第47話 「吸血鬼女王シルヴィア」

 私達はヴァンパイア達が住んでいる町へと転移する。彼らはレイアの招集によって広場に集結している。数は男女それぞれ15人ずつと少ない。青白い肌に紅い目、男は貴族さながらの燕尾えんび服に、軽装のチェインメイルをまとう。女は露出ろしゅつの多いドレス姿である。


 そして彼らを束ねるのは十五歳くらいであろうか、黒髪に真紅しんくのドレスを身に着けた娘である。彼女はレイアに気づくと、私達に近づき挨拶あいさつする。


「お待ちしておりました、クライスライン様。シルヴィアです」


 彼女は会釈えしゃくし、頭を上げる。彼女もまた透き通るような美女だ。真紅しんくの瞳が美しい。


「うむ。吸血鬼女王ヴァンパイア・クイーンシルヴィア。しばしかまってやれずすまんかったのう。今日は夫のタクトとおぬし達の強化のために来たのじゃ」


「ほう、この人間と? 魔王様、この者の血を頂けるので?」


 レイアに問いかけてからシルヴィアは私を見る。意外な問いに私達は顔を見合わせる。


「こう言っておるが、どうする、タクト?」


「そうだなぁ…… 考えてなかったけれど、一口くらいならいいかな」


 私は想定外の申し出に咄嗟とっさに答えてしまう。私の返答に彼らは笑顔になる。


「タクト、彼らにさずけるものがあるのじゃな」


 レイアの問いに私は皆に向けて答える。


「そうなんだ。シルヴィアさん、ヴァンパイアには弱点がありましたよね。それを改めて教えてほしいんです」


「弱点をだと?」


 私の問いにシルヴィアは驚き、表情を曇らせる。


「それを聞いてどうするのだ。我らを滅ぼすのか?」


 彼女の返答に私は手を少しだけ振って答える。


「違います。それらを克服させます。敵から攻められても大丈夫なようにね」


「何だと! そんな事ができるというのか?」


「やります」


 私の答えにシルヴィアは少し考えている。


「フフフ…… アッハッハッハ!!!! 面白い事を言う奴だなお前は!」


 シルヴィアは歓喜し、私に満面のみを見せる。


「よかろう。貴殿の言葉、信じてやろう。我らの弱点、これから話そう」


 シルヴィアは私とレイアに弱点を説明する。銀、日光、聖印、鏡、火、水、くい、そしてニンニク。私はインベントリから紙とペンを取り出し、すべて書き留める。


「なるほど。ニンニクは美味しいから食べられるようにしてあげたいよな」


 そんな事を言いつつ、私はインベントリから約束された聖杖プレッシーハートロッドを取り出す。


聖杖せいじょうよ、誓約せいやくの力を示せ!」


 私の言葉に杖先の玉から光が上がり、書き留めた紙を青白い炎で焼き尽くす。その様子を確認し、私はレイアに近づく。


「レイア、少しだけキスしていいか」


 私の申し出にレイアは少し驚くが、うなずいてくれる。レイアとキスを交わし、システム改変承認しょうにんの許可を得る。準備は整った。


聖杖せいじょうよ、その力を我とここにいる皆に示せ! 『属性反転ターン・オーバー』!」


 私の呪文に杖が反応し、私とレイア、ヴァンパイア達に光が包み込む。彼らはまぶしさに一瞬目を閉じるが、光はすぐに消え去り、再び目を開ける。


「これでほぼ終わった。あとは私の腕から血を吸ってもらえば完了だ」


 私は目の前のシルヴィアから順に、血を吸ってもらう事にする。彼女が腕にみつき、血を吸った後に驚く。


「おお!!! 身体から力があふれるのを感じられるぞ!! これは素晴らしい!」


 シルヴィアは心からの歓喜の声をらし、恍惚こうこつの表情を見せる。彼女は配下達に指示し、一人ずつ私の腕から血を吸わせていく。




 しばしの時が過ぎ、彼ら全員私から血を吸い終えた。彼らは自らの変化を感じ取り、驚きと歓喜の声を上げている。


