第48話 悲壮・北条氏政出陣!!

 1570年10月2日


 小田原城内


 北条氏政

『出陣後で良かったな。。。

 あんな砲撃を見たら、たちまち兵の士気が下がってしまう。それにしてもでかい。それが16隻とは。。

 特に真ん中の"化物戦船"は島では無いか!あれ程巨大な鉄の塊が何故、海に浮くのか?我には遠く及ばない知識と技術を持るのだな。。

 だが流石に本厚木までは砲撃も届くまい。いや、そう信じるしかない。数で断然有利なのだ、瀬谷を取り戻し押し返すのみ。その為なら我の命など惜しくは無い。。。』


 *****


 少しだけ時間を戻します。


 綱成が幻庵の久野屋敷に向かって直ぐに、綱成に次ぐ重臣・松田憲秀が小田原城に着陣した。


 北条氏政

「おお待っておったぞ憲秀!既に3万5千集結しておる。

 御主には瀬谷方面奪還の先鋒となって、その兵を率い出陣して貰いたい!」


 松田憲秀

「殿!武蔵国多摩方面にて相次ぐ討ち死に。氏照様まで行方知れずと聞き、急ぎ苅野庄にて小田原勢を纏め駆け付けた次第!

 此度、兵の集結が早い様子なのは不幸中の幸いにて、陣触れが出てる以上、勿論先鋒として出陣致しまする。

 "名代"様からは何か御指示は出ておりまするか?」


「つい今しがた幻庵様の屋敷へ会談に向かった。

 その"名代"様が、軍勢整い次第、急ぎ2万でも良いから瀬谷に先鋒を送るようにと。

 幸い今3万5千もおる。城の守備は常駐の小田原兵1千で事足りる。

 下田からも船で2千が此方に向かっておる故、3万5千全て持っていってくれ。」


「う~む。。。まだまだ兵は集まるでしょうが、あまり大軍過ぎても兵糧の問題もあり速度が鈍りまする。

 自国内にて乱取りは出来ませぬ故。

 小田原守備兵として5千は残し、先ずは3万で瀬谷に向かいましょう。」


「おおそうか!それでこそ勇猛果敢な松田憲秀じゃ!

