第2話

小学校から高校までは名のある学校に通った。


 交遊関係は良好、学業の成績もそれなりに。友人からクラスメイト、教師まで全てを監視される中で、良好以外の関係が築けるはずもなかった。



 高校を卒業した彼女は本格的に仕事を始めることとなる。


 17歳までは映像のみを提供する仕事だったが、18歳からは間近で鑑賞をされた。勿論、対価を支払われた上で。


 鑑賞が許されるのは財界、政界、名家、大企業、汚い世界の重鎮まで。



 20歳になった高良惟たからゆいはその世界で、"桜風鳴おうふうめい"という源氏名で呼ばれていた。



「これより"桜風鳴"をご覧いただきます。くれぐれもお手は触れませぬよう。」



 黒髪を綺麗に整え、深いネイビーのスーツを着こなした青年ことはやてがマニュアル通りの言葉を連ねる。それを合図に、周りに立つスーツ姿の男らが一斉に手を後ろで組んだ。



 すると青年により開かれた襖の中からは、ブラウンの髪を後ろで束ね、色打掛いろうちかけを着た"桜風鳴"ことゆいが現れた。



 惟が鼻で溜め息を吐き、畳のヘリを堂々と踏み込むと、颯は彼女から視線を外し目を細めた。


 惟が躊躇いなく羽織の打掛を肩から落とし、襦袢じゅばん姿となる。


 着物が擦れる音に息を呑む重鎮たち。



 彼女が背を向け無造作に襦袢を脱ぎ捨てると、中からは赤い桜が舞う刺青いれずみが表れた。



「なんと壮大な....これ程までの刺青は初めてみた!」

「さすが人間国宝 吟鳴ぎんめい先生の作品!」

「ああ、吟鳴先生の"隠し文化財"に出会えて幸せだわ。これで安心してあの世にいける。」



 惟の華奢な白い背中に描かれた刺青、

作品名『散り桜』。


 地に根付いた一本の老木から、無数の赤い花弁が、老木の周りを囲うようにして舞っている。



 繊細且豪快にも描かれたこの刺青は、惟という余生を知らない少女の背に彫られることで、更なる芸術性を際立たせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る