第19話

「いつ幌天安が攻め入られてもいいように、常に兵を配備しておきますし、西絽だけではなく他の国から攻め入られた際でも力を貸しますよ?」


「······」



 考え込むように顎に手を置く瑞凪様だが、聞くに堪えなくなった私は、つい口を挟んでしまう。



「あの、お言葉ですが、この国は今まで平和だけを望んできたんです。いきなり交戦中の国に領地を貸すなんて、民を危険に晒す様な真似はできません!」



 私はすぐに同意を求めるように瑞凪様を見た。



「ほう?では、交渉決裂、ということですかな??」



 志成さんが落ち着きを払い、嘲笑うかのような顔を私たちに向ける。


 "決裂"となれば、無理矢理武力で、ということになっちゃうの···?!



 でも瑞凪様は変わらず考え込んだままだ。領地を貸しても貸さなくても危うい状況だから、瑞凪様も慎重に言葉を選んでいるのだろう。



 勇者として派遣されてしまった私が何とかしないと!



「志成さん、私は領地を貸すのが嫌というよりも、それだけの危険を背負う覚悟が幌天安に強いられるということを理解してもらいたいんです!」


「····は?····」


「はっきり言って元々必要のないはずの武力を貸してもらっても、こっちにとっては何の利益にもなりません!」



 机に手をつき、身を乗り出す様にして志成さんに告げるも、 表情も崩さず特に響いてないようだ。



 智彗様をチラリと見ると、困った顔で見返された。心の中で一言智彗様に「ごめん」と告げると、今度はこっちから志成さんに交渉を持ちかけた。



「つまり、領地を貸すにあたり、こちらの差し出す条件を呑んでもらいたいんです!」


「····」



 志成さんの表情が少し歪んだ気がした。


 両隣から、「「え」」と驚きの声が上がるも、もう私の中では決まっている。どうせどちらに転んでも危険な状況になるのであれば、交渉に応じた方がいい。



「瑞凪様、この国で民が住んでいない地域はどこにありますか?」



 瑞凪様が志成さんが出してくれた地図を私に見せる。



「···この国は山脈に囲まれている。北の山脈であれば、麓にも住民はいないはずだ。」


「では、領地として、一番北の山を一つお貸しします。その代わり、山の賃貸料を頂きたいのと、この宮廷の修繕をお願いしたいのです!」



 眉間にしわが集まり、私をギッと睨む志成さん。オジサンの威圧に一瞬怯むも、ここで負けたらこの先もずっと他国に足元を見られ続けるかもしれないと、私も真剣な表情で見返した。


 幌天安超チョロいって噂がさらに広まれば、本当に潰れてしまう!



「···この国のいらない山に賃料を払うなど、」

「瀬里、君はいくらでその山を貸してくれるというんだい?」



 ずっと退屈そうに聞いていた俊恵さんが、ここにきて口を開いた。

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