 帝をとして確保し、江戸幕府を騙る天下の大悪人"織田信長"が首級、この小田原城へ持って参れ!!」


「はっ承知致しました!では御免!!」


 病床に伏せる前当主・氏康の嫡男であり、4代目当主・北条氏政。

 織田軍が瀬谷どころか、本厚木にまで侵攻している情報は当然入っていた。


 だからこそ先ずは、本厚木に8千にて布陣する敵方陣地を抜き、座間・磯部と各個撃破し北上。

 深見城を再度奪い返し、織田軍を境川に叩き落とす。

 敵より多い3万の軍勢に、猛将松田憲秀の指揮なら可能と判断したのである。


 氏政とて凡人では無い。

 空から"空爆"の可能性を懸念はしていたが、集まった兵の士気が落ちぬうちに出陣させる事を優先した。


 *****


 氏政

『今回総動員令を発令し、恩賞の玄米も今迄の5割増しで出している。

 それもあり兵の集まりが順調に伸びておる。この様子なら今日中に、目標の8万に届くであろう。


 磯子は綱成殿・玉縄衆の最強部隊が牽制している。氏規北条に板部岡江雪斎を付け、援軍として1万を持たせるか。

 攻め返す必要は無い。

 守備に徹し、あの方面から相模国に入るのだけは阻止してもらう。


 問題は権太坂を出て南下してくる敵の本隊3万5千に、鎌倉を砲撃した平塚沖の"東京ドーム"。。。

 大導寺政繁・松田康郷を連れ、氏政自らが3万5千で出陣する他あるまい。

 北条家第四代当主の我が対峙すれば、隙を見せる事となる玉縄城への攻撃も躊躇するであろう。

 浮島からの砲撃を避ける唯一の方法は、敵本隊との乱戦しかない。寒川から相模川を渡り敵本陣へ雪崩れ込む。

 まさか多くの味方が入り交じる戦場、ましてや信長の弟が大将を勤める本陣に、大筒は撃てぬであろう。

 その間に本厚木さえ抜ければ一気に情勢はひっくり返る。』


 兵の総数に大差は無い。

 それに本厚木は味方が4倍近く多い兵数で、しかも野戦。

 挟撃の恐れがある藤沢の敵本隊には、北条家4代目当主・氏政自らが出陣し、(松田の赤鬼)松田康郷等の精鋭を当てる。

 氏政なりの分析ではあった。


 *****


 尾張3号艦隊・艦砲射撃から20分後


 小田原兵士

「御一報!小田原城前3万人集まり、まだ参戦の列が続いております!!」


 氏政

「よし、時は熟した!これから我が指揮を取り、先ずは3万で平塚へ向かう!残り5千、集結次第平塚へ行軍させろ。

 氏規!江雪斎!

 名代殿北条綱成が幻庵様の屋敷より戻ったら、小田原城の守備を任すと伝えてくれ!出陣じゃ~!!」


 北条氏規・板部岡江雪斎

「御武運を!!!」


 *****


 北条氏政

『風魔の調べで敵の配置は把握できている。先程の巨大鉄船の砲撃にて籠城に意味が無い事が分かった。

 小田原城内で手をこまねいていても、砲撃が続けば集結した兵達も散って行くだろう。

 空爆の懸念、平塚などは東京ドームの弾も届く。

 だが何れにしろ今うてる最善の手は、北条家当主の我が自ら出るしかあるまい。

 それで兵の士気が保たれるのならば、この命捧げるまでだ。』


 *****


 北条綱成

「何だと!当主・氏政殿、自ら出たと申すか!!」


 北条氏規(25歳)

「はっ!名代殿に小田原城の守備を任せるとの言伝てにて。」


 綱成

「平塚で敵の本隊と対峙するつもりか。。。」


 板部岡江雪斎(33歳)

「出陣理由は、あの鉄船の砲撃に御座いましょう。たった3発でご覧の通り南側城壁が消滅しました。

 今は何故か沈黙しておりまするが、あれを本丸に撃たれれば落城必然。此方の様子を高みの見物しておるのかと。。」


 綱成

「ああ、そうだろうな。

 故に幻庵様とも協議した結果、北条の兵士・民の命を守るため"幕府軍"に降りることもやむを得ずとの結論に至った。。。」


 北条氏邦(22歳)

「はっ?名代殿!"矛先"も交えず降伏するのですか?」


「氏邦よ。。"矛先"とは何だ?言うてみよ。」


「むっ。槍の矛先でございま。。」


「届くのか!!!槍が!あの鉄船に!そして空飛ぶ鉄箱に!届くのかーーー!!」


「ぐぬぅ。。。」


「悔しいのはお主だけではない。わしとて同じ事だ。

 江雪斎が言うたように、あの砲撃を本丸に撃たれれば終いだ。

 兵の士気が高いうちに出るのも分かる、だがな氏政殿が向かったのは平塚。。東京ドームの弾も届く。

 殿はそれを承知で出陣したのであろう。。。」


 氏規・氏邦

「「兄上。。。。。」」


「わしは氏政殿を何としても救いたい。これからの北条を引っ張って貰うには氏政殿が必要なのだ!

 あの若さで死んではならぬ。しかも砲撃で等と。。。

 その為にこれから大殿と話をして、わしの考えを聞いてもらう。

 病の大殿がどこまで意思表示が可能か分からぬゆえ、氏規・氏邦も一緒に来てくれ。」


「「はっ!参りましょう。」」


「江雪斎、しばらく城の指揮を頼む。」


 江雪斎

「それは構いませぬが名代殿。。。

 もしや織田に御自身の首級を。。。」


 氏規・氏邦

「「はっ!!・えっ!!」」


 綱成

「。。。よい、頼んだぞ。では参ろうか。」


 **********


 1570年10月2日 15:00


 相模玉縄城・城主・北条綱成

 嫡男・北条氏繁(34歳)


