第13話

「でも普段は君に群がる女の子が沢山いるでしょ。」


「はい、5歳~10歳の女の子とそのお母さんにはそれなりにモテてます。」


「え?それはロリコンなの?熟女好きなの?どっち?」


「心外だなあ。俺、こう見えて自宅で子供向けのピアノ教室やってるんです。」


「ええ!すごいね!」


「バイトですよバイト。お金を稼ぐために唯一の特技を惜しげもなく活用してるんです。」



彼は亡くなったおじいさんの家でピアノ教室を開いていて、週1回、月謝5000円でバイトをしているのだとか。



彼のピアノも、彼の言葉も、なんかいい。


疲れた身体と心に沁みわたる。ユンケルよりも効能がいい・・と思う頃には、自然と呟いていた。



「…私も、習いたいかも。」


「え?」


「私もピアノ、習いたい。何か趣味がほしいなって思ってたとこだし。」


「···大人のピアノ教室なら、確か駅前にありましたよね?」


「私は君に教えて欲しいって言ってるの。」



あ、さすがに初対面で警戒してる。私もなにいきなり習いたいとか言っちゃってるのか、保険を売るおばさん商法に近いじゃん。




「…でも俺、大人は教えたことはないので。。」



これはせばいける!せば。圧とおばさん逆商法を展開。



「じゃあ月に1万払う!」



最低な31歳バツイチ。



一瞬うつむいて、またすぐに私を見たピアノくん。



「…YES、と即答すれば、俺が金にがめつい男だと思いますか?」


「思わない。けど少し思うかも。」


「じゃあYESで。でも少し大人って狡いなって思いました。」


「ふふ。」



良かった。


"大人って汚い"って言われなくて。



それが不死原君との出会いでもあり、ピアノを教わることになったきっかけでもあった。

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