第20話 「魔物再生の儀式」

「タクトよ、少し休んだら、復活の儀式を始めようと思うぞ」


 レイアが私の目を見つめて言う。いよいよやるのか。失った魔族達の復活を。


「わかった。私で手伝えることはやらせてもらう」


「うむ。よろしく頼む」


 レイアは私の目を見ながら言うと、起き上がり、着衣を始める。私も一緒に着衣を始める事にした。


 それから一刻ほどして、私達は魔王の間へ移動し、儀式の準備を始める。静まり返った部屋に、灯りをともす。


「では早速さっそく始めよう」


 レイアが部屋の中央に位置し、呪文を唱え始める。床に巨大な魔法陣が現れ、部屋中に瘴気しょうきが充満する。


「わが盟約めいやくに従い、その肉体と魂をよみがえらせよ!」


 レイアの叫びと共に、魔法陣から光がき上がり、部屋中に禍々まがまがしい力が満ちていく。レイアによって呼び戻された魔物の肉体が次々に浮かび上がってくる。部屋だけでなく、廊下やほかの部屋にも魔物の姿が浮かび上がる。どうやら成功したようである。


「ふぅ、とりあえず成功したようじゃ」


 レイアの言葉とともに、おおっていた光が消滅していく。よみがえった魔物達はそれぞれ、己の肉体を確認しているようである。


「すごいなレイア! おめでとう!」


 私は奇跡を見せてもらい、興奮してレイアをねぎらう。


「いや、まだじゃ。少し力を補給せねばのう」


「え!?」


 補給とはどういうことなのだろうか? 復活できる魔物の数に限界がある可能性は理解できるが、補給?


「そうじゃ。タクト、お願いできるか?」


「私は何をすれば?」


 レイアの言葉の意味が理解できず、思わずたずねてしまう。


「これじゃ、これ!」


 レイアは口を丸くしてキスの要求をしているようである。口を指さしているから、そうなのだろう。


「キス、すればいいのか?」


 私はそう言って、ゆっくりとレイアに近づく。待ちきれないのか、レイアが私に近づき、抱き着いて口づけしようとする。


「頂くぞよ」


 レイアはそう言うと、私に口づけし、吸引する。私は魔力が抜けるのを感じ取った。それでようやく補給の意味を理解する。だが、脱力するほどではなく、むしろ心地いい感覚を味わう。


 十秒ほどして、満足したのか、レイアが唇を離す。その表情は少し赤らみ、恍惚感こうこつかんをほんのりただよわせている。


「感謝する。では、二度目を始めるとしよう」


 そう言って、レイアは再び儀式を始め、魔物達をよみがえらせる。このやり取りがあと二度ほど行われた。


 最後のやり取りを終えると、少し疲れを感じはしたが、無事全ての失った魔物をよみがえらせることができたようだ。


「よし、これで全てじゃ。タクトよ、礼を申すぞ」


「お役に立ててよかったよ。どのくらいの魔物が復活したんだ?」


「数にして一万程度かのう。戦力としては少ないかもしれぬが」


 私がイグノール達と共に倒した数よりははるかに多い。ほかの原因で死滅した魔物も復活させたのだろう。


「タクトよ、わらわの世話をしていた者達を紹介しよう」


 レイアが近くに控えている魔物達の紹介をしてくれるようだ。


「この者達はわらわの生活の世話をしているサキュバスのメイド共じゃ」


 そこには十人のメイドが並んでいる。彼女達は私を見ると、一斉いっせいにお辞儀じぎしてくれた。その手前には六本腕の悪魔らしき者がいる。


「そしてこやつはわらわの使い魔、地獄の使いのアシュレじゃ」


 紹介された彼は私を一瞥いちべつし、丁重ていちょうにお辞儀じぎする。甲冑かっちゅう姿に左右腰に二本、背中にも左右一本ずつ刀をたずさえている。


「タクト=ヒビキです。よろしくお願いします」


 私も紹介された魔物達に丁寧ていねいに頭を下げる。レイアが私のそばに来て、紹介してくれる。


「わらわの夫となったタクトじゃ。わらわ同様、世話するのじゃ」


 使い魔とメイド達は一瞬硬直し、変な雰囲気ふんいきになるが、改めて深々と頭を下げる。それは驚くよな。いい反応である。


 レイアはモニターを出現させ、国中くにじゅうにテレパシーを発信する。


「皆の者! 魔王クライスラインじゃ。皆の者を再生させるのが遅くなってしまい、すまぬ。わらわは一度人間の勇者に屈しかけたが、こうして復活することができた。

失ったそなた達も、今わらわが再生させた。これより魔王国を再建し、きたる戦いに備える所存じゃ!」


 レイアの演説に、魔物達は声を上げる。


「そしてこの人間がわらわの夫となったタクトと申す。皆の者、今後はわらわ同様、この者もお主達の主となる。共に力をたずさえ、国を盛り上げていくのじゃ」


 突然の衝撃発言に声を上げていた魔物達が静まり返る。魔王が乱心されたのかと思う者多数だろう。だが、魔物達に拒否権などない。受け入れるしかなかった。


 呆然ぼうぜんとする魔物達を気にすることなく、レイアは続ける。


「先日宣戦布告をしてきたリオリス魔王国に対抗するため、皆の者、わらわに力を貸すのじゃ! この戦い、必ずや勝利するものぞ!」


 レイアの力強い演説に、静まり返った魔物達が再び一斉いっせいに声を上げ、士気を高めるのであった。


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