トラウマ抱えた冴えない男は、異世界で魔王を妻にします
ワスレナ
プロローグ 「遠き日の記憶」
「フン、誰があんたなんかと!嫌いよ!!」
今でも忘れた頃に思い出すことがある。
私はタクト=ヒビヤ。25歳。
中小企業のサラリーマンで、
容姿も性格も、特に良いところもない冴えない男。
周囲からの人望もなく、友達もいない。
私がこんな人間になってしまったあの日の出来事。
それは中学二年の頃にまで遡る。
私には好きな女の子がいた。
進級で同じクラスになった女の子の一人である。
口下手で内気な私は、気恥ずかしくて彼女に声をかけることができずにに過ごしていたが、彼女の外見や笑顔、学校での振る舞いなどが可愛くて、彼女の事を目で追い、気が付くと好きになっていた。
私は陰で彼女の行動パターンや交友関係、好き嫌いなど、色々下調べをした。
また、彼女の友達に勇気を振り絞って彼女の情報を聞いたりもした。
自分で言うのも何だが、
私のどこにあのような情熱と根性があったのか、未だ持って全くの謎である。
それでもずっと思い悩み、心の中に秘めたまま時間だけが過ぎ去っていった。
このままではいけないと私は決意し、告白することにした。
ある秋の夕暮れ時、彼女が一人になるタイミングを見計らって、私は声をかけた。
ドキドキが止まらない。全身がすごく震える感覚。
それでも彼女の名前を必死に声に出した。
彼女が声に気づき、私の方を振り返る。
しばしの沈黙が流れる。
私は普段なら絶対尻込みするところを、死ぬほど勇気を奮った。
「実は…あの…ずっと好きでした!僕と付き合ってください!」
頭の中が真っ白になる。
多分もうこれ以上ないくらい必死だった。
変な達成感すら感じた。まだ始まりさえしていないのに。
5秒ほどの沈黙が流れる。
しかし私にとってはとても長く感じられた。
彼女は顔をしかめ、鋭い視線を向けて私に答える。
「フン、誰があんたなんかと!嫌いよ!!」
一瞬時が止まる。頭の中で彼女の言葉が何度も反響する。
私は茫然自失に陥り、目の前が真っ暗になった。
彼女は向き直り、去っていった。
彼女の表情が頭に焼き付いて離れなかった。
気が付くと、その場にへたれこんで起き上がれずにいた。
その日はどうやって帰ったかすら思い出せない。
次の日から私は女性不振に陥り、全く女性を見る事すらできなくなってしまった。
あれから11年。
私は社会人として生活している。
長年の努力の甲斐あって、女性とも仕事の話なら会話することができるようになった。
雑談は苦手だが、何気ない会話なら何とかできるまでになった。
だが、親しい間柄になろうとすると、
あの時の記憶が蘇り、前に踏み出すことができない。
遠き日の記憶は、私の心に深い楔を打ち込んだままである。
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