第43話

しかし瑞凪様が「では、」と切り出した瞬間、茂倫さんがすぐに言葉を被せてきた。



「今回こちらの友好国になりたいという申し出に、わざわざ話合いの場を設けるということは、何かうちと関係を躊躇う理由でもあるんですかね?」


「···単に友好関係と言われても、何のために関係を結ぶのかを知るのは、当然のことかと。」


「ふむ。確かに。でもこの国は今や財政難に陥っています。うちと関係を結び貿易を盛んに行えば、繁栄させるのは至極簡単なことだと思いますけど?」


「···では、貿易の際に、そちらがこの国に求めるものとは一体何なのでしょう?見ての通り、もううちには貿易を盛んに行えるほどの品は、ありません。」



 話す隙を与えようとしない茂倫さんに、直球ストレートを投げていった瑞凪様。私だったら絶対に、木々を伐採したことを問い詰めて、嫌味を言ってしまうだろう。



 「なんか瑞凪様、昔と変わった」とポツリと呟いた冴霧さん。


 心の声が駄々洩れな冴霧さんに、皇族に対して失礼な人だな、でもイケメンだから仕方ないか、と勝手に自己解決する私。

 


 すると茂倫さんが、細い目をさらに吊り上げるようにして笑いかける。



「いやいやご謙遜を。この国には素晴らしい財産があるじゃないですか!」


「···はあ。」


「書物という財産が。」



 智彗様が小さな肩が、ピクリと動くのがわかった。


 皇帝である智彗様が、一番に財産と認める書物を持ち出してくるなんて、さすが茂倫さん、よくこの国のことを調べている。



「実は最近、うちは別大陸との貿易を始めましてね、南洲と亜怜音なんですけど。」



 亜怜音だけじゃなく、南洲大陸とも貿易を始めたんだ!それって全部鉱山のお陰じゃない?



「それで南洲から聞いた話なんですがね、この幌天安には何でも、"武器の生成術"を取り扱う書物があるとか。」


「!!」



 それって禁書のことだ!



 両隣に座る智彗様と瑞凪様から、緊張感が伝わってくる。


 禁書はご先祖様たちが戦の度に集めてきたものだと智彗様が言っていたが、もしかして大昔に南洲大陸から持ち出したものだったのだろうか?



「ご存じの通り、うちは武器を売っておりましてね、その生成術の書物を貸して頂ければ、武器の大量生産ができるというわけなんですよ!」



 急に茂倫さんが手の内を見せてきたが、まさか禁書を持ち出されるとは思わず、瑞凪様は無言になってしまい、戸惑っている様子だ。

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