第53話 「結婚披露宴での誓い」

 私は私室の別室でメイド達にセットされ、白いタキシードに身を包む。頭もしっかり整えられ見違える姿が鏡に映っている。


「タクト様、よくお似合いです。時間ですので参りましょう」


 メイドのスザンヌと共に私は魔王の間の裏口扉の前に案内される。結婚会場は魔王の間で行われることになった。私とレイアの負担を減らし巨大な来客に対応するためだ。


 少し待っていると、レイアがメイドのアンにエスコートされてこちらへ歩いてくる。


「待たせたな、タクト」


 白い半透明のベールをアンが上げると、目もくらむような美貌びぼうのレイアが姿を現す。純白のウエディングドレスがレイアの美しさをさらに際立きわだたせている。


「ものすごく綺麗きれいだ、レイア」


 私は思わず口にする。それはもうこの世のものとは思えないほどである。


「まことかたじけない、タクト」


 レイアのほおが少し赤らんでいるように見えるが、きっと化粧のせいだ。今日の結婚式は挙式きょしきは行わず、披露宴ひろうえんのみである。


「時間です。参りましょう」


 アンとスザンヌが先導し、扉が開く。神々こうごうしいあかりと使い魔達が準備した豪華ごうか装飾そうしょくが目の前に広がる。


「それでは時間になりましたのでご紹介いたします。クライスライン=リータ=レイア、タクト=ヒビヤ。新郎新婦の入場でございます」


 地獄の使いアシュレの司会進行で私達は魔王の間へゆっくり歩みだす。会場に集まった来客からの拍手が起こる。


 主賓しゅひん席には各種族の代表達がそろっている。四天王の姿もある。来客の身体のサイズもまちまちで、それぞれにあった席が用意されている。


 披露宴ひろうえんの様子はリータ魔王国すべてのたみに映し出され放映されている。皆も心待ちにモニターをながめている。


 私達はアンとスザンヌに先導され、高砂たかさご席へと案内される。金屏風きんびょうぶを背に皆に一礼し、席に着く。


「それではこれより新郎新婦の結婚披露宴ひろうえんり行います。まずは新郎のタクト様よりお言葉を頂きます」


 アシュレより私にバトンが渡る。私はアシュレに一礼し席を立つ。半透明の拡声マイクが私の前に出現する。


「ご紹介にあずかりましたタクト=ヒビヤです。このたびは私達の結婚式に参列頂きありがとうございます」


 列席している皆は私の言葉を黙って聞いてくれている。


「私はとなりにいる魔王クライスラインとこの魔界を討伐とうばつするために敵としてやって来ました」


 来客も、モニター越しに見ているたみ達の表情も驚きに変わる。


「しかし、彼女を一目ひとめ見て考えが変わりました。その一瞬で私はこの魔王と共に生きてみたいと思うようになったのです」


 私の馬鹿げたスピーチに四天王以外の皆が口を開けている。


「私は友がとどめを刺す前に彼女を封印して命を救いました。そして友たちに別れを告げ、彼女を復活させて告白したのです」


 私はとなりに座るレイアの顔を見る。レイアも私を見て微笑ほほえんでいる。そして皆に向き直る。


「彼女は私の告白を受け入れ、結婚してくれました。これが私達の結婚した嘘偽うそいつわりのない経緯でございます」


 静まり返る皆を前に私は続ける。


「お集まり頂いた皆さん、見てくれている皆さん、私はこの場を借りてとなりにいるレイアを生涯しょうがい愛し続ける事をちかうと約束します。どうか私達をずっと見守っていてください」


 皆が私の言葉に対し一斉いっせいに拍手をし始める。拍手はしばらくの間続いた。


「皆さんありがとうございます。もう一つ、明日から上下水道の工事を始めます。皆さんにはご迷惑をおかけしますがご協力お願いします。私からは以上です、ありがとうございます」


