異世界の伝承編纂師の妻になりまして

あおいひ工房

異世界に来てしまいまして

 異世界での生活が始まって、いまだに不思議なことだらけだ。


 何より、私の夫は「伝承編纂師」という、この世界ではそれなりに名の知れた職業についている。

 

 異世界なんだから、もっとこう、王宮に仕える騎士殿だとか、魔術師だとか、魔王を倒す勇者だとか、そんなわかりやすい仕事かと思っていた。

 最初に彼の職業を聞いたときには、頭の中に「?」がたくさん浮かんだのをよく覚えている。

 伝承編纂師って、いったい何をするのかさっぱりわからなかった。

 どうやら、夫の仕事を簡単に言うと、この世界に根付いた昔話や神話、伝説なんかをまとめて物語に仕立て、次の世代へ伝えることらしい。

 伝承や言い伝えは、この世界の人々の生活に深く根ざしているらしく、それはそれで大切な仕事らしい。

 英語に直すとLegendary Archivist、レジェンダリー・アーカイビスト……なの、か?

 何だか響きはかっこいいけれど、やっぱりしっくりこない部分もある。


 ともかく、夫はそんな伝承編纂師として、毎日熱心に資料を集めたり、現地を訪れて聞き込みをしたりしている。

 けれどどうにも抜けているところがあって、しょっちゅう資料をどこかに置き忘れたり、帰りが遅くなることも少なくない。

 この間なんて、考えごとをしながら帰ろうとしてうっかり分かれ道を間違え、見知らぬ場所で迷子になってしまったらしく、最終的に王国の近衛兵に送り届けられた、というすっとこどっこいな出来事もあった。

 そんな夫を見ていると、伝承編纂師という仕事も、随分のんびりしているものだなと思ってしまう。


 私自身、元の世界では接客業をしていたので、物語を作り出す仕事にはまったく縁がなかった。

 でも接客で培ったコミュニケーション能力のおかげか、どうやらこの異世界でも、人に話を聞き出すのが私の仕事になっている。

 夫が熱心に資料を集めている横で、私は地元の人たちとあれこれ会話をし、話をつなげ、時には笑い合いながら、彼が聞き出せないような些細な話や伝承の断片を掘り出している。

 少しは役に立っているのだろうかと、ふと思うこともある。


 そんなわけで、これから異世界での暮らしや、伝承編纂師である夫との日常を、少しずつ書き留めていこうと思う。

 驚くことも、笑ってしまうことも、毎日のように山ほど転がっているから。

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2024年11月1日 12:00
2024年11月2日 12:00

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