企業系有名パーティーの雑用係をリストラされたけど、幼女神様の加護でやっていけそうです
ダイシャクシギ
第1話 リストラ宣告
「おっさん、今日で
「ぇ……? な、なんで知って……」
自席に戻った俺にニヤニヤした顔で寄って来たパーティーリーダー。
「そんなもん、みんな知ってるぞ」
「ぇ……?」
事の始まりは、今朝の朝礼後に部長に声を掛けられたところからだった。
「ちょっといいかい」と声を掛けられ、そのまま会議室に連れていかれた。
いざ会議室に入ってみれば、向かい合う形にセッティングされた会議机に専務と部長が座り、リモート用モニターの先には人事部長が映っていた。
勧められた席に俺が座るなり、鈴木専務が話し出す。
「山田くん。落ち着いて聞いてくれたまえ。我が社はいま、収益改善のために構造改革を行おうとしている」
「は……はい。初耳です……」
「そうだろう。構造改革には、果たすべきタスクに対して必要十分なだけの人員の組織が必要だ。そのためには、有体に言って人員削減が必須なのだよ」
「はぁ……」
「山田くんはいろいろな部署を経験しているから、知識・実績ともに豊富だと聞いている。そんな君なら、我が社でなくても十分活躍していけると思うんだ。君のような人材を手放さなければならないのは非常に残念だよ」
部長も鈴木専務も、誰もが笑いを堪えているような顔に見えた。
経験豊富だという人材を放出、する?
「山田くん。退職に同意してくれるならこの退職承諾書にサインをしていってくれ。もし嫌だという場合は、残念ながら海外工場へ出向になる可能性が高いだろう。待遇は現場作業員になる」
「ぇ……? そんな急に……ど、どういうことでしょうか?」
「先ほど説明した通りだよ。さぁ、早くサインしてくれたまえ」
海外への出向は、どうしても出来ない。
まだこの街を離れるわけにはいかない。
会社都合ならしばらくは失業手当も出るし、年齢的な厳しさはあるが、有給消化中に転職活動か……
急展開に追いつかない頭の中でそんなことを考えながら、流されるままに承諾書にサインをしてしまった。
サインを確認した部長が得意げに話し出した。
「あぁ、そうだ。退職は本日付けということになるから。それと自己都合退社ということになるからね、よろしくね」
「え……?」
「承諾書にもそう書いてあっただろう? 君はもうそれにサインしたのだから、同意したということだよ」
「な、そんな……」
考えていた今後の予定が後出しされた情報にすべて潰された。
余りの理不尽に頭が真っ白になった。
「それじゃ、もういいから。戻って片付けとか色々やってくれ。」
承諾書にサインさえあればもう用はないと言わんばかりのあからさまな態度。
呆然とした俺は部長に背中を押されるようにしてそのまま会議室から出された。
そしてほぼ無意識に歩いて自席へと帰り着いた直後、リーダーに声を掛けられるのだった。
「おい! おっさん! 聞いてんのかよ!」
「ぇ……ぁ、ああ」
回想に
「だから! 役立たずはクビにするって聞いてたんだよ! 戦闘ではほとんど何の役にも立たない! それなのにあれこれ指示してきやがる! 魔力量も一人だけ低い! パーティーの役に立ってなかった自覚ねぇのかよ!」
「そ、それはそうかもしれないけど…… 事務処理関係や配信機材操作、持ち込みアイテム類の管理や運搬は僕がやっていたよね?」
「うるせぇよ! そんなの誰でも出来んだろうが!」
ダンジョン探索用装備メーカー『クレスト・コーポレーション』。
広報部 探索課 販売促進チーム。
有名な探索者を企業の広告塔とし、自社製装備品の宣伝を行うためのパーティーであり、いわゆるダンジョン配信者集団でもある。
『
『
『
『
それと、おまけの雑用係の俺、
「事務書類もあれこれ直せとうるさいし。経費だっていつもいつも文句をつけてきやがるし」
「いや……それは、正しく書かないと通らないから……」
「だからうるせぇよ! 代わりのアイテムボックススキル持ちの新人が配属されることになったんだよ! だから、おっさんはクビになるってみんなもう聞いてんだよ!」
「なっ……そんな……」
販売促進チームが立ち上がった時、俺は設計部門にいたのに拒否権なく異動させられた。
自分なりに販売促進チームに必死に貢献してきたつもりだ。
メンバー集めも、事務仕事も、日々も探索や配信に関する雑用だってずっとずっと必死にやってきた。
このパーティーの知名度だって、最近ようやく上がってきた。
それでも、今日付けで俺はクビになってしまうらしい。
「おっさんが使ってた装備は会社の備品だからな! 全部置いてけよ!」
自分で手直ししたりして使いやすくしていた装備類の数々も手放させられ……
「それから
事務仕事だけは最後の最後までやらされる。
「なにそんな大声出してるのよ~」
「ぁん? おっさんが
「な~んだ。やっと追い出すの~」
「ぇ……やっと、って……」
「だって、おじさん、ざこざこすぎ~なんだもん~」
「ざ、
「ぇ~。自衛って、逃げ回ったりマイたちの後ろに隠れたりしてたやつのこと~? あんなので自衛してたとか、言っててはずかしくないの~?」
俺なりの工夫や努力は、こんな10歳以上も年下の
「まぁ、山田さんはFランクでしたしね。素質がないってことですよ」
「ラ、ランクがすべてでは無いだろう? 僕なりに貢献はしていたつもりだよ?」
「つもり、なだけでは? 実際、どの程度パーティーに役立っていたんですか? 山田さんでないといけない仕事って、なにかありましたか?」
「そ……それは……」
「誰でも出来る仕事しかしてないなら、やっぱり山田さんじゃなくてもいいってことですよね」
事務仕事やサポート業務なんて、一度も見向きもしたことがない
たとえ誰でも出来る仕事だったとしても、それを真面目に正確にこなすだけではダメだったのだろうか?
「そもそも! Bランクの俺たちのサポート役としては、Fランクのおっさんじゃ全然力不足だっつーことだよ!」
「
ランクが低いというのは、そこまで否定されなければいけないのだろうか。
生まれ持った魔力量だけで決まるランクだけで。
自分が努力してきたことすべてを、ここまで否定されなければならないのだろうか?
「い、岩田さんも同じ意見なんでしょうか?」
「俺はリーダーの指示に従うさ。上の許可を取ってたのは事実だしな。」
「し、新人の子に、引継ぎとか必要じゃないでしょうか……?」
「ん? 山田さんの仕事に引き継ぎするほどの内容なんてないだろ?」
裏方の仕事に一番詳しかったであろう、俺の次に年長な岩田さんすらそんな認識だなんて。
本当にその程度の扱いだった、ということなのか……
「あー、もう。いつまでいるんだよ! いい加減分かったろ! お前は
「ぷ~っ。おじさんの顔、なっさけな~い」
「中年の泣きそうな顔なんて、人様の前で見せるものではないと思いますよ。さっさといなくなってください」
「まぁまぁ。荷物を片付けるぐらいの時間は与えてやろうや。残った私物を片付けさせられても面倒だしな」
「それもそうだな! ちゃんと片づけてから帰れよ! ギャハハッ!」
「うける~」
フロアに響く笑い声。
嗚呼……嗚呼……
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