 私はすべてを話し終えて一礼し、席に着く。会場の皆が拍手を送ってくれる。


「以上新郎からのお言葉でした。次に新婦魔王クライスライン様よりお言葉を頂きます」


 アシュレの紹介でレイアが席を立つ。マイクが出現し、レイアがスピーチを始める。


「おほん。皆の者、今日はわらわとタクトの結婚式に時間をもらいかたじけなく思う。タクトより話があった通りの事情でわらわは婚姻こんいんの絆を結んだわけじゃ」


 会場の皆もモニターを見ているたみ達も真剣にレイアの演説に聞き入っている。


「まさかわらわが誰かと結婚するとは思っておらなんだわ。アッハッハッハ!!」


 会場の者達がどっと笑いだす。たみ達もレイアの意外な言葉に笑いをこらえきれずにいた。


「かたじけない。皆にこの席をもうけさせてもらったのには二つの理由がある。それを今から話すのじゃ」


 レイアは皆の笑いが止まるのを待ってから話し始める。


「ひとつは、わらわがとなりにいるタクトを夫とし、妻となった事を皆に伝える事じゃ。わらわは生涯しょうがいタクトを夫として愛する事を皆の前でちかう。この決定には異論は認めぬ。よいな」


 来客達は黙ってうなずいている。


「つまり今後この者とどこかで出会った時は認識して接してもらうという事じゃ。わらわの申す意味、わかるな?」


 モニターしに見ているたみ達がレイアの言葉に耳をかたむけている。


「もうひとつ伝えたい事、それは……わらわの身体にタクトとの子が宿やどっているという事じゃ」


 レイアが私を一瞥いちべつする。私はレイアにうなずいて返す。来客の皆もモニター越しのたみ達も言葉の意味を理解するのにそう時間はかからなかった。


「わらわに子ができるのじゃ。その時は皆で祝っておくれ」


 レイアの言葉に皆が拍手し、祝福する。拍手の嵐はしばらく続いた。


「皆の者、わらわ達の為に時間をくれた事、あらためて礼を申す。あと数日で戦争が始まる。じゃが、今宵こよいは気にすることなくわらわ達と共にこの時間を楽しんでおくれ」


 レイアは皆に一礼し席に座る。会場の皆からしみない拍手が送られる。


「以上で新婦魔王様からのお言葉を頂きました。続きまして新郎新婦のちかいのキスを行います」


 アシュレの司会で私達は席を立ち、互いに見合ってキスをする。来客達から拍手が起こる。唇を離し、私達は皆に一礼する。


「ありがとうございます。お二方とも席にお付きください。それでは皆様、新郎新婦が用意した料理の数々を堪能たんのうしながら今宵こよいはお楽しみください」


 アシュレの司会で皆が料理を口にし舌鼓したつづみをうつ。すべてドミエル料理長を筆頭ひっとうに料理人たちが時間を惜しまず用意してくれたものだ。彼らには感謝の気持ちでいっぱいだ。


 その後もアシュレの進行が続き、私とレイアのケーキ入刀も無事つつがなく終える。ケーキは皆に配られうたげは続く。リータ魔王国のたみ達は日頃の疲れを忘れて楽しんだ。



◆◆◆



 結婚披露宴ひろうえんは無事にすべて終了し、来客達も魔王の間を後にしていた。メイド達や使い魔が後片付けにあわただしく動いている。


「魔王様、タクト様、お疲れ様でございました」


 アシュレが私達に会釈えしゃくして迎えてくれる。


「アシュレさん、今日は大役ありがとうございました。おかげでいい披露宴ひろうえんになりました」


「おめ頂き光栄です。私は魔王様の忠実なしもべでございますゆえ」


 アシュレの殊勝しゅしょうな態度にレイアがねぎらう。


「うむ。大儀じゃった。皆を取りまとめた後、ゆるりとするがよい」


恐悦至極きょうえつしごくに存じます。魔王様」


 アシュレは一礼するとメイド達の元へ向かう。私達もアンとスザンヌに先導され、部屋に戻って着替えをおこなった。


 その後私とレイアは寝室で愛を確かめあい、眠りについた。こうして私達の結婚式はつつがなく幕を閉じた。その日はたみ達がお祭りさわぎとなり、夜を明かしたのである。



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【まめちしき】


【高砂】…………新郎新婦が座るメインテーブルのこと。高砂席という。招待客席よりは一段高くしつらえられることが多いが、ゲストハウスやレストランなどでは招待客と同じ目線とすることも多い。(ゼクシィ様のサイトより引用)

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