あの時の視線の意味を教えて

Wildvogel

第一話 家電量販店で

 六年ほど前の休日、僕は家電量販店を訪れ、CD売り場へと向かっていた。


 その途中、一人の女性の顔が僕の目に映った。


 見覚えのある女性。


 顔見知り。いや、それ以上。


 小学校時代からの友人。そして、僕が中学校まで好意を寄せていた女性。懐かしい顔だった。


 中学校卒業と同時に彼女のことを諦めた僕。


 その女性はその時既に既婚者。当然、旦那さんがいる。そして、子どもがいるという話を聞いた。


 別に、それに関してはショックではなかった。


 既に諦めているのだから。

 

 情のようなものは一ミリたりとも残っていなかった。もう彼女のことは完全に忘れようとしていた時だった。


 その時に彼女が現れた。



 僕が歩を進めるにしたがって、彼女との距離が近くなる。


 彼女の視線ははっきりと受けて取れた。


 話し掛けようか…。


 そう思った。



 しかし、僕は気付かぬふりをするように、そのまま通り過ぎた。同時に、玩具売り場にいたと思われる一人の男性が彼女の元へ。


 彼は…。



 僕は振り向くことなく歩を進め、CD売り場へと入った。



 彼女から受けた視線の感覚が心に残ったまま。

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