第9話

「あれ~?梨添さんじゃん~。梨添さんでも模擬面接とか指導してくれんの?」


桐生きりゅう君てめちゃくちゃ私を下に見てるよね。」


「んなことないって~。ただ雑用と夜のエキスパートかなって思ってただけでさー!」


「クソガキ。」


「舘松さ~ん!梨添さんが生徒に暴言吐いてまー」


「しーしー!ウソウソ冗談だって!!」



私はこんな恰好をしているせいか、生徒からはからかわれることが多い。


でもこんなやり取りもけっこう悪くない。若いエナジーに充てられるのは肌にツヤが出るというものだ。




3年生の桐生君とやり合っている間にも、キャリアセンター内の視線が一斉に入り口に集まる。


不死原君が、入ってきたのだ。


どのクソガキとも違う彼は、同級生だけでなく職員の目も奪っていく。


纏う雰囲気が落ち着いているし、何より美しいし。


今だって真っ先に26歳正職員の金本かなもとさんが彼に話しかけにいった。


谷間のチラ見せと肉を揺らす能力を発動している金本さん。いつも手札を存分に並べる姿が眩しすぎる。絶賛彼氏募集中らしい。



「…金本さんて可愛いけどガッツいてるよな~。」


「女なんて皆そんなもんでしょ。外に出た時点でミスコンに強制参加させられてるらしいから。」


「でも舘松さんと梨添さんはなんか違うよね~。」


「……」


「梨添さんなんて金本さんにも負けない派手な恰好してるのに、ね。」



それどういう意味?と聞き返すのはやめた。


それよりも今はこのクソガキの模擬面接だ。


就活は人生で初めて挫折を知る機会といってもいい。挫折を沢山経験できるよう、適当でふわっとした模擬面接を伝授してやろうじゃないの。

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