第48話

「じゃあまた来週。ちゃんと宿題を出した記憶まで戻してきてくださいね。」


「おっけーおっけー。」



クリスマスのなんやらかんやらなんて、何もなかったかのよう。



少しでも寂しげな雰囲気でも匂わせてくれれば、私も後ろ髪引かれる思いで立ち止まることができたのに、ね。



またこうやって汚い大人は、不死原君を理由にすることばかりを考えている。



私たちの差は10というキリのいい数字だけでは片付けられない。



せめて私に、バツがついてなければ良かったのに。



きっと本当の私を知っていたら、こんな風に夜誘われたり、クリスマスに誘われたりすることなんてなかったんだろうな。



むしろピアノレッスンすら断られていたかもしれない。




私がうつむき加減に「おじゃましました。」と伝えると、微かに第二のビールが香った。




「また梨添さんの注文、考えといてください。」



うん。



「何でもリクエスト、受付ますので。」 

  


うん。



て、なにそのラジオDJ風の捨て台詞。



にへら顔で笑う不死原叶純。爽やかと色気のはざまの笑顔。でもちょっとあほっぽくもあって可愛いや。


いつもと違うほろ酔いの姿に、どうにも突っ込みどころ満載でからかいたくなってしまう。



で、奇しくも後ろ髪を引かれてしまった私。




「じゃあ、不死原君にリクエストします。」


「はい、何ですか梨添さん。」



首を傾げる不死原君。


酔いに任せてあざといか。



「不死原君ののど仏を、触らせてください。」


「……え?」


「前から思ってたんだよね。柔らかそうだなあって。」


「…ちょっと、斜め上45度からきたリクエストに戸惑いを隠しきれません。」


「全然戸惑っているようには見えないよ?」



私が笑って見せると、不死原君は一瞬、本当に戸惑っているようかのように俯いた。



でも、すぐに顔を上げて、少し反らし気味になる。

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