第5話

――それから1か月後の事――


「お兄様、お話というのはなんですか?」

「あぁ、貴族会から君に話を聞きたいという依頼がきているんだ。応じても構わないかい?」

「それは構いませんけれど…。でも私貴族会の方々に話をすることなんて、何もないかと思いますが…?」


正直、私の中ではガラン様はもう完全に過去の存在になっていた。

あの時の暮らしや会話を思い出すことも全くなくなっていて、元いた自分の場所にすんなりと収まっていた私にとって、その時の事を思い出すのは別に価値のあることだとは思えなかった。


「セシリアにしてみればもう興味さえないことかもしれないが、向こうはそうじゃないらしい。主張の激しいガランを嫌う貴族家は多いことがよく分かったわけだから、彼らはガランを追い詰めるための話を欲しがっているんじゃないだろうか?」

「なるほど…。私は別に構いませんので、そうお返事をしていただけますか?」

「おーけー」


こんなラフな形で成立した、私と貴族家との会話。

もう私としてはガラン様がどうなろうともどうでもいいことではあるのだけれど、呼ばれたからにはいってみてもいいかと思った。


「その場にはどれくらいの方が来られるのでしょう?あまり多くの方の前で話をするのは恥ずかしいですね…」

「聞いて驚くなセシリア、なんとかなりの人数たる貴族家の人間が参加を表明しているらしい。おそらくそれくらい、君の話は彼らにとって注目するべきものだということなんだろう」

「えぇ…。私、別に大した話を持っているわけでは…」


期待されても困るというのが本音…。

これで私がなにも価値ある事を話せなかったら、集まってくれた人たちの事をがっかりさせてしまう結果になってしまうのだろうか…?


「どうやらガランはあれ以降、かなり身勝手な振る舞いを繰り返してきている様子…。貴族会の連中も相当うっぷんを抱えているんだろうね。そんなところに君という救世主のような存在が現れたわけだから、そりゃあまぁ放ってはおけないというものだろう。なかなかに刺激的な会談になるかとは思うけれど、せっかくだし楽しんできたら?♪」

「もう、お兄様は楽観的なんだから…」


とはいっても、私もあまり人の事をいえるものでもなく、なかなかに軽い気持ちでこの話を引き受けていた。

それがガラン様に対する断罪裁判の場であることを、この時の私はまだ知らず…。


――――


「セシリア!!どうして急にいなくなったりしたんだ!僕はあんなにも君の事を愛していたじゃないか!それなのにどうして僕の事を裏切ったりしたんだ!」

「……」


私が会場で一番驚いたのは、そこにガラン様本人がいたことだった。

…まぁ別に今更気を遣う必要はどこにもないのだから、むしろその方が私にとってもいいのだろうか…?


「えっと…。そもそも、私に攻撃的な言葉を続けられていたのはガラン様の方ですよ?自分以外に私の事をもらってくれる人なんていないとか、いなくなっても困らないとか、出ていきたかったらすきにしろとか…」

「言ってない!!僕はそんな非道なことは絶対に言ったりしない!!」

「(言ってたじゃん……)」


心の中でそう突っ込みを入れる私だったものの、ここで言った言っていない論争を私たちが繰り広げても、なにも進展はないことだろう。

どうするのが正解なのかと頭を悩ませていたその時、貴族会の代表らしき人物がこう言葉を発した。


「やはりこうなりますか…。まぁそれは最初から分かっていた事ですので、ここで証人ともいえる方にお話を聞きましょうか。ほかでもない、ガラン様の下でこれまで働かれておられた方々にね」

「なっ!?!?!?」


…その言葉が予想外だったのか、ガラン様は非常に驚いたような表情を浮かべ、同時に焦りの色をその顔に見せ始める。

その後私たちの前に現れた複数の男性たち。

私はその全員の顔に、はっきりと見覚えがあった。


「(みんな、もうガラン様のところをやめていたんだ…。それなら、私と同じ立ち場いうことになるんだろうか?)」


正直私が出て言って以降の事は、あまり詳しくは知らなかった。

だからこうして彼らが、ガラン様の元部下という形で紹介されたことに、私は驚きの思いを隠せなかった。


「さて、君たちに聞くことにしようか。たった今、ガラン様とセシリア様は完全に意見を対立させてしまっているわけであるが、どちらが本当の事を言っているのかな?君たちならばわかるだろう?」


貴族会側からそう問いかけられるや否や、彼らは口をそろえてこう返事を行った。


「「ガラン様はうそをついている!!!セシリア様の話の方が正しいです!!」」


その声は狙っていたのかという位にそろえられていて、同時にこの場に集まった人々のうれしそうな感情を誘引した。

ただ一人この場で笑っていなかったのは、ガラン様本人ただ一人だけだった。


「お、お前たちまでこの僕の事を裏切るのか!!!!」

「裏切るって…。私たちは何度も何度もガラン様に忠告を行ってきました。それを無視してここまで来たのはあなたの方でしょう?むしろ裏切られたのはこちらの方ですよ…」


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