ち帰ってます」

「茸森だと……特異個体の出現記録は無さそうですね。登録しておきますので帰還報告に詳しく書いておいてくださぃ。牙の方はよければ佐藤さんへ渡して下さると助かりますぅ」

「分かりました。あとで渡して来ます」


 そう言いながら西野さんが俺の探索申請書を出してくれる。


「アタシのも頂戴」

「はぃー。氷見さんは負傷もなさったんですか?」


 西野さんがカリンちゃんの姿を足元から頭までさっと確認しなが言う。

 カリンちゃんは衣服が破けてしまったので俺の予備のTシャツを貸している。

 パーカーみたいな服はアイテムボックスに預かっているので、Tシャツの下からちょっと破けたスパッツが覗いている感じだ。


「ちょっとね。オジサンに治してもらったからもう平気」

「そうですかぁ。氷見さんもソロでの探索が多いので、お気を付けくださいねぇ」

「分かってるし。たまたまだし」


 懐かない猫みたいな態度のカリンちゃんに困った顔の西野さん。

 俺には割と素直だったけど、なんでだろ?

 まぁさっさと帰還報告を書いてしまうか。


「はい。コレでいいっしょ」

「ワイルドボアの特異個体については……?」

「オジサンが書くならそれでイイっしょ。アタシは氷雪嵐アイスストーム撃ったけど効かなくて吹っ飛ばされただけだし」

「その内容だけで構わないですから書いてくださぃー」

「めんどい」

「お願いしますぅ。適切な帰還報告も探索者の義務ですのでぇ」

「もー……めんどいなぁ……」


 二人のやりとりを聞きながら俺の方も報告を書き終える。


「西野さん、俺の方もお願いします」

「はぃー。……大丈夫そうですね、はい、受理致しますぅ」

「はい! コレでいいっしょ!」

「はぃー。……もうこれでいいです」

「よし! じゃあごはん行こう! オジサン!」

「ご飯……? もしかして、お二人でこの後お食事ですかぁ?」


 あぁ、西野さんからまたちょっと怖い雰囲気が……


「そうだけど、ナニ?」

「山田さん、私もご一緒してよろしいですかぁ?」

「はぁ? やだし」

「私は山田さんに聞いてるんですぅ。いかがですかぁ?」

「いや、……あの、今日はカリンちゃんと――」

「私も、ご一緒しちゃ、駄目ですかぁ?」


 圧が。圧が……


「山田さん」

「オジサン!」

「……一緒に行きましょうか……」

「はぃー。ありがとうございますぅー」

「チッ……」

「すぐ出られるよう準備しますので、山田さんたちも探索後のシャワーとか着替えとかを済ませていてくださぃー」


 西野さんが素早く窓口を閉めてパタパタと裏の方へ去っていく。

 圧に、負けた……

 西野さんがあんなに押してくるなんて珍しい……

 横を向いてちょっとねた顔をしたカリンちゃんに謝る。


「カリンちゃん、ごめんね。なんか、二人で行けなくなっちゃって。」

「嫌だけど、まぁしゃーない。お邪魔虫ババアめ……」

「本人の前では絶対に言わない方がいいよ。前にとんでもなくひどい目にあわされた人いるから……」

「……気を付ける」





 どこに行きましょうかってなったが、結局俺の行きつけの居酒屋へ。

 二人とも俺が行きたいところとか言ってくるんだもん。

 そんなにおしゃれな店とか知らないよ。

 おやっさんに電話してみたら今日も奥の個室を貸してくれるそうだ。


 西野さんと個人的なお食事とか初めてだ。ちょっと緊張する。

 初めて見る私服はひざ丈位で落ち着いた色味のちょっとゆったりとしたワンピースなのだが、そのちょっと広めに空いた胸元のデザインと西野さんの暴力的なスタイルのコンボによってどうしても胸部ある部分につい目を奪われる。

 カリンちゃんの方は予備の服が無いそうで、探索の時と同じ服だ。

 ダボッとしたTシャツで身体のラインは隠れており、裾から見えるスパッツから除く素肌がほんのり健康的な色香を漂わせている。


「えっと、それじゃぁ、お疲れ様でした」

「お疲れー」

「お疲れ様でしたぁ」


 正面に座る西野さん、右隣に座ったカリンちゃんと乾杯する。

 カリンちゃんも20歳らしいので今日も全員生中でスタートだ。


「それにしてもぉ、最近の山田さんは特異個体に遭遇しすぎじゃないですかぁ?」

「ははは……自分でもそう思います。特異個体の発生率そのものが上がってたりします?」

「例の上級ダンジョンの件と関係しているのか、少し発生率は上がってるみたいですけどぉ。山田さんほど連続で遭遇してる方はいらっしゃらないですぅ」

「はは……そうですか。倒せていれば魔石の買い取り額も高いから嬉しい話なんですけど、あんまり倒せてないですからね」

「特異個体のは通常種よりも強い場合が多いから仕方ないですよぉ」

「そうですね。今日のワイルドボアとかもかなり強かったです。まともに最後まで戦っていても倒せたかどうか……」


 なんだか静かだと思ってカリンちゃんの方を見る。

 真っ赤な顔で目をぐるぐるとさせているカリンちゃんがふらふら揺れていた。

 ぇ? ビール1杯でもうそんなに酔ってる?