「これでもう教えてもらった弱点は平気になったはずだ。シルヴィアさん、ちょっと失礼」


 私は両手にファイアーボールとウォーターボールを出し、シルヴィアに当てる。着弾するが、どちらも服にすらダメージを与えることなく消滅する。


「何と!」


 驚くシルヴィア達に、今度は土魔法と錬金術で銀のくいを作り出し、シルヴィアに当てるが、着弾しても傷一つつかずくだけ散る。


 すべてのヴァンパイア達が驚き、言葉も出ずにいる。


「まあ、他のはやらなくてもいいでしょ。これだけやればいいよな?」


 私の問いにシルヴィアはうなずいてくれる。ヴァンパイア達の様子を見てレイアは微笑ほほえんでいる。


「よし、これで一つ片付いた。レイア、あとは強化だな」


「そうじゃな。それにしてもすごいのう、タクト」


「これはレイアでもできるからな。ただ、また腕が無くなるのは勘弁かんべんだったから……」


 その時、私とレイアのやり取りを見ていたシルヴィアが割り込んで話し出す。


「弱点の事は感謝します。しかし、我々は、しゅとする人間の血を確保したい!」


 シルヴィアの願いにレイアが困った顔をする。


「どうするタクト? これでは話が進まぬのう」


「そうだなぁ。人間のつては無いからなあ」


 私は少し考え、ある事を思いつく。


「そうだ、巨人族ならどうだ?」


 私の提案にシルヴィアは少し驚いてから答える。


「そうだな。人間の巨人なら文句はない」


「そうか、それは助かる」


 私はシルヴィアの承認しょうにんを得て、早速さっそく二人の巨人族の召喚に取りかかる。


「レイア、ストーン・ジャイアントを一人召喚してもらえるかな?」


「よかろう」


 レイアは呪文を唱え始める。私も召喚術を準備する。


「いでよ! フロスト・ジャイアント!」


 ヴァンパイア達の後に大きな魔法陣が現れ、立ち上る光と共に巨大な影が出現する。白い肌をした筋肉質の巨人が現れる。身長は十メートルはあろうかという大きさだ。


 レイアも召喚術を発動し、巨人を出現させる。細めだが筋肉質の十メートルはある巨人が現れる。皮膚は灰色だがつややかだ。対照たいしょう的に顔はせ、黒い目はうつろに見える。


「これでよいか、タクト」


「ありがとうレイア。助かったよ」


 私は巨人とヴァンパイア達にこれまでの魔物達に話したのと同じ説明をする。彼らは耳をかたむけ、同意してくれる。


「お腹がすいたら巨人の血を吸ってくれるといい」


 私の言葉にヴァンパイア達がうなずく。


「ジャイアントにはわらわの配下から食糧を調達させる。それをしょくすとよい」


「了解した。存分にやらせてもらうぞ」


 二人の巨人族も承諾しょうだくしてくれる。これですべてがまとまった。シルヴィアがレイアと私の前にひざまずき頭を下げる。


「魔王様、タクト殿。私の申し出をすべて聞き入れてくれて感謝します。これより我々は魔王様と国の為、力となりましょう!」


「よくぞ申してくれた、吸血鬼女王ヴァンパイア・クイーンシルヴィア。期待しておる」


 レイアはひざまずいていたシルヴィアの手を取り、立ち上がらせる。絆をさらに強くした二人の姿はまぶしく映った。


「よし、じゃあ早速さっそく始めてもらうかな」


 私は彼らに訓練開始の合図をする。ヴァンパイア達は一斉いっせいに巨人に飛びつき、攻撃を開始する。


 私とレイアは顔を見合わせ微笑ほほえみ、彼らの様子をしばらくながめる事にする。私の構想していたアンデッド達の強化計画は一通ひととおり種をまき終え、あとは成長を見守るだけとなる。


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