第12話

宇汾さんが謁見の間を出ていくと、智彗様と瑞凪様が「はあー」と深すぎる溜め息をつき、一気に姿勢を崩す。



「え?···どうしたの??」



 私が王座の方に近付くと、智彗様が「あはは」と困ったように眉を下げた。



「実は···うちには、専属医がいないのです···ははは。」


「え、エエエエーっッ?!!」



 い、いない···?!この国の医療形態はわからないけど、宇汾さんはいると思ってここに来たんだよね?!



「いや、だって瑞凪様、「専属医には自分から話す」って言ってたじゃん!!」



 瑞凪様が眼鏡を取り袖でレンズを拭うと、再びかけて言った。



「···実は、専属医は二月ほど前に老衰で亡くなってな···。それから専属医を雇っていないんだ。」


「なっ!じゃあなんであんなこと言って、」


「皇族が新たな専属医を雇えないと知られるのは···さすがに民たちに不安を与えてしまうやもしれん···。」



 ····いないって、なんだそれ。。


 2人は皇族にも関わらず"寛大な心の持ち主"だと、私の熱くなった想いを今すぐ返してほしい!!



「それならどうするの?!今、宇汾さんは2人を信じて待ってるのに!」


「う、う~ん···。隣国の診療所に頼みにいくにも日数も費用もかかりますし、」


「···それか隣国に文を出すか。」



 なんとなくだけど、また不利な交渉持ちかけられるのがオチな気もする。。それより宇汾さんには何て説明するのか···。



 私はいてもたってもいられず、王座に立つ智彗様の手を引いた。



「智彗様!とにかく今は私たちにできることをやるよ!!」


「えっ···ええ?!」



 私は焦る従者を尻目に、智彗様をそのまま書庫まで引いていった。



 本が床に積まれた書庫を見る度、整理したい気持ちが沸き上がるが、今はそれどころじゃない。



「智彗様!!医学書はどこ?!」


「え?!」


「ほら早く、病の原因探るよ!!」


「あっ、は、はいっ!」



 小さな身体を捩らせ、床の本を避けていく智彗様。後から入ってきた瑞凪様が、「···皇帝が命ぜられてる」と呟いたが、私はお構いなしに瑞凪様も一緒に探すよう促した。



「あった、ありました!これですこれ!!」



 なかなかしっかりと分厚いハードカバーのものだったが、黒い表紙に白文字のタイトルで、思っていたよりも地味な本だ。


 私は、床に本を置き座り込んだ智彗様を上から覗きこんだ。



「···医学書っていうくらいだから"派遣術の書"みたいにもっと派手な表紙だと思ってたな。」 



 勾玉の差し絵がついていた"派遣術の書"は、金縁がついた真っ赤な表紙だったはず。



「"派遣術の書"のような術書は、実は禁書に指定されているものでして、皇族しか使用することができないものなんです。」


「へえ~。」


「だからあえて派手な表紙になっているだけで、他の書は至って地味なものばかりですよ?」



 地味だらけな中から、よくその医学書を探し出せたな。


 そう思っていたら、医学書というのは一冊だけではないようで、瑞凪様も何冊か抱えて持って来た。



 私が2人を急かすようにして、宇汾さんの言っていた病を調べさせる。2人とも真面目に医学書を読んでいるが、なかなか見つからないらしい。



「···紫のアザができると言っていたが、主に怪我や栄養失調の類ばかりだな···。」


「そうですね···。喉の痛みとアザができるという症状が一緒に現れるという病は、見当たりませんね···。」


「そんな···。」



 何もしていない私が一番落胆していると、智彗様が「そうだ」と気付いたように声を上げた。

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