 俺の視線に気づいたのか、カリンちゃんが真っ赤な顔のまま必死にしゃべりだした。


「オ、オジサンっ、今日はっ、ホントにありがとっ。マジで死んじゃうと思ったし、助けて貰って、ホントにすごいすごい嬉しかったっ……」

「あ……あぁ。どういたしまして。助けられてよかったよ」

「ホントに……ホントに嬉しかったんだよ……アタシは妹のためにもまだまだお金稼がなきゃだし……」

「妹さん?」

「ウンっ……ちょっと、難しい病気なんだ……」

「そうなんだ……」

「だから……もう絶対死んじゃうっ、風香ごめんってなったとき、オジサンがあいつ吹っ飛ばしてくれて、しかも傷も治してくれて、ホントにホントに、嬉しかったんだよ……あと、お姫様抱っこもしてもらっちゃったし……」

「いや、あれは、不可抗力で――」

「山田さん。詳しく」

「いや、あの、その、けが人を運ぶための緊急措置でして、決してやましい気持ちがあるわけでは――」

「ぁぅぁぅ……ふみゃー……」


 謎の声を出しながらカリンちゃんが俺のおなか辺りに抱き着いてきた。

 真っ赤な顔でうにゃーうにゃ―言っておる。

 額を押し付けてくる感じがなんかすごい猫っぽい。

 何だろうこの可愛い生き物は。

 すごい酒に弱くて、酔うとこんな可愛くなっちゃうとか、飲ませちゃ駄目な子だな、この子……


「うふふ……かわいい子ですね。氷見さん」

「そうですね、なんか一生懸命って感じですね」


 ひざに乗っているカリンちゃんの頭をなんとなくでながらゆっくり飲み続ける。


 そして約2時間後。

 机の上には空になった日本酒の一升瓶が2本。

 うふふふと笑いながら全くいつも通りの感じで飲み続ける西野さん、カリンちゃんうにゃー猫、ほどほどに酔った俺。

 西野さんお酒強すぎ。

 ザルですらないね。枠ってやつだね。

 俺は合計で2~3合しか飲んでないんだから、残り全部西野さんが飲んでるんだぜ?





 カリンちゃんうにゃー猫を西野さんに任せて二人をタクシーで送り出す。

 おやっさんからは今日はこれだけな、と言われて酒瓶だけ渡された。

 もうちょい詳しく教えてよと言ってみたが、そのうち分かるから気にすんな、と言って取り合ってくれない。


 そして道沿いの小さなお稲荷さんの脇あたりで霧に包まれた後、やはり真っ赤なおやしろの前に立っていた。

 あれ? 今日は銀髪狐耳の幼女が仰向けに転がってる……


「まーだーなーのーかー! 待ちくたびれたのーじゃー!」


 幼女が転がったまま手足をバタバタ。ものすごくバタバタ。


「いつまで待たせるのじゃー! わしはもう待てないと言うておいたじゃろうにー!」

「ぇ……あっと、すいません」

「むぅ……小まめに会いに来るのは良い心がけじゃが、実績が伴っておらんのは良くないのー。おぬしはよくよく言い聞かせんと伝わらんじゃったかのー。まぁ会いに来るたびに経路ぱすは太くはなるし、悪くはないかのー」


 ぶつぶつ言いながら「ふんすっ」と起き上がった幼女が俺の方にとてとてと近づいてくる。

 狐耳がピコピコするのがかわいい。

 目の前まで来てむーっと俺の顔を覗き込んでくる。


「むー、やはり鍛錬はちょっとずつ進んでいるんじゃが、そもそも力の使い方がなっていないの」

「つ、使い方……?」

「うむ。おぬしはまだ常識だか過去の感覚だかに縛られておるの。おぬしの力はまだまだそんなものじゃない。まぁ一度限界近くまで魔力使ってみれば少しは身体で理解できるようになるかもしれんの」

「はぁ……」

「まぁ、精進せよということじゃ。本当に依り代も早く見つけるのじゃぞ!」

「ちょ、この前も言ってたけど依り代って――」


 聞こうとした瞬間、また一瞬で小さなお稲荷さんの前である。

 幼女も、真っ赤なお社も、全部消えている。


「意味分からねぇ……」



 ――――――――――――――――――――

 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 カリンちゃんカワイイ感が少しでも伝わっていれば幸いです。


 フォローと★★★がまだの方は執筆のモチベアップになりますので、ぜひよろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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