 織田軍本隊3万5千が権太坂を出て南下してくると風魔乱波からの報告を受け、やむ無く長尾城を放棄して玉縄城に戻って来た。


「おかしい。。あれほど盛んに敵・味方の状況を知らせてくれた風魔衆が、織田本隊南下の報告の後は1人として姿を見せぬ様になった。

 日向!父上から鳩にて何ぞ知らせは無いか!」


「はっ!先ほど鳩舎番に確認しましたが皆無であります。

 報せがあれば直ぐに伝えに来るよう、申し伝えておりまする。」


「左様か。。わしの思い違いであれば良いのだが、何やら胸騒ぎがする。。城兵5千に今一度気を緩めるなと申し伝えよ。」


「はっ!」


『磯子に1万、権太坂から3万5千の本隊、後詰めも5千おると聞いている。総数5万か。。。

 小田原からの鳩にて、氏規様に板部岡江雪斎殿の1万が援軍に入るものの、

 1万5千では攻めに転じるのは困難。。。

 ここは小田原の指示通り守りに徹するしか無いか。』


 権太坂から藤沢方面への大軍の移動により、磯子の敵軍を捨て置き、玉縄城に閉じ込められる形となった北条氏繁。

 北条氏規1万の援軍を待ち、籠城策を取る決心を固めたのだが。。

 物見櫓から凶報が入った。

「御一報!!織田木瓜の旗印の大軍が、騎馬より遥かに速い鉄の箱に乗り、白幡神社に続々と到着しております!!」


「なんだと!!権太坂を出てから四半刻(30分)も経ってないでは無いか!」


 自らも物見櫓に立ち、藤沢方面を見る氏繁だったが

「あれは一体なんだ、、空飛ぶ鉄の箱、砲撃する浮島、そして今度は馬より速い鉄の箱、、

 わし等は誰と、いや何と戦っておるのだ、、、」


 北条氏規1万の援軍が到着するのを阻む位置に、織田信興中納言の軍勢3万5千が陣形を整えている最中だった。

 軍用トラックによる高速移動で、現代より狭い旧東海道を爆走。

 武具着用の徒歩だと4時間近くかかる行程を、僅か15分足らずで走破してきたのだ。


 しかしそこで、信長すら想定外の事が起こった。


 氏繁

「これで孤立無援か。。。

 だからどうした!玉縄衆の意地を見せてやる。

 日向討って出るぞ!!

 このままでは磯子からの軍勢との挟撃で城は落ちる。。

 小田原の御味方も浮島からの砲撃に痛め付けられ、敵本陣の大軍を抜くのは叶わぬであろう。兵をまとめろ!わしが先陣じゃ付いて参れ!!」


「はっ!地獄の果てまで御供つかまつります!!」


 **********


 織田信興

「絶好の位置に陣を敷けたな。

 敵が水深のある相模川河口付近を渡るのは不可能。

 ドームの砲撃で爆死か溺死だ。

 寒川辺りの狭所を渡河し南下してくる。

 北側にAPC9部隊5千と戦車を配置!その後続は織田陸軍1万だ。」


 蒲生賢秀

「はっ!直ちに。

 中納言様、玉縄城への抑えは如何なる陣容になさいますか?」


「西に我等、東に磯子の細川隊。

 屈強な玉縄衆と言えど籠城するしかなかろう。

 賢秀の5千にAPC9残り半数の1,000!総数6千で陣を敷け。」


「はっ!北側1万5千、玉縄抑えに6千!直ちに陣形整えまする。」


「うむ賢秀、無理をするでないぞ。

 今宵は焼肉をせよと兄上からマジックリュックを預かっておるでな。」


「それは楽しみですな!では御免!!」


 まさかこれが元六角家重臣・蒲生賢秀との最後の会話になるとは、織田信興中納言、一生悔いる事になる。。。


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